第71話 マネージャーのお仕事
「斗真君があたしのマネージャーになるんですか?」
「そうよ。もし菜々香ちゃんが嫌なら私が担当するけど、どうする?」
「斗真君でお願いします!」
「ななちゃん、本当に僕でいいの?」
「うん。斗真君があたしのマネージャーをしてくれるなら心強いよ」
「そういうことよ、斗真。頑張りなさい」
「でも僕はマネージャーの仕事なんてわからないよ」
「それは私がこれから手取り足取り教えてあげるわよ。OJT方式で」
「OJT? それって何?」
「OJTとは先輩が後輩に現場で仕事を教えて覚えてもらうことよ。つまりこの夏休み、斗真には私の仕事を手伝ってもらうわ」
「配信は?」
「もちろんそれも並行してやってもらう予定よ。更にいえば、夏休み期間中に菜々香ちゃんとのコラボ配信もして頂戴」
「ちょっと待ってよ姉さん!? 僕に休みはないの?」
「ちゃんと8時間労働を心がけるから大丈夫よ」
「それってほぼ休みがないってことじゃん!?」
これで僕の夏休みは全て仕事で潰れることが確定した。
それにしても僕はまだ何も言ってないのに。姉さんが鬼畜過ぎる。
「あの‥‥‥あたしは‥‥‥」
「もちろん斗真だけじゃなくて、菜々香ちゃんもこれから大変よ。配信活動の他にボイスレッスンやダンスレッスンを受けてもらうつもりだから覚悟してね」
「わかりました。頑張ります!」
ななちゃんがここまでやる気を出してるなら、僕も負けてられない。
事務所の社長を前にしてタレントがやる気溢れる決意表明をしているのだから、マネージャーを務める僕も彼女のことをサポート出来るように頑張ろう。そう決意した。
「今後の予定についてだけど、まずは貴方がこの事務所に所属したお披露目として、彩音の周年ライブに出てもらうわ」
「えっ!? 彩音先輩の周年ライブに出るんですか!?」
「そうよ。9月に彩音が活動4周年を迎えるから、菜々香ちゃんにはその記念ライブに出てもらうつもりよ」
「彩音先輩がデビューしたのは9月の中旬だったはずだから‥‥‥あたしは歌と振りを3ヶ月かけて覚えればいいんですよね?」
「違うわ。そのライブを放送するのは9月中旬だけど、撮影した動画の編集もしないといけないから撮影は8月下旬にする予定よ」
「期末テストが終わってから練習を始めるとして‥‥‥2ヶ月で歌とダンスを覚えないといけないのか。ななちゃんはそのスケジュールで大丈夫?」
「うん! その撮影に間に合うように頑張って練習する!」
「少しだけきついスケジュールになるけど、頑張ってね」
姉さんは頑張ってと簡単に言うけど、ダンスの振りってすぐ覚えられるのかな?
ダンスのみとか歌のみだったら何とかなるかもしれないけど、歌いながら踊るのは難しいと聞くので、この短期間でななちゃんが覚えられるのか不安だ。
「ライブの振り付けや歌のパート分けは彩音がやってくれるはずだから、詳しい事はあとで彩音から聞いてちょうだい」
「わかりました」
ななちゃんが出演する曲の振り付けは彩音さんが行うのか。これは大変なことになったぞ。
彩音さんのライブはサラさん達よりもこだわりが強く、ダンスの振り付けも難しいいと言われている。
「(だからこそ人一倍練習をする必要があるんだけど、この時期から練習して間に合うのかな?)」
それ以前に彩音さんがこの話を受けてくれるのかわからない。
ライブの収録が8月下旬に行う予定となっているので、2か月間で素人がそれを覚えられるのかという不安もある。
「(こう考えると思ったより問題が山積みだな)」
だけど僕は姉さんのこの提案が承諾されるような気がした。
というより彩音さんはたぶんこの提案を断らないと思う。
「今年の夏は斗真も忙しいけど、菜々香ちゃんも忙しいわよ」
「もちろん覚悟してます」
「もし疲れ果てて家に帰りたくない日が会ったら、うちの事務所の配信部屋を使って。使う時は私に一言言ってもらえれば、貴方の両親に連絡をしておくわ」
「はい。ありがとうございます!」
どうやらこの夏は僕の想像以上に忙しくなりそうだ。姉さんの話を聞いているだけでめまいがしてくる。
この夏はあわよくばななちゃんとどこかに出かけようと思っていたけど、そういうわけにはいかなそうだ。
「はい、これでOK。2人共サインをありがとう。これからよろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
「そしたら斗真は早速仕事よ。会社のカードを渡すから、お菓子やジュースをスーパーに行って買ってきて」
「えっ!? 僕が買ってきていいの!?」
「もちろんよ。料理系の食べ物は事前に私が注文してあるから、お菓子やジュース等のこまごまとしたものを買ってきて」
「わかった」
「あと領収書を切るのを忘れないでね。領収書がないと経費で落ちないから」
姉さんにいきなり買い物を頼まれてしまったが、これはこれで重要な任務だ。
彩音さんを含めたタレントの3人は好き嫌いが激しい偏食家である。
なのでここで買うものを間違えたら、お菓子やジュースが事務所に溢れかえってしまう。
「(だからみんなの好みを考えて、お菓子やジュースを買ってこないといけない)」
これはこれで大変な仕事である。
もし大量に残るようなことがあれば、僕のご飯がしばらくお菓子になってしまうので注意が必要だ。
「あたしも斗真君と一緒に行っていいですか?」
「いいわよ。菜々香ちゃんの歓迎会なんだから、好きな物を買ってきなさい」
「そういえば姉さん、僕の歓迎会は?」
「この前2人でご飯を食べに行ったでしょ。あれが歓迎会の代わりよ」
「あれがそうなの!?」
「斗真は軽く話してるけど、あのお店は結構高かったのよ」
「それはなんとなくわかってるよ。でも歓迎会って色々な人に祝われるものじゃないの?」
「斗真は私が祝うだけじゃ不満?」
「そんなことないよ!? ななちゃんの歓迎会、楽しみだな!」
これ以上文句をいうと、あの時のご飯代が給料から天引きされそうだ。
それぐらい姉さんの顔には有無を言わせない迫力がある。
だからここではこれ以上口答えをしないことにした。
「じゃあ行ってきます」
「ちょっと待ちなさい。これ、会社のカードが入った財布だから。なくさないようにね」
「ありがとう。姉さん」
姉さんから会社のカードを預かった僕はななちゃんと一緒に近くのスーパーへ買い物に行く。
その際コンビニやスーパーだけでなく、近隣のお店を周り事務所へと戻ってきた。
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ここまでご覧いただきありがとうございます。
続きは明日の7時に投稿します。
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