第8話:聖女と回復魔法
1戦目が終わると星琉は暇になった。
人数が多い序盤は選手の出番は1日1回らしい。
「セイルも回復魔法使えるでしょ?神殿へ行ってみない?」
昼休みにお城に戻ると、イリアに誘われた。
渡辺と森田は先に昼食を済ませ、既に神殿へ行っているという。
「OK、お手伝いだね」
星琉は快諾した。
神殿は白い大理石のような質感の石材で造られた建物で、デザインはローマ建築に似ている。
中に入ると広間には負傷した人々が集まっていて、神官たちが回復魔法で治療しているのが見えた。
「あれ?セイル君も来たのかい?」
「セイル君ケガしてなかったよね?」
「お手伝いですよ~。…って2人ともこんなところでコスプレ?」
神官に声かけられたと思ったら神官服を着た渡辺と森田である。
白いローブは誰でも似合うようにシンプルに作られていて、彼等が着ても違和感が無かった。
「出張業務だよ」
「ボーナスのためにっ」
…言ってる事は神官ぽくないが。
2人は神殿を手伝えば出張手当にボーナスを付けてもらえると聞かされており、張り切ってお手伝いしているワケだ。
「セイル君は手伝ってもボーナス出ないと思うけど、いいのかい?」
ビジネスマンとしての冷静さで渡辺が問う。
「街の人たちからお土産いっぱいもらってるから。それで充分です」
「そういやあっちこっちでプレゼント祭りだよね。ストレージあるだろこれ持ってけ~みたいな」
星琉が答えると、森田が笑って言う。
空港での活躍が知れ渡り過ぎていて、星琉が店へ行くとどこも大歓迎で迎えてくれる。
転移者が容量無限のストレージを持つ事はみんな知っているので、店のオススメ商品を貰う事が多かった。
「私はあっちを手伝ってくるね」
声をかけて、イリアが別の負傷者グループへと向かう。
星琉も人手が足りてなさそうなところへ手伝いに入った。
「お~傷が消えた」
「ありがとう!」
「驚いたな~あんな凄い剣術が使える上に、エクストラヒールまで使えるのか」
「魔力どんだけあるんだ?こんなに連発出来る奴なかなかいないぞ」
どんな怪我も秒で治してゆく星琉を見て、怪我人たちは驚いた顔をする。
…が
「異世界人だもんなぁ、何でもアリだよなっ」
ガハハッと笑って済まされた。
プルミエ国民、転移者チートに慣れきっているらしい。
負傷者全員の治療が終わると、星琉たちはイリアの案内で神殿中央の【神々の間】へ入った。
大神官か聖者か聖女しか入れない場所だが、星琉たちは同等の回復魔法が使えるという事で入らせてもらえた。
そこは吹き抜けになっていて上から光が注がれ、中央には豊かに葉を茂らせた大木がある。
大木の四方を囲むように、神々の石像が置かれていた。
プルミエ国は創世神の他に4柱の神々を信仰しており、春夏秋冬で神が交代で国を護ってくれていると信じられていた。
大木の四方にある神像はその4柱の神々である。
今の季節は春なので、女神アイラが国を守護しているという。
「この木の葉を通して神様からのお告げが受けられるの」
イリアの説明を受けながら星琉たちが大木に近付くと、木の葉が1枚ヒラリと落ちてきた。
星琉がそれを拾うと、文字が浮かび上がる。
『1戦目お疲れ様!怪我人を出さなかった御褒美にいい物あげる byアイラ』
「・・・・・」
「女神様、ノリ軽すぎません?」
森田がツッコミを入れた。
いい物ってなんだろう?と思っていると、星琉が手にした木の葉がポウッと光を発して、その葉の上にペンダントが現れた。
若葉のような緑の石に、薄紅色の八重咲きの花が描かれている。
『守護石のペンダント。物理も魔法も完全防御、美肌効果つき。女の子にあげれば好感度大UP』
木の葉の文面が変化した。
「なんか一部ツッコミたいところあるけど、いい物、かな?」
と言う星琉、頬がちょっと赤い。
「それ伝説級アイテムね」
初めて見たわ、と言いながらイリアが覗き込む。
…と
何か察した渡辺と森田がササーッと外へ出て行く。
「じゃあこれは…ここだな」
他に誰もいなくなったところで、星琉は手にしていたペンダントをイリアの首にかけた。
「誰かのお土産にしなくていいの?」
「うん。イリアの御守りにあげる」
「ありがとう」
イリアが嬉しそうに微笑む。
「空港でイリアを襲った連中はみんな捕まったけど、まだ他にもいるかもしれないから」
ふと真剣な表情になり、星琉は言う。
「これがあれば、大丈夫ね」
イリアはまた微笑んだ。
「牢屋に入ってる連中、まだ白状しないらしいけど、何が目的でイリアを襲ったのかな?」
問うと、聖女は狙われた理由を見せてくれた。
「多分、この力のせいだと思うの」
話すイリアの身体が、淡い光を放ち始める。
その光は細かな粒子となり、フワ~ッと流れて大木と星琉を包んだ。
何か暖かい空気に包まれたような感覚と共に、身体に力が満ちる感じがした。
「ブレッシングって言うの。人も動物も植物も癒やし護る力…」
語るイリアの表情は穏やかで、慈愛に満ちた天使を連想させる。
「襲ってきた者達は、それを疎ましく思う者に命じられたのかも」
「じゃあやっぱりこれはイリアが持ってる方がいいね」
星琉はイリアの首にかけたペンダントの石に触れた。
「守護石がイリアを護ってくれるように」
空港では守ってあげられたけれど、星琉は大会が終われば元の世界に帰る身。
護衛すら倒すような敵に襲われた際にイリアを護る力となってほしい。彼はそう願った。
「うん…いつも身に付けるね」
微笑んだイリアの頬が少し紅くなった。
※扉絵第8話:聖女と回復魔法
https://kakuyomu.jp/users/BIRD2023/news/16818023212954036639
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