第16話:異世界ロケ
「セイル君、準備はいいかい?」
監督が声をかける。
「はい。いつでもどうぞ」
星琉が答える。
王城の敷地内、騎士団の練武場の真ん中に彼は立つ。
その周囲を円状に騎士団メンバーが囲んでいた。
練武場を俯瞰出来る塔や、星琉と同じ高さの目線で見られる練武場の端4ヶ所にカメラマンが待機している。
【Sword of EarthiaⅡ】のオープニングに使う動画の撮影だ。
「Action!」
監督の合図があり、撮影が開始された。
星琉を囲む騎士たちが剣を手に一斉に駆け出す。
鉛色の金属鎧に身を包む群衆に囲まれた中に、青地に白のラインと金の装飾が入った制服姿の少年がいる。
騎士たちは片手剣と小さめの円盾を構え、距離を縮める。
中央に居る少年は腰のベルトに差した鞘に刀を納めた状態、目を閉じて立っている。
「!」
相手の剣が届きそうな距離まで近付いた時、少年は目を開けた。
至近距離まで来た騎士数人が、ほぼ同時に倒れる。
いつの間にか、少年の手には抜き放たれた刀が握られていた。
続いて少年の姿がフッと消え、別の位置に現れる。
その付近にいた数人が倒れる。
瞬時に移動、肉眼では捉えられない速度の太刀筋。
剣で攻撃する隙も盾で防ぐ余裕も無く、倒される群衆。
少年は100人いた騎士たち全員を倒した後、納刀した。
「cut!」
監督の合図でカメラが止められた。
「VRでの100人斬りは見せてもらってたが、こっち(異世界)で見ると迫力が違うな」
監督が満足気に言った。
SETAのイベントにはランキング上位者同士の対戦である【鉄人戦】の他に、多人数と同時に対戦する【100人斬り】がある。
星琉は鉄人戦優勝の前に100人斬りもパーフェクト(攻撃を全く食らわず相手全員を倒す)で優勝した経緯を持っていた。
「これは凄まじいな」
ロケを見に来ていた国王ラスタが感嘆する。
「セイルよ、そなた1人で一体どれほどの戦力になるのか。想像もつかぬぞ」
「速さだけですよ。パワーはマッチョに劣ります」
星琉が言うと…
「金属鎧を凹ませる打撃力でパワーが劣るとか言わないでくれ」
渡辺と森田の回復魔法で意識を取り戻した騎士たちが涙目になった。
彼等の鎧には一様に星琉の峰打ちが当たった大きな凹みがついている。
「鎧の上からの打撃で気絶させる人、マッチョ以外にあんまりいないと思うよ」
渡辺が笑って言った。
株式会社SETA所属・プルミエ王国の派遣社員となった星琉。
その初仕事は、新作のオープニングやストーリーモードのムービー、販促用のポスターなどに主人公役として出演する事だった。
Sword of Earthiaシリーズは対戦がメインのゲーム、実際に遊ぶ時はプレイヤーが好みでキャラクター作成するので、星琉が演じるのは1作目でランキング1位を獲得したプレイヤーつまり自分自身だ。
ストーリーモードの対戦ムービーは森田が撮影した実際の大会動画を編集して使うらしい。
対戦キャラとして登場する事になる獣人たちには確認済だそうで、全員が快諾してくれたという。
「対戦キャラって、アレも使うんですか?」
「いや、アレはお蔵入りになるらしい」
但し熊男は除く。
ストーリーモードには星琉の異世界生活も入れるそうで、街のパン屋やミノ汁をくれた屋台なども撮影する事になった。
こちらも店主みんな快諾である。
「デパ地下の和牛サンドより美味い~!」
撮影スタッフにもミノタウロス肉のローストサンドが振る舞われ、みんな大喜びで頬張った。
好き嫌いが分かれるミノ汁も、普段から色んな地域へ行っているロケ隊メンバーは食に逞しさがあり、みんなで美味しく頂いた。
冒険者ギルドやミノ狩りに連れて行ってくれた冒険者たちも出る事になり、実際にミノタウロスを狩りに行こうという事で郊外の森へ。
「う、牛が喋り出す前にやっちゃって!」
「はいはい」
焦る森田に苦笑して答え、星琉はまた瞬時にミノタウロスを倒した。
そして解体は…
「これは異世界感が無いからカットだな」
ボツられていた。
その後、王城へ戻ってシェフに解体したミノ肉を渡したついでに、氷結魔法によるスライムシャーベット作りを実演してもらった。
凍らせる過程で風魔法を組み合わせ、攪拌して空気を含ませる。
ふんわりとして口の中でスッと溶ける綿雪のような食感。
「セレブのスイーツうまぁ~」
ロイヤルシェフのシャーベットはロケ隊にも大好評だった。
イリアはヒロインとして登場する事になった。
空港での武装集団襲撃事件、そこへ乱入して武器無しで全員制圧した星琉の活躍は、監視カメラ映像を提供してもらいストーリーに組み込むという。
大会最後の表彰式での襲撃と撃退の様子も会場のカメラに残されており、エクストラステージに使うらしい。
そして宮廷楽師による生演奏に合わせて踊るダンスは、ヒロインとの交流シーンとして使うという事で撮影されたのだが…
「2人ともヴィジュアル良いから映えますね~」
「これはRoyal Danceにも使わないと勿体ない」
という監督の提案により、別作品のダンスゲーム新作にも使われる事となった。
真紅の薔薇のような華やかなドレスを着た金髪の美少女と、青い騎士服を着た黒髪の美少年によるオープニングのダンスシーンは、後に好評を博する事になる。
更には星琉がイリアをお姫様抱っこするシーンまで撮影された。
その撮影では白いドレスを着たイリアが花嫁風味になっており、見学していた父(国王)がムムッと複雑な顔をしていたが、誰も気付かずに終わっていた。
扉絵イメージ第16話:異世界ロケ
https://kakuyomu.jp/users/BIRD2023/news/16818023213007421276
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