【完結】何をやらかしたのか全く分からないが確実に俺はやらかしたらしい
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第1話 霹靂のごとき理不尽
誰か俺を助けてくれ。
助けてくれなくても、せめて俺にも納得のいく説明をしてくれ。
「私としては不本意と遺憾極まりない」
はい、お気持ちは分かります。
王国一の美女と名高い、筆頭公爵家のパルベッヘル公爵ラプトン家のエレーナ嬢が、よりにもよって『地味豚公爵』と貴族の中で馬鹿にされている俺と結婚したいそうですからね。
一体何がどうなって、田舎領主の俺が、黒い噂もあるパルベッヘル公爵家に目を付けられたんだろう。
「どうして私達の可愛いエレーナが、こんな【生活魔法】しか使えない男と……」
「……せめて【回復魔法】なら王宮仕えの見込みもあったのに。あまりにも趣味が悪すぎると思うが……」
……パルベッヘル公爵や公爵夫人、跡取りのユスター殿からの殺意の眼差しに冷や汗が止まらない。
俺は手の中のハンカチを握りしめて、
「あ、あの、恐れながら、これはエレーナ嬢の一時の気の迷いか人違いでは無いでしょうか?」
パルベッヘル公爵は不愉快そうにテーブルを叩いた。
鬼気迫る有様に、俺は小さな悲鳴を出しそうになる。
「残念だが娘は間違いなく貴殿を選んだ。それが5年前だ。そして私達家族の説得にも耳を貸さず、今や貴殿と結婚できなければ修道院に行くと身支度さえ始めている」
「あっ、えっ」
「繰り返そう。私としては不本意と遺憾極まりない。万が一貴殿がエレーナを傷つけ蔑ろにしたならば……」
暗殺ですか。俺はハンカチを握りしめている手が震えないように振る舞うので必死だった。
「こんなことになるのならばエレーナを王太子妃に無理にでも立候補させておくのだったわ!」
夫人が般若の形相で俺を見てくる。
「そうすればまだ王都から離れることも無かったのに!」
「母上、冷静に。……オールー公爵領はド辺境のド田舎にありますが、それなりに栄えているとのこと。王都とも主要街道で繋がっていて馬車でも三日あれば戻ってこられますから」
ユスター殿は、あ、これ、俺の暗殺を今すぐに命令してやりたいって顔だよ。
俺は胃が痛いのを通り越してひっくり返るかと思った。
王都に召喚されたと思ったら、パルベッヘル公爵邸に連れて行かれて、いきなりエレーナ嬢と婚約しろ、だ。
何で王国一の美女が面識さえない『地味豚公爵』の俺なんかと。
せめて誰か納得のいく説明をしてくれ……!
「しばらくはエレーナと貴殿には婚約者でいて貰う。エレーナに指一本でも触れることは認めない」
そこまで厳命された後に、召使いがドアを開けた。
「……!!」
俺は息を呑む。
誇張表現抜きで、王国一と呼ぶに相応しい美女がこれまた美人のメイド二人を連れてしとやかに歩いてきた。
花の顔に、結い上げられた緑の黒髪、最高級の細工を施された宝石の髪飾りが揺れている、まるで背後から後光が差しているような神聖ささえ漂う美女。
「お久しゅうございます、オールー公爵閣下、パルベッヘル公爵家のエレーナ・ラプトンと申します」
甘いのに軽やかで、花畑を吹き抜ける春風のような声……。
そこで俺はエレーナ嬢の背後の美人メイド達からも『じろじろお嬢様を見ているんじゃねえ豚野郎』という殺意の眼差しで見られていることに気付いた。
「はっ、はい!オールー公爵のヴィクトル・レンブルと申します!どうかよろしくお願い致します!」
エレーナ嬢は俺へ軽く一礼した後、家族の方を向いた。
「お父様、お母様、お兄様、今まで育てて下さり、感謝申し上げます。これから私はオールー公爵閣下と手を取り合って生きて参ります」
あの……手を取り合ったら俺は殺されます。
「まだ婚約を結んだに過ぎない」
案の定、苦々しい顔でパルベッヘル公爵は言った。
「エレーナ、お前も先走った行動を取らないように。サマンサとミアナはエレーナに付いていくように」
「「はっ」」
メイド二人はすぐに了承した。
……助かったと思った。
パルベッヘル公爵家仕えのメイドなら、俺が何もしていないという証明になるだろうから。
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