第3話 再会
莉菜が目の前にいる。2学期から、担任が産休に入るということで、新しくこの学校に来たという先生が担任になると紹介された。
少しやつれ、暗い雰囲気だが、あれは間違いない莉菜。前の人生で私が付き合っていた人だった。
私は、前の人生で付き合っていた人とは関係を遮断していたの。会っても、誰って感じだと思うし、年だけじゃなく性別すら違うから。莉菜と別れるのは辛かったけど、彼が女子高生になっちゃったと話して、それからも付き合える気がしなかったし。
だから、親から、莉菜には、私は死亡したということを伝えてもらった。それ以降の、莉菜がどう過ごしてきたかは知らない。
莉菜とは、大学3年の時に知り合った。大学の銀杏並木で、あまりに素晴らしい風景を眺めて立ち尽くしていていたら、莉菜も上を見上げ、すごく綺麗ですねって声をかけてきたの。女性から声をかけてくるって少し、驚いたけど、無邪気に笑う顔が素敵だったわ。
でも、すぐに声をかけると変な人だと思われるかもしれないから、そうですねと笑顔を返して、その場は通り過ぎたの。でも、その後、何回か見かけることがあって、勇気を出して、飲みにでも行きませんかと誘ったら、笑顔で行こうって言ってくれた。
「あ、花咲がにの軍艦巻きがあるんだ。これは食べたいな。あとは、う〜ん。任せる。あと、グレープフルーツサワーをお願い。」
「わかった。ところで、花咲がにってどこのカニ?」
「北海道の根室のあたりのカニ。私のおじいちゃんがいるところ。」
「そうなんだ。北海道で生まれたの?」
「北海道の両親が東京の狛江にきて産んだ子供なのよ。川上さんはどこ生まれなの?」
「僕も東京。とは言っても、神奈川とか言われている町田だけど。」
「結構、近いじゃない。ところで、川上さんは何歳なの? 私は大学3年の20歳だけど。」
「同じ年で同じ学年なんだ。この時期って就職活動とか大変だよね。」
「そんなこと、気にしているの? なるようになるって。せっかくの大学生活なんだから満喫しないと。」
莉菜は、初めて話したのに、そんなことは全く感じさせず、ずっと明るかった。誤解がないように言っておくと、私以外の男性とは、そんなに馴れ馴れしくしてた訳じゃないのよ。二人とも気があったのかな。
「今日は急に誘ちゃってごめんね。」
「とんでもない。実は、私、少し前から、川上さんのこと素敵だなって遠くから見ていて、今日、声をかけてくれて嬉しかった。あら、私、酔っているのかしら。恥ずかしいこと言っちゃった。」
「桜井さんは天真爛漫で、そんな姿が素敵だな。他の女性と違って、いつも明るくて、周りを元気にさせるっていうか。そんな女性と一緒にいると、僕も楽しい。」
「ありがとう。ずっと、川上さんが元気に生きられるように、側にいたいな。また、言っちゃった。恥ずかしい。そうそう、今度、どこか行こうよ。」
「江ノ島とかどう? 前から行ってみたかったんだ。」
「江ノ島か。私も行ったことないから楽しそう。行こう、行こう。」
「じゃあ決まりだ。来週の土曜日に一緒に行こう。」
そして、私たちは付き合い始めた。私は、莉菜とずっと一緒にいたいと思った。だって、莉菜は、常に明るく、一緒にいると、私も前向きになれたし、悩みとかも、どうでもいいって気になれたもの。
そして、私は、旅行代理店に入社し、莉菜は高校教師になった。25歳の冬から婚約をして同棲を始め、1ヶ月もしないうちに私は池袋の事件に巻き込まれた。そして、莉菜には親から私は死んだと伝えたと聞いている。
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