第42話 プリシラとリア
周囲を見渡して家が見えたので、プリシラの手を引いて向かう。
というのも、プリシラは動くものについては気配がわかるのだが、動かない……特に足下の窪みなどに弱い。
俺の視覚を共有しているものの、見ている場所や位置がズレているため、森の中をただ歩くだけには向かないようだ。
「アルフィ様っ! お怪我は……」
「大丈夫だよ、リア。プリシラも居てくれたしね」
「えっと、プリシラさん……ですか?」
「あ、すまない。紹介するよ。俺の護衛をしてくれているプリシラだ」
森を抜けるとリアが走ってきたので、先ずはプリシラを紹介する。
「はじめまして。プリシラと言います。以後宜しくお願いします」
「リアです。えっと、失礼ですが、その目は……」
「あはは。怪我で見えなくなってしまいまして。ただ、旦那様……」
「――っ!?」
リアが目を丸くする。
これは、プリシラが変な事を言うから、俺がメイドを雇うような身分だという事がバレてしまったのかもしれない。
「……こほん。アルフィ様のおかげで見えるようになったんです」
「そ、そうなのですね。ですが、でしたら手を繋がなくても良いのでは? 先程、あれ程激しく動いておられましたし」
「そうなのですが、アルフィ様が女性に優しいので、エスコートしてくださるので」
あの、プリシラとリアの間に、何か火花のようなものが飛んでいないか?
俺としては、仲良く……仲良くしてもらいたいんだが。
「そうですね。アルフィ様は可愛い女の子を護らせて欲しいと言って、私を逃がしましたからね」
「おそらく、それは聞き間違いではないかと。アルフィ様は可愛いではなく、か弱い女性を逃がしたいと仰ったのでは?」
えっと二人共、どうして微笑んでいるのに目が笑っていない状態で見つめあっているのだろうか。
とりあえず、プリシラを止めようとしたところで、
「旦那様ぁ。そろそろ本題に入られてはいかがでしょうか」
そのプリシラが俺に向き直る。
いや……うん。本題に入れなかったのは、二人が変な空気を出していたからなんだけどな。
「こほん。そうだったな。リア、実は折り入って頼みがあって……」
「ま、待ってください。アルフィ様。どうしてプリシラさんから旦那様と呼ばれているのですか?」
ほら、やっぱり面倒な事になった。
領主というのは、言わない方が良い気がする。
領主である俺がこの村の事を知っているという事は、ここから税金を取りたてなければならくなってしまう。
いや、本来はそうあるべきなのはわかっているのだが、流石に領主を村へ住まわせてくれるとは思えないんだよな。
という訳で、やっぱり誤魔化させてもらおうか。
「え? うーん……この際、正直に言っておこうか。実は、街でそれなりの商売をしているんだ。それで、大旦那……旦那様なんて呼ばれているんだよ」
「あ、そういう事でしたか。すみません。私ったら、勘違いしてしまって、アルフィ様とプリシラさんが夫婦なのかと」
「い、今は違うけど、いずれは……」
頼むから、プリシラはそれ以上余計な事を言わないでくれないだろうか。
というか隷属状態にあって、行動に制限が掛けられるんだけど、俺の秘密を漏らさない事……に加えて、俺が不利になるような事も言わせないようにするべきだろうか。
「話を戻すが、今回俺たちが来たのは、この獣人族の村にある仕事をお願いしたくてきたんだ。もちろん変な仕事ではないし、対価を支払う。よければ、村の代表者に話をさせていただきたいのだが」
「なるほど。わかりました……が、一つお願いがあるんです」
「どうしたんだ?」
「このお仕事が終わったら、私の父と戦っていただけませんか?」
「えっ!? ど、どういう事だ!?」
「いえ、戦うと言っても、いつもの訓練の一環です。武器無し、魔法無しの体術だけで、場外か相手を気絶させるか、負けを認めさせる……どうかお願いします」
リアの父親と言えば、病気で暫く眠っていたはずだが、いきなり戦えとは……そうか! 身体能力の高い獣人族からすれば、俺なんて赤子の手をひねるようなもの。
病み上がりの運動には、俺くらいの相手が丁度良いって事か。
「わかった。では、この仕事が終わったら、リアのお父さんと戦おう」
「アルフィ様っ! ありがとうございますっ!」
了承すると、リアが物凄く喜んでいるのだが……それだけ父親が心配なのだろう。
うん。リアは親想いの良い子だな。
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