第2話:女神様と王女様
瀬田が作り上げた転送マシンは彼が体験した異世界転移(往路)を見事に再現していた。
つまり…
「ようこそ、アーシアへ。私は女神アイラ…」
…女神様が出てきちゃうのだ。
現地の下見の為1回行っていた渡辺は平然としていたが、初めてだった星琉と森田は呆然。
女神アイラ様は桜の花びらに似た色の衣が似合う優しい顔立ちの色白美少女だ。
「…CG…かな?」
星琉が呟くと…
「いえ、本物ですよ」
女神様ニッコリ。
「シロウを転移させたのは私ですから。以来彼とは交流が続いています」
シロウとは瀬田社長のアーシアでの呼び名らしい。
「社長すげぇ…」
新人社員の森田も思わず呟いた。
「剣術大会に出る子は貴方ね。ちょっと見せて」
アイラ様は星琉に手をかざした。
直後、何やら驚いた様子。
「…セイル、貴方が大怪我しないように加護を頼まれてたんだけど…」
じっと見つめてくる女神様。
キョトンとする星琉。
「こんなとんでもないステータスの子、加護いらないと思うの」
「へ?」
星琉はモチロン、聞いてた渡辺&森田も驚いた。
どんなステータスなのか見たいと言うと、企業秘密と言われ見せてはもらえなかった。
アイラ様は星琉に加護を与える代わりに、3人に回復系スキルをくれた。
それも星琉を護る目的ではなく…
「最上級回復魔法までつけておくから。もしもの時は対戦相手に使ってね」
「どんだけヤバイんですか俺のステータス」
…星琉が相手を大怪我させちゃった時用だった。
女神様との御対面が済んだ後、3人はアーシアの空港に設置された転送陣に現れた。
地球側の転送マシンは機械らしく作られていたが、アーシア側は魔法陣風味になっている。
「向こう(地球)のは電気が動力だけど、こっち(アーシア)はソーラー電池と魔石が動力なんだよ」
興味津々で魔法陣を見ている星琉に渡辺が説明してくれた。
電力会社なんて無い世界だから、電池+魔石のハイブリッドタイプにしたらしい。
「?」
転送陣の外に出てすぐ、星琉は何かに気付いた。
確認するように軽く飛び跳ねてみたり腕を振ってみたりする。
「渡辺さん、ここの環境って…」
「社長が作ったVRマシンの中と同じだよ。理論上はゲームと同様の動きが可能な筈」
SETAのゲームをやり込んでるプレイヤーなら気付くよね、と渡辺は言った。
「え~、俺全然わかんないですよ~」
入社してそれほど経ってない森田はそこまで詳しくないようだ。
空港の日本人専用窓口は星琉たち以外お客はいなかった。
待たされる事無く手続きが済み、言語理解スキルを貰った3人。
そのスキルが何気に優秀で、人だけでなく人外の生物とも意思疎通が出来てしまうという。
「どうしよう…」
昼食をとりに入った店で、チキンを前に何か心配し始めるのは森田。
「もしも鶏と話す事があったら、俺もうフライドチキン食えませんよぉぉぉ」
…確かに食べづらいかもしれない。
そんな会話が聞こえたらしく、近くの席で思わず吹き出す人々がいた。
その中に何か他とは違う雰囲気の上品そうな少女がいる事に気付いた星琉、コソッと渡辺に聞いてみる。
「渡辺さん、あそこにいる子、アイドルか女優?すっごく可愛いんですけど」
「イリア様かな?この国のお姫様だよ」
「お…王族?!」
「…の割に護衛少なすぎません?」
さらっと答える渡辺に、驚きつつも小声で言う星琉と森田。
…が、席が近かったので聞こえた様子。
「この国は平和で、護衛は少なくても問題無いのです」
星琉たちに笑みを向けて、イリア王女が話しかけてきた。
「安心してお祭りを楽しんで下さいね」
優しそうな笑みを絶やさず、そう声をかけてティータイムを終えた王女は去って行った。
「…じ…人生初、高貴な方に声かけられちゃった」
じんわりと感動する星琉。
「多分SETA社の人間と分かったからかな」
冷静なままの渡辺。
「…ってわが社、王族に知られてるんですか?」
驚き追加の森田。
3人もランチを済ませて店を出た。
空港の日本人専用受付は空いていたが、祭りの影響で交通網は大混雑しているらしかった。
「え…2時間待ち…?」
ホテルに送迎を頼もうとして、待ち時間の長さに少し困惑気味の渡辺(40歳)。
3人が泊まる予定のホテルは、送迎用の馬車がどこぞのアトラクション並みの待ち時間になっていた。
「それ、歩いた方が早いってやつじゃないですか?」
「馬車乗ってみたかったけど、街の見学しながら徒歩でどうです?」
馬車が無いなら歩けばいいじゃないっていう考えの若者2人(17歳&22歳)の提案で、空港出口へ向かう。
…と、出口付近に人の輪が出来ていた。
「何でしょうね?あれ」
森田が呟き、渡辺も怪訝そうにそれを見る中、星琉は気付いた。
「ちょ、セイル君?!」
ダッシュで向かう星琉に驚く2人。
円状に集まった人々を内側から槍で脅している男たちが数人。
血を流して倒れているのが3人。
その更に中心には剣を持った男が1人。その剣は1人の少女を狙っていた。
少女は恐怖のあまり動けず座り込んだまま。
男が剣を振り上げ、少女に振り下ろそうとした時…
ドガッ!!!
駆け付けた星琉の跳び蹴りがクリーンヒット!
想定外の衝撃に剣を落とし、男は派手に転がった。
(奇襲は相手が動揺してる間が勝負!)
1人目が気絶するのをチラ見して、星琉は手近なところから順に蹴りや肘鉄を食らわす。
女神に「加護いらないステータス」とまで言われた星琉の攻撃に、武器を持っていた男たちは全員反撃する間も無く倒された。
「セイル君、…って、何この死屍累々?!」
置き去りにされた2人が駆け付けた頃には、星琉はイリアを助け起こしているところだった。
「どう見ても悪者だったから倒しちゃいました」
「倒しちゃいました…って…」
「気絶させただけだから早めに牢屋入れた方がいいです」
と提案しているところへ、警備兵たちが駆け付けた。
が…
「イリア様から離れろ!」
何故か怒鳴られ槍を向けられる星琉。
勘違いされてると察した直後…
「この方は敵ではありません!」
庇うようにイリアが抱きついてきた。
「ごめんなさい、せっかく助けに来てくれたのに敵と間違われるなんて」
キョトンとした顔の星琉に、謝るお姫様。
「敵はあっちだよ~ほれそこに全部倒れてる」
「気絶させただけって言ってたよ」
「早く牢屋にブチ込んじゃいなよ」
一部始終を見ていた人々が口々に言った。
「…し…失礼しました!」
警備兵たちは慌てて謝り、気絶している男たちを拘束すると引きずるようにして連れ去った。
重傷を負っていた護衛3人を治療したのは女神から最上級回復スキルを授かった渡辺&森田。
「まさか大会前に使う事になるとは…」
「…ってこっちに注目集まってますけどw」
通常は大神官か聖者か聖女しか持たないスキルをサラリーマンが使う姿は違和感しかない。
襲われた際に転んで挫いたイリアの足は、星琉が治療した。
「ありがとうございます。あの…お礼をしたいので一緒にお城へ来て頂けませんか?」
「そんな大した事してないですけど…」
遠慮する星琉だったが、お城と聞いて期待に満ちた目を向けてくる森田・冷静に見せながらも圧をかけてくる渡辺に負けた。
「…お城は見てみたいです。旅の思い出に」
「では、案内しますわ」
微笑む美少女に手を引かれるという役得。
外へ出るとおそらく王族用と思われる豪華な馬車が停まっていた。
完治した護衛たちは馬で付き添うらしい。
「礼儀作法も何も分からないので、先にお詫びしておきます」
などと言いつつそれなりに姫君が馬車に乗る際のエスコートが出来たのは、アーシアを舞台にしたアニメを見ていたから。
世の中何が役立つか分からない。
※扉絵第2話:女神様と王女様
https://kakuyomu.jp/users/BIRD2023/news/16818023212948177606
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます