第11話

「休んでいるところ悪いんだけど、鑑定をしてくれないかな?」


 アイナ達がいるパラスの街へ歩いて向かっている途中で見晴らしのいい草原に来ると天気も良いので休憩を挟む事にしたのだが、禁断の洞窟で拾ったアイテム達が気になって仕方がなくなった俺は原っぱで気持ち良さそうに寝っ転がっているアリスに申し訳ないと思いつつ話しかけた。


「うん、いいよ!」


 アリスは小柄な体を起こすと笑顔で快諾してくれた。


「ありがとう」


 俺は禁断の洞窟で手に入れた数々のアイテムにより重たくてしょうがない大きな袋の口を開くと中身を地面に広げた。


 装備類はひとまずいいとして袋の重さを占める回復薬と思われる液体の入った瓶を並べて一つずつアリスに見てもらう事にした。


 さすがに中身が分からないと飲めないし、もしかしたら必要ないかもしれないからだ。


「これは?」


 微量の光を放つ紫色の液体が入った瓶をアリスに見せた。


「極級回復薬だって何でも怪我を瞬時に治せるって書いてあるよ!」


 何でもか……俺の知っている一番上の上級回復薬は高価で、俺を含む並の冒険者は中級を使っている。という事はこの回復薬は更に重症でも治せるのか……それに瞬時って所もヤバい物だと分かる。上級でも回復に時間がかかるからそれも極と言われる所以だろう。


「じゃあこれは?」


 今度は少し光を帯びた水色の液体が入った瓶を見せる。


「えっと……名前は万能薬であらゆる病気を治せるって書いてある!」


 なんだって……。


 病気を治せるのは神官による魔法と薬草を調合した薬だ。それでも未知の病気が数多くあって毎年何人もそれで死んでいる。確か何年か前にも何処かの国の王女様が難病で命を落としたと聞いた事がある……もしかしたらこれがあったら救えたのかもしれない。誰もが喉から手が出るほど欲しがるものだろう。


「じゃあこれは?」


 最後に無色透明だがキラキラと光る液体が入った装飾が変に凝っている瓶を見せた。


「蘇生薬だって! 死んで間もない生命を生き返らせるって書いてあるよ!」


「嘘だろ……そんなのもう奇跡じゃないか……」


 これは流石にヤバい! どんだけの価値があるのか想像もつかないぞ。命を狙われかねない代物だ。


「極級回復薬と万能薬が10本に蘇生薬が5本か……大事に使おう」


 回復薬の鑑定が終わると次に平べったい金属の板をアリスに見せた。


「これは?」


「能力板って名前で、それを持って開けって言うと持った人の能力が見れるって書いてあるよ!」


「それってギルドカードより細かく見れるのかな? やってみるか……」


 ギルドカードは自分のレベルと習得スキルしか分からないから楽しみだ。


 俺は能力板を両手で持つと緊張からふうと一呼吸する。


 なんかドキドキするな……。


「よし……開け!」


 能力板に文字が浮かび上がってくると気付いていない隠された特殊能力があるのでは? と、根拠のない少し淡い期待を抱いて更にドキドキと胸が高鳴りはじめた。


 どれどれ……。


 まずは俺のレベルと習得スキルが文字として浮かび上がってくる。そして待つ事数秒後に特殊能力の欄に文字が浮かんでくると気分は最高潮に達した。


 なんだなんだ! 俺には何か特別な力が⁉︎


 能力板を顔の近くに寄せてその一点を凝視した。


 呪縛状態


 ……は? 呪縛状態? なにそれ特殊能力なの?


 最高潮に達した気分は滝から水が一気に落ちる様に急下降すると能力板を破壊したい衝動を抑えその代わりとばかりに草むらの上にポイッと放り投げた。


 呪縛という言葉には身に覚えがあった。


「俺に力をくれたんじゃないのかよ……」


 死の淵にいた時に現れた若い男の言葉を思い返すと力の代償とやらが恐らくこの呪縛だろう。では引き継いだとされる力とは何なのだろうか。


 ……もしかして騙された?


 俺の一方的な八つ当たりで無惨にも土で汚れ放置された能力板を見て思う。これなら気になっていたアイナの隠された能力も分かるんだろうかと。


 その能力板にお前は普通だと分からされガックリと肩を落とした俺が気を取り直して次にアリスに見せたのは透明な宝石の付いた指輪だった。


「異空間を作り出す指輪だって!」


「異空間?」


「付けてみて!」


 俺はアリスに言われた通りに指輪を人差し指にはめるとアリスを見た。


「これでどうするの?」


「異空間発動って言うと入り口が出現するって書いてあるよ!」


「分かった! 異空間発動!」


 すると俺の目の前にボウっと白く歪んだ丸い穴が浮かび上がった。


 「わぁ‼︎」


 どうしたらいいのか分からずその穴を見ているとアリスが面白そうに穴に飛び込んで行き吸い込まれるように消えていった。


 それを見て後に続いた俺が見たのは真っ白な世界だった。


 その広さはお城を建てるのにちょうどいいほど広大なものだった。


「凄いな……俺だけの空間か」


「ひろーい!」


 アリスが何もない空間を駆け回りはしゃいでいるのを見ながら俺の頭では妄想が駆け巡りワクワクが止まらなかった。


 家を建てるだろ……それに物を置く倉庫に食糧庫も欲しいな! ……待て待て落ち着け……まだ仕様が分からないからよく調べてからだ。


 考えれば考えるほど便利なこの空間にとりあえず今まで大きな袋に詰め込んでいたアイテムを並べて置いた。


 綺麗な床とはいえ直置きはなんかやだな……街に行ったら薬とかのアイテムを置く棚と装備を置く台を買おう。


 床に混雑して並んでいる装備や結晶を見てそう決意すると先程スキルが習得できる結晶を見つけたのでそれを手に掴んだ。なんとレベル200が必要なヤバいやつだ。


 それは微弱の光を纏う透明なスキル結晶で手にするとスキル名が頭に浮かび思わず頬が緩む。


「ガイアランス!」


 頭にスキルが入ってくる……早速試そうか!


 俺は異空間から出て周りに誰もいない事を確認すると剣を地面に突きつけてスキル名を叫ぶ。


 ガキン‼︎


「ガイアランス‼︎」


 ドォーン‼︎


 地面から広範囲に幾つもの槍の形をした岩が天に向かって突き出した。


 範囲スキルはかなりのレアでこれを欲しい奴は後を絶たないだろうな……まあレベル200なんて無理だろうけど。


「凄い……」


 見たことの無い凄まじい威力の範囲スキルに唖然としていると隣のアリスも「おお〜!」と声を上げていた。


「凄いねセト!」


「……この力でアイナを助けるんだ」

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