投影
「せっかくお母さまがいなくなったのに!今度はお義母さまがあなたに勉強ばかりさせて!このままではお母さまのようになってしまうでしょう!女の当主なんて!そもそもそれがおかしいのだわ!どうして禁じてくださらなかったのよ!この国はおかしいわ!」
それはここでは少々……壁際の方々は首を振り気にするなと言っているようでした。
気にされなかったことは有難いですけれど、この国の貴族として決して口にしてはいけないことです。
「だからなんとしても男の子を産んでやろうと思ったのよ。そうすれば、あなたもわたくしの娘らしくなると思ったのに。あのお義母さまに頼んで、あなたを家に帰るように言って貰って!それでやっとよ。やっと息子を産んで、あなたはわたくしの娘らしくなるはずだったわ。なのにどうして変わらないの!」
女性でも当主となることが認められてはいても、それは当主に娘しかいない場合です。
余程のことがなければ、貴族の家は息子が継ぐことになっています。
ですから私もかつては後継ぎとしての教育を受けておりましたが、弟が産まれた時点でそれは終了となりました。
弟を見れば、ぎゅっと下唇を噛んでいます。
そんな理由で産まれたと聞かされて嬉しいはずがありません。
「わたくしの娘は仕事なんてしないわ。仕事をする母親も嫌いなはずよ。令嬢らしいことだけしていればいいと言ってあげる、わたくしは優しい母親ですのに。それなのに、それなのに……。どうしてよりによってお母さまなんかに似たの!」
激昂している母の言葉は止まらず、誰かが言葉を挟む余地もありません。
「何を言っても泣かないし!どれだけ厳しくしても謝らない!突き放しても甘えても来ない!あなたが変わればわたくしだって、優しい母親になれたわ!それなのにあなたは、いつまでも冷たい嫌な子どものまま!」
「それで子が出来たですって?嫌よ、お母さまをこれ以上増やさないで!あなたが子育てなんてしてはだめだわ!」
「そうよ、その子たちをわたくしに預けなさい。今度こそ、今度こそわたくしが、その子たちをわたくしの子どもらしく育ててあげるわ!そうだわ、それがいいわ!この子はお義母さまが育てたせいでこんな風に育ったのだもの。今度はわたくしがあなたの子どもたちを、わたくしの孫らしく育ててあげるわ!あなたは早く子どもたちを連れて帰ってらっしゃい!」
私はもうこの人と会話が出来る気がせず、弟と妹を眺めました。
二人は正反対の表情をしております。
弟はもう聞いていたくないというように母から歪めた顔を逸らして。
妹はまだぽかんとした顔で母を見詰めています。
この子たちも私と変わらなかったのですね。
この人は、誰の親にもなれていないのでした。
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