第二章 神楽の射手

ハトになって外出です!

第18話

 ジリジリと暑くなってきた、6月の下旬。

 私はいま、空を飛んでます。パタパタと羽ばたかせるのは、ちょっとくすんだ白い羽。楽しい! 楽しすぎるぅ~。

 小さく見える都心部。道路を行き交う車や、人々を小さく眺めながら。グングンと進んでいく。いや、飛んでいく!!


「あそこのビルの上で休憩しましょ」

「はい。紗雪先輩!」

「その呼び方、やめてくれない?」

「え? じゃあハト先輩です?」

「……もういいわ、降りるわよ」


 翼を広げ高層ビルの屋上へと着地。下をキョロキョロと見渡すと、絶景かな絶景かな。

 隣にはくすんだ白い鳩、紗雪さんでございます。


 鵺の討伐の件も含めて、ミコト様が外出していいよって言ってくれました。ただ、なんでか動物に変身しないといけないらしく、鳩になったけど。

 亮介さんは人の姿のまま外出するのに、なんで私は動物にならないといけないんですかって聞いたら、それは私達が神の使いだからなんだってさ。


「いや~。でも鳩になって外出するのって、楽しいな~」

「そう。私はあんまり好きじゃないわ。今回だって用事がなければ外出なんてしてなかったし」


 鳩になっても紗雪さんはやっぱりクールだ。美人……かどうかはわからないけど、中身は美人どす。

 今回のお仕事は紗雪さんと一緒に書簡を届ける事。現世の世界のが安全だし、ついでに気分転換しておいでってさ!


「ここから厳島いつくしま神社までは約2日かかるから。途中どこかで宿泊するわ」

「え〜と、どこで宿泊するんですか?」

「この現世の世界では、様々な場所に専用の宿があるわ。いけばわかる」

「おぉ! わかりました!」

「さて。いくわよ」


 くすんだ羽をパタパタと広げて、澄んだ空へと飛び立つ。こんな経験が出来るなんて、就職して良かったと思います。


 活気のある住宅街を抜け、緑豊かな山々を越え、青色で穏やかな小川をいくつも越えて。

 蒼く波打つ海を眺めながら、反射する光がキラキラと綺麗だなって。

 そんな景色を楽しみながら、時々休憩しつつ、飛んでいきます。

 やがて夕陽が沈みかけ、紅葉したような景観へと移り変わっていく。

 

「きれい……私が住んでた世界って、こんなに綺麗だったんだ……」


 過去を懐かしむような気持ちで、なんだかそれがおかしく思えて。私も住んでる世界なのにな。

 やがて見えてきた、隠れ家的な場所にある、こじんまりとした滝。


「ほら、あそこの滝にむかうわよ」

「はい!!」


 夕暮れの山には様々な小鳥さんがいて。山を駆け回る動物さんもいて、それがなんだか、とっても元気いっぱいで。そしてパタパタと滝の横にある絶壁の一部に着陸です!!


「ここで寝るんですか?」

「ちょっと待って、くるから」


 水しぶきを散らしながら真っ直ぐに下へと落ちていく、ちょっと赤く染まった小さめの滝。

 波紋がたつように、一部分が変化した。中からヌっとでてきたのは……。


(あれ? 黒いカラスさん?)


「おう、いらっしゃい。はやく中に入るっペ」

「ありがとう。ほら、いくよ? 私と同じように飛び込んで」


 紗雪ハトさんはなんの迷いも見せずに、入口みたいなその輪っかへと飛び込んだ。


「えぇーい、とびこめ!!」


 飛び込んだ直後の視界はシャワーを浴びているかのような――――っていきなり壁!?

 バシンと身体が壁に激突してパタンと倒れた。うぅ……痛いです……。


「……早くいくわよ」


 身体を起こして横をむくと、そこには紗雪ハトさん。右手……右の翼を指差すように、クイックイッてしてた。

 後ろをついていくと、そこは洞窟の中にある小さな旅館みたいな場所。ほんわか燃える松明たいまつの火が、何箇所にも設置してあった。

 エントランスっぽいところまでいくと、複数の黒いカラスさん。土色の浴衣みたいな服を着てて可愛かった。これ着たいな。


「2匹様でございますか?」

「ええ、部屋はダブルのシャワー付きで。明日の朝食はつけて」

「かしこまりました」


 ハトさんとカラスさんが会話してる……2匹さま。確かにハトなんだけど、2羽じゃないんだ。


「いくわよ。首を傾げてる場合じゃないわ」

「はい!」


 小さな枝みたいな足を使って、テクテクと歩いていく。頭を前後させてみたけど、その必要はないみたい。

 畳が敷いてあるロビーみたいな場所の奥、廊下を通って藁のカーテンをくぐります。


「リゾートであります!」

「幸せそうね。その思考が羨ましいわ」


 なんか珍しい光景だし、さっそく探検してみやす。

 小さな和室に、藁の塊がふたつ。これベット?

 右側の穴をくぐると、小さな穴がポツン。これはトイレットペーパー……うぅ。


 気を取り直して反対方向の穴をくぐると、丸いシャワーヘッドみたいなのがぶら下がってる空間。なんだろこのマーク?

 踏んでみたら、上から水が降ってきた。あったかい、お湯だ。

 マークから離れるとお湯がとまった。この濡れた身体はどうすれば……こうかな?

 ブルブルと身体を震わせた、でもなんかまだ濡れてますわ。


 ペチペチ歩いて和室にもどると、眉間にシワをよせた紗雪ハトさん。ハトなのに、そんな表情出来るんだ。


「タオルはそこ。使ったらあっちの箱」

「これですか?」


 茶色い布の上に転がります。うーん、微妙。


「私もそうだけど、スキンケアは諦めてね」

「はい………」

「晩御飯は部屋にくるけど、あまり期待しないほうがいいわ」


 そういって紗雪ハトさんは畳の上にしゃがむと、一息ついた感じ。同じようにのっかってみた。う〜ん、和みませんわ。お茶とか飲みたい。


「あの、飲み物とかは?」

「ロビーにいったら飲めるわ。受付のカラス嬢にいえば出てくる」

「ちょっと行ってきます!」

「えぇ」


 身体を起こして、ロビーへと向かった。

 それにしても、カラス嬢なんだ。なんか不思議な宿だね。

 



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る