02 ミシカカガラス工房

 シルルが扉の前で百面相している。

 工房の中は依頼の期限が近くて皆総出で作業をしている。忙しくて余裕がないのと、シルルが右往左往しているせいで誰も気づかない。


 ミシカカガラス工房はランランカのミドラ区にある。初代ミシカカが開いた工房は現在五代目に引き継がれている。ただ先代の四代目は先日急な病で倒れ、今代は継いだばかり。今は母親と姉弟、従兄弟も手伝って何とかやっている。

 さて、この工房にも竜燈がある。シンプルな竜燈にはキリリとした炎竜がいつも居るのだが、今日に限ってはどうにも困ったようにもみえる。

「ええ~、どうしよう。忙しそう。お菓子差し入れしてる場合じゃないけど、折角うまく出来たのにー……」

 しゅんとするシルルは何度も扉の前を行ったり来たりする。手元と扉を交互に見て、困って空を仰ぐ。そして炎竜に嘆いた。

「えーん、炎竜様ぁ~! イフリーの役にちっとも立てないよー」

 ゴッ、と炎竜の口から炎が吹き出る。ゴッ、ゴッ、と力づけるように数回。

「炎竜様、何?」

「わっ!」

 工房の扉が突然開かれた。

「シルル? どうした?」

「イフリー! ……あああの、あのね、忙しいところ悪いんだけど、これうまく出来たから皆で食べてぇ~」

 お菓子を勢いよくイフリーの胸に押しつけると、シルルはダッシュで走り去る。

 ゴッ、と空に炎を吐く。

「……炎竜様、次からシルル来たら、すぐ教えてくれる?」

 顔を真っ赤にした今代に、炎竜は翼を揺らした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る