第96話 煩悩に打ち勝つ方法
「ふぅ。これで皿洗いは一通り終わったな」
ななちゃんが作ってくれたシチューも別皿に移して冷蔵庫に入れたし、これで一仕事終わった。
家事が終わり暇を持て余すと、どうしてもお風呂場の方ばかりに目が行ってしまう。
「皿洗いが終わってからずっと、ななちゃんのことが頭から離れないんだよな」
こうなった原因は間違いなくななちゃんのことを抱きしめたせいだ。
あんなに体を密着させた挙句、恥ずかしい事ばかり言って。一体僕はどうしたんだろう。
「駄目だ!! ななちゃんがお風呂に入っている事を想像したら、また心臓がバクバクしてきた!?」
ななちゃんがお風呂に入った時に聞こえてきた衣擦れ音を聞いた時、思わず生唾を飲み込んでしまった。
あのドアを1枚隔てた中でななちゃんがお風呂に入っていると思ったら、どうしてもななちゃんのことを意識せずにはいられないでいる。
「序盤からこんな調子で大丈夫かな?」
いつもよりも色っぽい姿で迫ってくるななちゃんに対して、僕は手を出さないでいられるのか不安で仕方がない。
さっきは限界ギリギリの所で踏みとどまれたが、それがいつまで続くのか、僕にはわからなかった。
「いや、手を出さないように頑張ろう。これからもずっとななちゃんの隣にいたいなら、ここは我慢するしかない」
その為には強い理性を保ち続ける必要がある。
彼女の心に空いている寂しさを埋めたいなら、体ではなく彼女の心に寄り添わなくてはいけない。
なので彼女からの誘惑に耐える必要があった。
「お待たせ! お風呂から上がったよ♡」
「ななちゃんの寝巻ってパジャマなんだね」
「そうだよ! 最近このパジャマに変えたんだけど、どうかな?」
「凄く似合ってて可愛いと思うよ。ななちゃんの洋服を選ぶセンスは抜群だね!」
「ありがとう! そしたら今度斗真君の洋服も選んであげるね!」
なんだか知らぬ間に2人で遊ぶ約束をしてしまった気がする。
でも僕としては悪い気はしない。お互い趣味が似ているせいか一緒にいるだけで楽しいので、出来るだけ日々の時間をななちゃんに使いたかった。
「せっかくだから、斗真君の隣に座るね」
「えっ!? 僕の隣に座るの!?」
「そうだよ。もしかしてあたしが斗真君の隣に座ると迷惑だった?」
「全然迷惑じゃないよ!? ななちゃんさえよければ、僕の隣に座っていいよ」
「ありがとう! それじゃあお邪魔します!」
隣に座るのは構わないけど、今のななちゃんを至近距離で見るのはまずいんだよな。
それは彼女が嫌いだからそう思うのではなく、むしろ彼女に惹かれているからこそ、出来るだけ距離を取りたかった。
「(今のななちゃんは可愛いだけじゃなくて、妙に色っぽいんだよな)」
お風呂から出たばかりなので髪はしっとりと濡れており、頬はほんのりと朱色に染まり艶っぽく火照っている。
その姿が先程まで平穏を保っていた僕の心をかき乱した。
[(なんだかまたななちゃんの新しい一面が見れた気がする)」
お風呂上がりの彼女の姿がこんなに破壊力があるなんて思わなかった。
そんな彼女を見ていると皿洗いのおかげで収まっていた煽情的な気持ちが湧き上がってしまい、思わず視線を逸らしてしまった。
「あっ!? また斗真君があたしから目を逸らした!?」
「ごめん!? あまりにもななちゃんが色っぽかったから、なんだか見てはいけない物を見た気がして、思わず視線を逸らしちゃった」
「もしかして斗真君はあたしのことをエッチな目で見てたの?」
「‥‥‥‥‥そうともいう」
何故僕は自分の気持ちをこんなに赤裸々に話しているのだろう。
こんな風に話すようになったのもさっきお風呂に入る前、ななちゃんに抱き着かれたせいだ。
あの時お互いの気持ちを全て話してしまったせいで、心のガードが緩んでいるのかもしれない。
「ふふっ♡ ありがとう! あたしのことをエッチな目で見てくれて♡」
「どういたしまして」
「そういう気持ちになるなら、もっとあたしのことを見ていいんだよ♡ そんな遠くにいないで、もっとあたしの近くにきて♡」
「ちょっとななちゃん!? それってどういう意味かわかってるの!?」
「もちろんわかってるよ! これからもこういうことがいっぱいあるから、一緒に慣れていこう♡」
僕が何かを言う前に、ななちゃんは僕の胸に飛び込んだ。
そして両手を僕の首にまわし、僕のことをじっと見つめている。
「どうかな? 今のあたしは ?」
「ものすごく可愛いです」
「あはっ♡ 斗真君は正直だね」
「今更ななちゃんに隠す事なんてないでしょ」
「それもそうか。そしたらいっぱいサービスしてあげるね♡」
僕の首に両手をまわしたまま僕の膝の上にまたがり、ななちゃんは僕のことをじっと見つめている。
時折僕に微笑みかけてくれる所を見ると、彼女も自分が恥ずかしい事をしているのを自覚しているように見えた。
「(このままななちゃんのペースに巻き込まれていたら、僕の理性が飛んでっちゃう)」
理性が飛ぶだけならいい。そうなったら僕がその場で倒れるだけだから、誰にも迷惑をかけないで済む。
だがもしも勢いあまって彼女をベッドに押し倒してしまったらまずいことになる。
そうならない為にも僕は頭を落ち着かせる為、ななちゃんから離れる方法を必死になって考えた。
「どうしたの、斗真君? そんなに赤い顔をして?」
「ごめん、ななちゃん。そろそろお風呂に行ってきてもいい?」
「うん、いいよ! そしたらあたしはベッドで待ってるね♡」
ななちゃんが僕の上から退いてくれたおかげで彼女から距離を取ることに成功したが、このままではダメだ。
一夜を超す前にななちゃんの誘惑に負けて、取り返しのつかないことを彼女にしてしまうかもしれない。
「(一旦お風呂に入りながらいい方法を考えよう)」
冷たいシャワーを浴びて頭を冷やせば、きっといい案が浮かぶはずだ。
そう思い僕は替えの下着やバスタオルの準備をした。
「じゃあお風呂に行ってきます」
「行ってらっしゃい。早く帰ってきてね♡」
まるで新婚夫婦がするようなやり取りをしながら、僕はお風呂場へと向かう。
お風呂場に着いた僕は冷たいシャワーを浴びて頭を冷やしながら、平穏に過ごす方法を考えた。
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ここまでご覧いただきありがとうございます。
続きは明日の7時に投稿しますので、よろしくお願いします。
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