第130話 本物のアイドル

 3Dスタジオ内に曲が流れ、その音楽と共にななちゃんと彩音さんが歌って踊る。

 カメラに囲まれながら歌って踊るななちゃんは彩音さんに引けを取らないぐらい踊れていた。



「思っていたよりもやりますわね」


「彩音のダンスにしっかりついていってる。ナナ凄い!」



 サラさんはともかく、いつもは辛口の秋乃さんまでななちゃんの事を褒めている。

 それは2人が本当の意味でななちゃんの事務所入りを認めてくれていることに他ならない。その事が僕は嬉しかった。



「今のななちゃんは本物のアイドルみたいだ」



 彩音さんと一緒に踊っているななちゃんの姿を見ているとそういう気持ちが強くなる。

 今まで推し活をしている人の気持ちがいまいちわからなかったが、今ならその気持ちがよくわかる。 

 この体中から湧き上がる高揚感。ペンライトを持っていたら、声を出して振っていたい。

 そういう人達もきっとこういう気持ちで推しのライブを見ているんだろうな。



「あら? 斗真君は今更ナナさんの魅力に気づいたんですか?」


「何を言ってるんですか!? ななちゃんは僕と出会った時から魅力的な人ですよ」


「そうですわよね。なんたってナナさんは斗真君の彼女なんですから」


「かっ、彼女じゃありませんよ!? サラさんまで彩音さんみたいに僕のことをからかわないで下さい!?」


「私は時間の問題だと思いますけど。そうですわよね、秋乃?」


「サラの意見に激しく同意。一体2人はいつ付き合うの?」


「秋乃さんまで僕の事をからかわないでください!?」



 こんな魅力的な女の子が僕の彼女になってくれるわけがない。

 ななちゃんが僕に振り向いてもらう為には、今以上に努力が必要だと思っている。

 


「(ななちゃんが振り向いてくれるような魅力的な男性になるためには、一体どのぐらいかかるだろう)」



 その道のりはものすごく険しいに違いない。

 でもななちゃんに振り向いてもらう為には頑張るしかない。



「これは先が長そうですわ」


「ナナ、可哀想」



 2人が何を言ってるかわからないので、ここは放っておこう。

 ちょうどななちゃんの歌パートが終わり、撮影が一息ついたところだ。



「ななちゃん、見るからに疲れてるな」



 収録が終わったななちゃんは膝に手をついて息が荒い。

 彼女のその姿を見れば、この収録がどれだけ大変だったかわかる。



「斗真君、早くななさんを出迎えて上げなさい」


「でも、まだ2人共スタジオの中にいますよ」


「いいから行く!! タオルと飲み物を預けますので、これをナナさんに渡してあげて下さいませ」


「ありがとうございます、サラさん。それじゃあ行ってきます」


「頑張りなさい、斗真君」


「頑張れ」



 2人に背中を押された僕はななちゃん達がいるスタジオの中に入る。

 スタジオではいまだ息が整ってないのか、その場で大量の汗を滴らせたななちゃんが荒い呼吸を繰り返していた。


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