第50話 女王の戸惑い
「明日の最終演説会に向けて大統領は気力・体力ともに充実しております! 3期目に向けて意欲十分で
応援演説8日目。
クローディアが疲れをものともせずにそう声を張り上げると、広場に集まった民衆から大きな拍手と歓声が上がる。
降り注ぐ
これにてクローディアの応援演説は日程終了となり、候補者による最終演説会が行われる明日は1日休みとなる。
いよいよ大統領選挙も大詰めを迎えようとしていた。
☆☆☆☆☆☆
「ふぅ。とりあえずはこれで御役御免ね」
大声を張り上げて乾いた
やるべきことはやったのだ。
「後は祝勝会でのご
そう言うウィレミナに笑顔で空のグラスを返すと、そこにジリアンが入ってきた。
「クローディア。イライアス様が話があるそうです。いかがいたしますか?」
「イライアスが? 通して」
ほどなくして姿を見せたイライアスの表情がいつもと違うような気がして、クローディアはわずかに顔を曇らせる。
「クローディア。応援演説最終日。お疲れ様。面倒な仕事を引き受けてくれてありがとう。あらためて心から礼を言うよ」
そう言うとイライアスは笑顔を見せる。
だがその顔もどこか疲れているように見えたクローディアは、
「ウィレミナ。少し外してくれる? イライアスと2人で話がしたいから」
「かしこまりました」
ウィレミナが
「座ったら? 何か話したいことがあるって顔をしているわよ」
「……君は何でもお見通しだな」
そう言って苦い笑みを浮かべると、イライアスはクローディアの対面に腰を下ろす。
そしてすぐに話を切り出した。
「今日は……俺の考えを伝えに来た。そして君に謝罪をしなければならない」
そう言うとイライアスは淡々とした口調で話した。
スノウ家から正式に縁談の打診があったこと。
そしてそれに対する大統領の反応。
「……そう。それであなたの考えは?」
クローディアはそう
いや、イライアスの奇妙に達観したような表情と口ぶりから、彼が何を言おうとしているのかクローディアにはおおよその予想がついてしまう。
「マージョリーとの縁談を……進めることにしたよ」
「……それはあなたの希望ではないでしょう? それでいいの? 家のため? それとも父親のため?」
クローディアはそう聞かずにはいられなかったが、努めて平静な口調で
それを受けたイライアスもまた努めて平静であろうとしていた。
「……俺自身のためだ」
「マージョリーとの結婚には利点があるから?」
「利点なんて今の俺には必要ない。やっぱり……やっぱり俺はミアを死に追いやった者たちを許せない。だから……」
そう言うイライアスの目に暗い光が
それは憎悪であり執念である。
「一生かけて真実を明らかにし、
そう言ったイライアスの顔は奇妙なほど冷静だった。
その目に宿る暗い光とは裏腹に、どこか冷めた顔をしているのだ。
怒りも悲しみも
「イライアス……」
「クローディア。君には本当に申し訳ないことをしていると自覚している。他人事だというのに君は先日、俺に真正面から意見をぶつけてくれた。君にはそんなことをする理由もないというのに、それでも俺を
そう言うイライアスの顔は本当に悲しそうであり、クローディアに対して申し訳ない気持ちがありありと表れていた。
たまらずにクローディアは身を乗り出して言う。
「そんな
「ありがとう。でも俺はこれをやらなきゃ、腹の底で今も
そう言うとイライアスは立ち上がる。
「心配しなくていい。マージョリーが妻になっても、新都ダニアとの同盟関係には絶対にとやかく言わせないから」
「そんなことを心配しているわけじゃ……」
「分かっている。だけど、どうかお願いだ。クローディア。俺が考え抜いて決めたことだ。尊重してほしい」
それだけ言うとイライアスはクローディアに背を向けて
クローディアは悲しいまでに決然とした彼の背中に、何と声をかけていいのか分からなかった。
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