第113話 マネージャーの役割

 撮影会が続く間僕はただぼーーーっとななちゃんの様子を見ている。

 ななちゃんがカメラマンに写真を撮られている間、僕は手持無沙汰になり何もやることがない。



「撮影が始まって30分。あれから人が途切れることがないな」



 ななちゃんが撮影会を始めると、俺が俺がとカメラを持った人達がわんさかと来た。

 それだけコスプレの完成度が高いのかもしれないけど、さすがにこの人数は多すぎる。



「ここまでずっと休憩なしで撮影会をしているけど、ななちゃんは大丈夫かな?」



 よく見るとななちゃんの額からうっすらと汗が流れている。

 この炎天下の中水も飲まずやっているので大丈夫なわけない。



「ありがとうございます。次の方どうぞ」


「すいません、少しだけお時間貰えませんか?」


「斗真君?」


「ななちゃん、これタオルと水だよ。よかったら飲んで」


「ありがとう。それじゃあもらうね」



 僕が出した飲み物を美味しそうにななちゃんは飲んでいる。

 この様子を見るに僕の判断は正しいと思う。ななちゃんのことを近くで見てわかったけど、長時間の撮影で疲弊していた。



「すいません。早くしてもらっていいですか?」


「ごめんなさい、今準備します!! 斗真君、これありがとう!」


「どういたしまして。ななちゃんも無理しないでね」


「もちろんわかってるよ」



 ななちゃんは机上に振る舞ってるけど、あのカメラマンの人達の態度が悪いな。

 モデルが疲れてるんだから、少しぐらい休んでもいいだろう。いつでも休めるカメラマンとは違って、こっちは休む時間が決められないのに。何様のつもりなんだ。



「このまま放って置いたらこの撮影会が永遠に終わらない気がする」



 どこかで歯止めをかけないとこの撮影会は永遠と続いてしまうような気がする。

 ななちゃんも平気な顔をしているけど、このまま続けていると倒れてしまうかもしれない。

 だからどこかでこの流れを止める必要があった。



「一旦撮影会を終わりにするか」



 今並んでいる人達だけにして、この撮影会を終わろう。

 思い立ったら吉日という言葉の通り僕の行動は早い。僕が列の最後尾に並び、これ以上人が並べないようにした。



「すいません、ここ並んでますか?」


「申し訳ありません。一旦休憩を入れたいので、あの子の撮影は今並んでいる人達で終了にしてます」


「あ~~~そうですか。わかりました。そういうことなら仕方がないですね」


「申し訳ありません」


「いえいえ。この炎天下なら仕方がないですよ。貴方も熱中症に気をつけて下さい」


「わかりました。ありがとうございます」



 最初は色々な文句を言われると思っていたけど、意外と話せばわかってくれる人が多い。

 やっぱりカメラマンの人もこの炎天下なので、レイヤーさんにも気を使ってくれてるみたいだ。



「(この調子で、どんどん断っていこう)」



 それからこの列に来る人達に対して事情を説明するとちゃんと理解してもらえた。

 カメラマンの中には僕の事を気遣ってくれている人までいる。

 やがて列の人がどんどん少なくなっていき、気づくとあれだけ長かった列がいつの間にかなくなっていた。



「あれ? 斗真君? もう撮影する人がいないの?」


「うん。一旦休憩を入れるって事にして、撮影会を終わらせたよ」


「ありがとう。正直撮影が続いていて、ちょっと疲れてたんだ」



 やっぱりそうだったか。撮影が始まってから約1時間、この炎天下で立ちっぱなしでいたらさすがに疲れるだろう。



「これはタオルと飲み物だから。よかったら使って」


「ありがとう」


「それとここは暑いから、どこか涼しい場所で休もう」


「うん!」



 確かこの庭園の入口付近にレストランがあったはずだ。そこで昼食を取りながらななちゃんのことを休ませよう。

 ななちゃんの手を優しく握り、僕は彼女と一緒に目的地へと歩き始めた。



「すいません。その子の撮影をお願いしたいんですけど」


「ごめんなさい。この子は今休憩中なので、撮影を遠慮させてもらってます」


「えぇ~~~!? 撮影NGって、プロ意識低くない!?」


「そうは言われても、僕達はプロじゃないので」


「いいじゃんいいじゃん! 1枚ぐらい減るものじゃないでしょ」


「だから撮影は遠慮させてもらってるって言ってるじゃないですか。カメラを構えるのはやめてください」



 なんだこいつは。こっちが撮影NGと言ってるのに、何故無理矢理撮影しようする?



「お前さっきからウザイな。一体その子のなんなんだよ?」


「友達兼マネージャーです。もしこれ以上しつこく彼女の事を撮ろうとするなら、スタッフを呼びますよ」


「ちっ!! プロ意識もない奴が、そんな格好をしてこんな所に来るなよ!!」



 謎の捨て台詞を残してカメラマンの人は去っていく。

 明らかにマナーの悪いカメラマンに対して、僕はいらだっていた。



「なんだよ、あいつは。コスプレイヤーを何だと思ってるんだ」


「ありがとう、斗真君」


「お礼を言われることはしてないよ。それよりもあいつの言っている事なんて真に受けなくてもいいからね」


「うん、大丈夫だよ! あの人の言ったことは気にしてないから安心して」



 変な事を言われたけど、ななちゃんが気にしてないようでよかった。

 なんかここは雰囲気が他の所と違うと思っていたけど、やっぱり離れた方がいい。



「やっぱり斗真君って優しいね」


「そりゃあななちゃんの事が心配だからね」


「うん! だからこれからもあたしの事を守ってね」


「そんなの当たり前だよ」



 僕はななちゃんのマネージャーをしているのだから、こういう事をするのは当たり前だ。

 これぐらい出来なければマネージャー失格である。姉さんから何を言われるかわかったものじゃない。



「そしたら早くここを出てどこかで休もう」


「うん!」



 僕の手を握るななちゃんと一緒に庭園のエリアを出る。

 それから少々遠回りすることになったが、庭園近くにあったレストランの中に入って休憩することにした。


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