第52話 女王の訴え
イライアスの結婚の件は大統領の家の問題なので、クローディアには口出しをする権利はない。
そう言われてしまえばその通りだ。
だがクローディアはそれでも大統領に食い下がった。
「もちろんワタシが口を
そう言うクローディアの顔がわずかに
「もちろんその決断にはイライアスなりの思いや考えがあるでしょう。
そう言うと大統領は窓の外に流れる街の景色に目をやった。
「私は家のために生きてきたことなど一度もない。私自身も色々なことを犠牲にしてきました。しかしそれは家のためになどではない。そんな小さなもののためではないのです。国の……この共和国のために多くの我慢を自身に
大統領は
それでもクローディアは引き下がらない。
「大統領ご自身も辛い思いをされてきたのならば、御子息に同じ思いはさせまいとは、お思いになりませんか? そんなことはしなくていいと彼に言ってあげられるのは大統領をおいて他におりません。彼を解放してあげられるのは……」
そう言いかけたクローディアを大統領はじっと見つめた。
すでにその顔に笑みはない。
「クローディア殿。スノウ家は我らにとって決して軽んじてはならない相手だ。彼らの協力があってこそ、私は国政に
それはこれ以上の質問は受け付けないという大統領の強い意思を感じさせる言葉であり、クローディアは口を閉じる他なかった。
ミアの死に対するマージョリーの疑惑のことは自分の口から勝手に大統領に話すわけにはいかない。
これ以上は大統領に対して言うべき言葉が見つからなかった。
そんなクローディアを見て大統領は再び笑みを浮かべる。
「ただ……誤解を恐れずに言えば、私はイライアスの結婚相手には何が何でもスノウ家の令嬢を、とは考えていない」
「え? それはどういう……」
「言葉の通りです。たとえばイライアスにとってマージョリー嬢よりも、スノウ家よりもふさわしい相手がいるのであれば、それが息子の未来を
そう言うと大統領は
何かを見定めようとするかのようなその視線を受けて、クローディアは息を飲む。
しばしの
ほどなくして馬車が止まった。
大統領の公邸前に到着したのだ。
大統領は腰を上げる。
馬車の外を馬で走っていた護衛の者たちが馬車の
「さて、時間だ。あまりお相手できずに申し訳ない。お疲れだろうから、明日はゆっくりと休んでいただきたい。次は祝勝会でお会いできるのを楽しみにしていますよ。クローディア殿」
そう言うと大統領は馬車を降り、御者にこのままクローディアを
残されたクローディアを乗せた馬車は方向転換をして
1人になった馬車の中でクローディアは大きく息をついた。
「さすがに2期を務めた大統領は
最後に大統領が自分をじっと見つめて来たその視線の意味をクローディアは考えていた。
彼は
今まで数え切れないほどの
それでもこの馬車の中で聞いた彼の言葉に
クローディアは窓の外の景色を見つめながら、イライアスの絶望に思いを
もし自分が今の彼の立場だったらと想像する。
これから自分がどうするべきなのか、今はまだ考えがまとまらない。
だがクローディアは考え続ける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます