第21話 事情聴取
「ジェシカ」
隊長から声をかけられたジェシカ・エメラルドさんはミザリー・アレグラ副教官に近寄りそっと脈を確かめる。
そして、首を振った。
僕は、二人の胆力に驚く。
死体を前にして落ち着き過ぎていない?
僕は……。
「うぅっ」
口を押さえてトイレに走った。
そして、胃の中のものを吐き出した。
しばらく喘いでいると、誰かが入ってきた。
振り向いたら、キース・カールトン君だった。
「どうした」
僕は言いよどみながらたどたどしく説明する。
「あの……僕が……廊下を歩いていたら……鞭使いの子が飛び出してきて……。……隊長たちが空き室に飛び込んで、ついていったら、ミザリー・アレグラ副教官か倒れていて……」
我ながら支離滅裂だなと思ったけど、キース・カールトン君はうなずいてくれた。
「今、悲鳴を聞いた生徒や教官でごった返している」
だろうな、と僕は思う。
「……隊長とジェシカ・エメラルドさんが中にいるんです」
僕が言うと、キース・カールトン君は考えるようなしぐさをした後、僕を見た。
「一緒に来てくれ」
たぶんそう言われるだろうなと思ったので、僕はうなずいてキース・カールトン君についていった。
キース・カールトン君が向かった先は事件現場。
隊長たちは廊下にいた。
「大丈夫か」
隊長が気遣ってくれたので僕は謝った。
「逃げ出してすみません。……びっくりして」
「気にするな。ところで、私たちは第一発見者となる。事情聴取されるのでその心づもりをしておいてくれ」
「えっ」
僕が驚くと、隊長は首をかしげて僕を見る。
「驚くことではないだろう。君は特に、副教官からメッセージを受け取り、事件現場付近をさまよっていた。間違いなく事情を聞かれる」
そう……だけど……。
「でも僕、なんで呼び出されたのかも、その内容も知らないんですよ? おまけに場所をあいまいに書いているからわからずに探す羽目になったし」
納得がいかずに言い返したけど、隊長に言ってもしかたがないんだよな。
隊長の予測通り、僕と隊長とジェシカ・エメラルドさんは呼び出された。
僕は隊長に言い返したとおりのことを話し、メッセージも提出した。
それで僕の調書は終わったけれど、隊長たちは何度も呼び出されていた。
リバー・グリフィン君いわく『教官どもの嫌がらせ』なんだそうだ。隊長だけでなくアッシュ・ウェスタンス教官も何度も呼び出されていた。
あれだけ僕に尋ねた調査官の人は、逆にどうなったか尋ねても答えてくれない。不公平だ!
……だけど噂では、どうやら痴情のもつれってことらしい。
うん、まぁ、確かに、あの二人、バチバチやり合ってたからそういう噂が出るのも納得だよね。
で、無関係のなんで僕がなぜミザリー・アレグラ副教官に呼び出されたのか? って話なんだけど。
どうも、僕を退学にして鞭使いの子を後釜で入れるってミザリー・アレグラ副教官が言いだしたらしいんだ。
ミザリー・アレグラ副教官が亡くなったとき退学願の紙を持っていたそうで、僕にサインさせる気だったみたいだ。
いや、いくらふだんオドオドしている僕だって、そんなの脅されてもサインしないけど。
でもって、その話を鞭使いの子にして、彼女をおとなしくさせようとしたんだって。なんならその弱みで言いように扱おうとしたのかも。
ところが、それにうなずく彼女じゃなかった。
彼女は、ミザリー・アレグラ副教官が気に入らないのだ。
そういうことを持ち出す卑怯な性根も嫌いだし、自分が彼女の下につくような真似をすることも嫌いだ、むしろそんな取り引きを持ち出したことをアッシュ・ウェスタンス教官にバラしてやると息巻き空き室を出ようとしたらふいに真っ暗になったそうだ。
恐らく盲目の状態異常魔術を使われたと判断し、襲いかかってきたミザリー・アレグラ副教官と揉み合いになり……状態異常が解除されたとき、そこには血まみれの自分と血まみれのミザリー・アレグラ副教官がいた。
最初は自分がやられたのかと思ったが、ミザリー・アレグラ副教官の喉がザックリと裂けているのを見て恐怖に駆られ、外に飛び出したという。
殺人事件はこの学園設立以来初だと言う。
ちなみに失踪事件はたびたびあるらしく、
それでなのか、皆が浮つき授業に身が入らない状態が続いていた。
僕たちは、ようやく戻ってきた隊長とアッシュ・ウェスタンス教官をねぎらい、ようやく一緒に訓練できると喜んだのもつかの間――今度は僕が呼び出された。
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