透明伝説

18世紀の弟子

第1話 透明化サンプル

 その日は意外にも透き通っていた。この日からスケルトンになれるという知らせを受け取ったのは二ヶ月前だが。確かに非常に透けている。手のひらも足も透けている。思ったよりも。つまり、完全に透けてはいないのだ。この瞬間に私は「詐欺なんじゃないか」という憤りが湧いてくるのを感じた。誇大広告じゃないかという苛立ちもあり、おそらく全国で同じ感情の人が多くいることは想像に難くない。

 こうなると動きは速い。仕事は遅いがクレームは誰よりも速い自信がある。片手でスマホを操作して商品のレビューページを開いて、星の数を最低にして投稿しようとしたが、その前に商品ページをもう一度読んでみた。そこに記載されていたのは「完全に透けます。あなたの姿は誰からも見えません。そして本人から半透明に見えます」との表記。なるほど、確かに本人も完全に透明だと、手で何かを掴むときや歩くときも困る。利用者目線の開発努力に「なるほど」と感嘆の声をあげた。すぐに星の数を最大にして「半透明の配慮が素晴らしい」と投稿した。

 ちなみに私はサンプル品のお試し利用者である。応募したら偶然にも選ばれたわけだ。透明化には非常に興味があり、知らせが届いたときは喜んだのは言うまでもない。届いた商品の梱包を開けたら内服用カプセルがあり、それを飲むと透明になれた。

 透明化の原理はよくわからない。カメレオンのような一部の動物は背景色に擬態化するが、その細胞から研究開発されたとのこと。まあ、その辺はどうでも良い。重要なのは透明になって、これからの行動予定だ。

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