第85話 恋のアドバイス

 ななちゃんの家で行われたコスプレショーから数日が経った週末の土曜日、この日はななちゃんが2か月ぶりに配信をする。

 この前彩音さん達と撮影したななちゃんのお披露目動画を昨日の夜YourTubeにアップしたので、今日の夜事務所の配信部屋を使って彼女の復帰配信をする予定となっていた。



「ななちゃんは迎えに来なくていいと言ってたけど、それを鵜呑みにして本当によかったのかな?」


「そんなに心配しているなら、今からでも迎えに行った方がいいと思うよ」


「でも、ななちゃんが今日は1人で行くから部屋で待っててって言ってたし‥‥‥勝手に迎えに行ったら嫌われませんか?」


「そんな奥手だから、この前神倉さんがアプローチしてきた時にヘタレるんだよ」


「あれはヘタレたんじゃなくて、ななちゃんのコスプレのクオリティーが高かったからそれに目を奪われて‥‥‥って彩音さん!? いつの間に部屋に入ってきたんですか!?」



 気付いた時にはもう遅い。僕の部屋には彩音さんがいる。

 彼女はキッチンの方で椅子に座り、僕が今日の朝食用に買ってきたクロワッサンを美味しそうに食べていた。



「ちょうど今来た所だよ。斗真君は僕の存在に気づかなかった?」


「はい、気づきませんでした」


「そんな調子だからダメなんだよ。もっと周りに気遣えるようにならないと、いい男にはなれないよ」


「すいません‥‥‥って、そういう問題じゃないでしょ!? 一体彩音さんはどうやって僕の部屋に入って来たんですか!?」


「どうやって入って来たかと言われても、普通に入って来たよ」


「でも、家のドアには鍵が掛かってたはずですよ!? そんな状況でこの部屋に入れるわけがありません!!」


「ちっちっちっ、相変わらず斗真君は脇が甘いな」


「脇が甘いってどういうことですか?」


「確かにこの家のドアには鍵が掛かっていて入れなかった。でも、ドア以外にもこの部屋に侵入出来る方法があるだろう」


「もしかして彩音さん‥‥‥ベランダから侵入したんですか?」


「その通りだよ。さすが斗真君だね! ものわかりがよくてお姉さんは嬉しいよ!」



 そういえば2階だから大丈夫だと思って、ベランダの窓の鍵をあけっぱなしにしていた。

 きっと彩音さんは僕の部屋にそこから侵入してきたのだろう。

 この前ななちゃんがこの部屋に来た時にベランダから僕の部屋を覗いていたことを完全に失念していた。



「不用心だぞ、斗真君。ベランダの鍵が掛かってないなんて、泥棒が入ってこいと言っているようなものじゃないか」


「すいません」


「全く僕だったからよかったものの、泥棒が入ってきたら大変なことになってたよ」


「わかりました。次からは誰も入ってこれないように、しっかりと施錠しておきます」


「うんうん、わかってくれればいいんだよ」


「次からはカーテンもつけて部屋の中を見れなくして置きますので、よろしくお願いします」



 犯罪者みたいな事をしているのに、彩音さんのさわやかな笑顔を見るとその罪を許してしまいそうになる。

 でもこの笑顔にごまかされてはいけない。1度甘い顔をしたらそれこそ彩音さんの思う壺だ。



「(一応このことは後で姉さんにも報告しておこう)」



 たぶん姉さんの事だから、ものすごい剣幕で彩音さんを説教してくれるだろう。

 彩音さんの問題に1番手を焼いているのが姉さんなのだから、ちゃんと報告をすればしっかりと対応してくれるはずだ。



「この前の件もそうだけど、斗真君はもっと男として積極的に行くべきだよ」


「何の話ですか?」


「神倉さんのことだよ。せっかく彼女が勇気を持ってアプローチしてきたんだから、それに応えないなんて男として失格だよ」


「だっていきなり胸に顔をうずめられても、どうすればいいかわからないじゃないですか!?」


「そこは左手で軽く女の子を抱き寄せて、相手が抵抗しないことを確認したら、優しく髪を撫でてあげるんだよ。もちろん髪を触られるのが嫌な女の子もいるから、その辺りは相手の反応を見て行動するんだ」


「そんなことをしたら、変な雰囲気になりませんか?」


「何を言ってるんだい君は? 相手がそこまでしてくれたなら、そういう雰囲気になったっていいだろう!!」


「そうなんですか?」


「そうに決まってるだろう!! 相手がそこまでしてくれたんだから、その好意にこっちが応えなくてどうするんだ!!」



 ぐっ!? 彩音さんのくせに正論で僕を論破しようとしてくる。

 いつもは適当な事しか言わないのに、女の子の話になると真っ当なアドバイスをしてくるなんておかしいだろう。



「そんな雰囲気になって、ななちゃんとキスをすることになったらどうするつもりですか?」


「どうもしないよ。むしろそういうムードに持ち込めたなら、相手に対してキスをしないことが失礼にあたる!!」


「ぐっ!? 彩音さんのくせに、真っ当なことを言うんですね」


「当たり前だろう。むしろその話を君から聞いた時、僕は驚いたよ。そこまで2人は仲よくなったのに、何もしないで帰ってくるなんて間違ってる」



 何故彩音さんが僕とななちゃんしか知らないこの話を知っているのか。それには色々と理由がある。

 それは僕があの時の出来事について、彩音さんにそのことを相談したからだ。

 普段は破天荒なことをしてみんなに迷惑をかけている彩音さんだが、女性の扱いに関しては誰よりも上手い。

 なので僕は彼女に今回のことを相談することにした。



「(下手をすれば彩音さんがこのことを周りに言いふらす可能性があったけど、何故か周りに言わなかったんだよな)」



 もちろんそういうリスクを背負う事を承知した上で僕は彩音さんに相談したが、何故か彼女はこのことを周りに言いふらしていないみたいだ。

 その証拠にこのことを知ったら真っ先に茶化してきそうな姉さんが僕に何も言ってこないので、彩音さんは僕との約束を守ってくれているに違いない。



「(珍しい事もあるものだな)」



 心の中ではそう思いつつも、背に腹は代えられないので僕は彩音さんに女性の扱い方について色々と質問している。

 それに対して彼女は快く答えてくれるので、僕は彼女から色々なことを教えてもらっていた。


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ここまでご覧いただきありがとうございます。

続きは明日の7時に投稿しますので、よろしくお願いします。


最後になりますがこの作品がもっと見たいと思ってくれた方は、ぜひ作品のフォローや応援、★レビューをよろしくお願いします。

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