第61話 繁華街
「そろそろ、いいわね」
午前中は、街を散策した。
妓楼のある繁華街の近くに、宿をとってしまったからだろうか。街を歩いていると、何度も声をかけられた。
女子3人に声をかけてくるだけではない。イアンやユージだったり、ときにはカイト先生だったり。レインもよく見ると端正な顔つきをしているのだが、そのきれいな瞳を長い前髪の中に隠しているので、気づかれなかったのだろう。
こんな場所で、幼い頃から綺麗だったはずのカレンが、よく無事だったと思わなくもないが、その頃は精神魔法が、だだ漏れ状態なのだ。それでも、職業柄、精神魔法を防ぐ魔道具を持っている人もいるというから、運もよかったのかもしれない。
カレンが、夜とはまったく雰囲気の違う通りを、キョロキョロしながら進む。
「少し、雰囲気が変わったかしら? 昼間に来ると、変な感じね~」
そう呟きながら、ある店の前で立ち止まった。
立ち並ぶ店のなかでは、上品な外装で、大きなお店。
「こんにちは~」
カレンが、中に向かって声をかけると、パタパタと足音が聞こえた。
「はいはい。うちは、姉様の募集をしてないんですよ。他の店を当たってください」
雑巾を持ちながら現れたのは、同じくらいの年の少女だった。
「いや、働きたいんじゃなくって、ルージュ姉様か、ジュエ姉様っているかしら?」
「あら? 引き抜きはお断りです。すぐに、お帰りください」
「そんなんじゃないって。カレンって、言ったらわかるとおもうのよ」
「んもう! しつこいですね!」
少女が仁王立ちで睨み付けてくる。
「カレン~?? やっぱり、あなただったのぉ~」
少し、間延びするような、鼻にかかった声が奥から聞こえた。
「ジュエ姉様! 出てきちゃダメです」
光沢のある生地の寝巻きを、肩が見えるように着崩して、気だるそうに目を擦りながら、小さなあくびをする。
「あら? カレンなんでしょぉ~。へいきよぉ。あらぁ? こんなに、かわいい、おともだちまで、つれてぇ」
「ふふふ」と、順番に顔を覗き込んでいく。
「あら、かわいい」
イアンかユージを見て呟いたのだが、レインがニーナを背中に隠す。
「おんなのこは、とって、くったりしないわよぉ」
「ジュエ! やはり、カレンだったか??」
颯爽と現れたのは、涼しげで凛とした長身の美女。
「カレン! こんなところには、もう来てはいけないと、言ったじゃないか。昨日、カレンを見かけたって子がいたから、まさかと思っていたんだ」
カレンの目には、悲しみの色が浮かんだが、それも一瞬のこと。
「なぜかしら? 大好きなお姉さまがたに会うのが、そんなにいけないことだとは思わないわ。私だって、大きくなっているのよ。今回は、泊めてって、言わなかったでしょ。ちゃんと宿をとったわ。一人でもない。パーティメンバーをつれてきたのよ。だって、お姉さまがたには、紹介したいじゃない。大好きなお姉さまがたに、大好きなパーティメンバーを」
「大好き」「大好き」と連呼するカレンの目には、光るものが浮かんでいる。
そんなカレンの頭を優しく撫でるのは、ユージだ。ミハナも腕にしがみつくようにくっついた。
「ルージュ姉様も、ジュエ姉様も、元気そうでよかった」
「カレン、あなた、ちゃんと学校は行っているのよね。エインスワール学園に入れば、住む世界が変わるのよ」
「そんなの変わらないわ。職業の違いよ。お姉さまがたは、お姉さまがたで、自分の仕事に誇りを持ってるじゃない。とっても素敵だと思っているわ」
「そりゃ、誇りは持っているさ。これで、おまんま食ってるんだから。それと、これとは違うのよ。こんなところに出入りしていたら、あなたの評判が下がるわ」
ルージュは、ただ、ただ、カレンの心配をしているだけなのだ。
「下がるわけないじゃない。私の評判は、討伐数で、到達階層なんだから!」
「あぁ、カレン。これ」
ユージが、抱えていた大きな袋をカレンに渡した。
「これ。お店にお土産よ」
その中身を確認したとたんに、ルージュ姉様は真っ青になった。
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