第9話
「ここが一番下だよ!」
かなり下まで来たと思っていた矢先だった。アリスの嬉しそうな声が耳に入るとあの禁断の洞窟の一番下にいるという事がどれだけ凄い事なのか実感する事ができなかった。
ここでの戦闘は今までの高難易度と言われる洞窟より遥かに敵が強くて人間では到底無理なんじゃないかと思わされた。昔何人もの冒険者が散っていったというのも納得できる。
俺がここまで来れたのはレベルの急激な上昇に加えてアリスからもらった強力な装備のおかげなのだがそれ以上にアリスの力が凄すぎた。
これまでの戦闘でアリスは見た事のない威力の魔法を使っていた。上級魔法を使えるアロンズと比べてもまるで次元が違い過ぎた。例えばアリスが使う炎の魔法は敵を焼き尽くすまで消えないまさに地獄の業火なのだ。
「よし、行こう」
ガチャガチャ!
歩きだそうとした瞬間だった。前方で金属同士が当たる音が幾つも鳴り響き、静かだった部屋が騒がしくなると咄嗟に身構えた。
「アリス! 敵だ!」
人の足音にも聞こえる音とガチャガチャという音がどんどん大きくなりこちらに迫っている。
「明かりつけるね!」
アリスがそう言って天井に光を放つと音を立てる者達が姿を現した。
「こ、これは⁉︎」
ざっと100は超える人の姿をした者達がドス黒いただれた肌をさらけ出し呻き声をあげていた。その中でガチャガチャ音を出していた鎧を着た兵士と思われる男の胸に見覚えのある紋章が……。
「あれはランド王国の紋章……こいつら、過去に攻略しに来た冒険者達か!」
深淵のダンジョンでも稀に死んだ冒険者がアンデットとなって襲ってくる事はあった。冒険者ギルドではなるべく死体は回収するようにしていたが奥になればなる程それも困難になり大きな問題となっていた。
「……眠らせてあげなきゃ」
俺は未だこのダンジョンに縛られている人達に心を痛めながら剣を振り続けた。
アンデット達は俺の剣で次々と倒されると最後はアリスに炎で焼かれ灰となって散っていった。
「これで最後!」
戦闘が終わり辺りはシーンと静まり返ると俺は手を合わせた。
「今まで辛かったよな……安らかに眠ってくれ」
これまで禁断の洞窟の話は幾つか聞いていて、まだこのダンジョンが閉鎖される前、行きたくないのに国の力を世に知らしめるというだけで無理矢理行かされた有名パーティがいたという話や悪い奴に騙されてダンジョンに入ってしまったパーティなど悲しい事件が多くあったそうだ。
そんな人達だったと思うと心にやりきれなさを生んだ。
静かになった部屋を進むと今までと違う扉が姿を現した。
扉の前に到着しアリスに視線を移すとアリスはニコッと笑って頷いたので扉を力一杯押していった。
ゴゴゴ
大きな扉は重い引きずるような音を立ててゆっくりと開いていく。
半分くらい開けた所で部屋の中を見ると魔法陣のようなものが描かれ光を放っていた。
「どうするんだ?」
隣にいるアリスに聞くとアリスは部屋の真ん中に軽い足取りで移動し俺の方に振り返って大きく手招きをした。
「こっちこっち!」
俺は言われるがままに恐る恐る部屋に入りアリスの隣に立つと次の瞬間周りが強い光に包まれ思わず目を閉じた。
ヒュ〜〜
俺の頬を柔らかい風が撫でる。
……すっと息をすると空気が違う事に気づいた。風で煽られた植物の葉が当たる心地よい音といい匂いが緊張していた体を和らげた。ゆっくりと目を開けるとそこは薄暗い森の中だった。所々葉の隙間から光が差し込んでいる。
「やっと外に出られたー!」
アリスは外に出れたのが余程嬉しかったのか大きく弾んだ声をしていた。
「まさかこんな事になるなんてな……」
死ぬつもりで洞窟に入ったのにまさか生きたまま外に出てきたなんて……。
未だに実感が沸かず、これからどうするか考えていると誰かの話し声と足音が聞こえたのでとっさに木の影に隠れていた。
「この近くの洞窟だっけ? 今日街で騒いでた話であったじゃん」
女の声が聞こえると俺は耳を澄ました。
「ああ、勇者アイナのパーティから外された冒険者がやけになって入って行ったってやつだろ? 馬鹿だな、勇者様はそれを聞いて泣き崩れていたらしい……」
俺は会話の内容がすぐに自分の事だと気付き身が引き裂かれる思いで茫然と立ち尽くしていた。
俺はもうアイナ達に合わせる顔もないし会う資格もない……。
「リアンは死んだ……今から俺はセトだ」
皆は俺が死んだと思っているはず……これでいいんだ。
俺は装備品の中から目と鼻を隠す程の仮面を取り出すと顔に付けた。
「アイナごめんな……」
これから大事な旅に行かなきゃならないって時に、俺の馬鹿な行動で人を救う旅に水を差すような余計な負担を与えてしまった……せめてもの償いに俺は影からアイナを助けるよ。
「なあアリスはこれからどうするんだ? 俺は旅に出るけど」
アイナ達が向かう街へ早く行かなければと思いながら隣で外の空気をいっぱいに吸っているアリスに話しかけた。
「う〜ん……面白そうだから一緒に行く〜」
少し考える素振りを見せたがアリスは満面の笑みでそう答えてくれた。ギュッと俺の腕にしがみついて笑顔を向けている。
「正直アリスがいると心強いよ凄い魔法使うし」
「任せてリアン‼︎」
「アリス今日から俺の事セトって呼んでくれ」
「うん! セト!」
不思議とアリスの笑顔を見ていると孤独からきていた寂しさや辛さが和らいでいるのを感じる。正直一緒に来てくれると聞いて凄く嬉しかった。
でもアリスの親が見つかったら別れが来る……また孤独になる恐怖が俺の心を不安にさせるがそれでもアリスは今の俺にとって心の拠り所であり恩人なのだ。
まだ会って少ししか経っていないのにアリスは確実に俺の中で大きな存在になっていた。
早速目的地に向かって歩いている途中140から見てなかったレベルが気になり、改めてギルドカードを見ると思わず足を止めてカードに見入ってしまった。何故ならレベルが210になっていたのだ。
嘘だろ……。
俺は何故レベルが急激に上がるのかと考える前に急いで袋からあの150レベルが必要と言われていたスキル結晶を出して手に持っていた。
いける!
「グラトバーンド!」
頭に浮かんだスキル名をそのまま叫ぶとスキル結晶から放たれた光が俺の頭に吸い込まれ結晶は色を失いボロボロと崩れていった。
「……よし」
スキルの内容が同様に頭に入っていたので剣を背中から抜くと構える動作と共にスキルを唱えた。
「グラトバーンド‼︎」
シュ‼︎
バババババ!
俺は剣を手にスキルを発動させると体から剣に青色の光が伝わりひと突きしただけで5連撃が繰り出された。今度は岩に向かって放つとガガガと次々と穴を開けていき発生速度や威力がケタ違いに高いのが分かった。恐らく分類は極上級になるだろう。
「おー! セト凄い!」
後ろからアリスの驚く声が聞こえて少し照れた。
世間ではスキル発動すると体が光りその色で初級から上級まで区別されている。
初級は白いオーラ、中級は緑のオーラ、上級は赤となっている。少し前に青色のスキルオーラが確認され極上級スキルと新たな階級が増やされたのだ。
「これならアイナを助けられる……」
強力なスキルを習得した俺はアイナがいる街に向かって歩き出した。
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