第41話 あたしだけの王子様(柊菜々香視点)

《柊菜々香視点》



「えっ!?」



 あたしは何が起こってるのか理解できなかった。ただ唯一わかることは、目の前の男の人にスマホで撮影をされていることである。

 いや、撮影じゃなくてこれは生配信だ。突然現れた男の人があたしや美羽ちゃんが映る画角にスマホを向け配信をしていた。



「いつもは深夜の放送だけど、今日は特別枠って事で昼から放送させてもらってます!」


「『待ってました!』『さすがさっちー行動力がある!』『もしかしてあの噂のVTuberの話ですか?』 そうだよ! 今日はこの前話していたVTuberの素顔をお披露目しようと思って、わざわざこの枠を取りました!」


「VTuber? 何の話?」



 美羽ちゃんは何も知らないみたいだけど、もしかしたらこの人はあたしがVTuberだという事を知っているのかもしれない。

 この事を知ってるのは学校では斗真君だけなのに。それなのにも関わらず何でこの人がその秘密を知ってるんだろう。それがあたしにはわからなかった。



「見て見てみんな! この可愛いギャルと清楚な女の子。どっちがこの前の配信で話題にしたVTuberだと思う?」


『ギャルの女の方だろう』


『あのVTuberがこんな清楚で可愛い女の子のはずがない』


「‥‥‥‥ふむふむ。視聴者の皆は可愛いギャルの女の子がくだんのVTuberだと思っているようだね」


「ちょっとあんた!! さっきから何を言ってるのよ!! ウチ達にもわかるように話しなさい!!」


「うるさいな!! いい所なんだから、ガキは黙ってろ!!」


「がっ、ガキ!?」


「そうだよ。まだ世間の荒波にも揉まれたことのない青臭いガキは引っ込んでな」



 目の前の男性はそういうと得意げに笑う。

 そのいやらしい笑みは見ているだけで人を不快な気持ちにさせる嫌な笑い方だった。



『さっちー、さっきの答えは?』


『ガキの相手なんてしてないで、早く答えを教えてよ』


「‥‥‥‥‥ごめんごめん、それでは正解発表に移りましょう!」



 そう言うと男性は持っていたスマホをあたしに向けてきた。

 この様子を見るに間違いない。どういう経緯で知ったかはわからないけど、この人はあたしがVTuberだということを知っているようだ。



「正解はこちら! この可愛いギャルの隣にいる清楚な女の子。これがエッチな事を売りにして人気を獲得しているVTuber、神倉ナナだよ!」


「いやっ!!」


「何で顔を隠すのさ。いつもはノリノリでエッチな事を話してるんだから、俺の放送でも話してよ」



 彼があたしの事だけを撮影しているのがわかる。

 目の前でスマホを構えて、あたしの顔がはっきりわかるように撮影していた。



「何だよ、つまらない。いつもは男に媚びるような事をしてるのに、プライベートでは清楚ぶってるのか」


「何の事かわかりません」


「わからなくないだろう。声は神倉ナナと全く同じだし、顔だって写真にあった通りだ」


「写真?」


「何だ、何も知らないのか」


「写真って一体何ですか!! あたしは写真なんて知りません!!」


「知らないならそれはそれでいいや。知らない方が幸せな事もあるからね」


「どういうことですか?」


「そのままの意味だよ。それよりも神倉さん、写真で見るよりも可愛いね。今からでもVTuberなんて辞めて、アイドルをやった方が売れるんじゃない?」



 その言葉を聞いて、あたしは自分の顔を配信にさらしていることに気づいた。

 慌てて自分の顔を両手で覆うがもう遅い。生配信にはあたしの顔がバッチリ写っている。



「神倉さんの視聴者も今頃みんな興奮してると思うよ。20代後半~30代前半のアラサーおばさんだと思っていた神倉ナナのキャストが、現役女子高生なんて誰も思わないでしょ」


「何のことですか?」


「それにドウセツも8000、9000‥‥‥1万人以上もいる! これは絶対にバズること間違いなし!! 僕や神倉さんの視聴者もみんな喜んでるから、大成功だね♪」



 怖い、怖いよ。誰かあたしを助けて。

 ただそう思っても誰も助けに来てくれない。みんなこの状況に頭が追い付いていないのか固まっている。



「誰か‥‥‥誰か助けて‥‥‥」



 この状況下で助けてくれる人なんて、本当にいるのだろうか。

 隣にいる美羽ちゃんですら何も出来ずに固まってしまっている。あまりに特殊なこの状況に戸惑い、どうしたらいいのかわからなくてみんな身動きが取れないでいた。



「それじゃあこれから色々とインタビューをしよう。早速1つめのしつ‥‥‥ちょっ!? お前、何をするんだよ!? 今放送中なんだから、勝手に入ってくるな!!」



 こんな状況でもあたしを助けてくれる人がいた。それは一体どんな人だろう。

 両手を顔から離して上を見上げると、そこにはいつもは教室の隅にいる地味な格好をした王子様があたしの前に立っていた。



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ここまでご覧いただきありがとうございます。

続きは明日の8時に投稿します。


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