第36話 新たな護衛

 セシリアと共に屋敷へ戻ってきた。

 着替えを済ませて、早速指示を出す。


「では、セシリア。俺は木材を確保しに行ってくるから、人材などを頼む」

「かしこまりました。しかしながら、アルフ様お一人で行かれるのですか?」

「いや、前に声を掛けた孤児院の少女と共に……」


 あ、しまった。

 一人で行動するのはダメだと言われると思って、孤児院の話を出したら、逆にセシリアの表情が険しくなった。

 よく考えたら、スラム街で襲われたんだったな。


「アルフ様。冒険者ギルドで誰か雇いましょう」

「いや、教会へ行くだけだし……」

「アルフ様。冒険者がお嫌でしたら、騎士団から誰か派遣してもらいましょうか?」

「冒険者で! 忙しい騎士団の手を煩わせる訳にはいかないからな」


 いやいやいや、騎士団なんて一番ダメな奴らだから。

 獣人族の事がバレたら洒落にならない。


「では、先にギルドへ行きましょう。少なくとも私と同等程度に強い者でなければ」


 セシリアより強い者か。

 騎士団に所属していると言っても、セシリアはスカウトだからな。

 まぁ何をもって強さを測るかは知らないけど、すぐに見つかるだろ。

 そう思いながら、冒険者ギルドへ行くと、セシリアが受付の女性と話し込む。


「……Cランク冒険者などと、舐めているのか!? アルフ様はこの国の未来を担うお方。本来はAランク以上でなければ許せぬ所なのだ!」

「そう言われましても、行き先が言えないというのは……」

「いつ、何処で誰が襲ってきたとしても対応出来る者を護衛とすれば良いだけではないか!」


 いやあの、セシリア。

 そんな無茶振りしなくても良いんだが。

 普通の……普通の冒険者で良いって。


「セシリア。あまりギルドの方を困らせないように……」

「アルフ様。先日襲われたばかりだという事をお忘れですか!?」

「はい、すみません」


 俺の事を思ってだというのは分かるが、セシリアにジト目を向けられてしまった。

 ギルド職員さんも冒険者数人のパーティなら適任が居ると言ってくれているのだが、俺が護衛を最小限にして欲しいと言った事で難航しているようだ。

 とはいえ、極力俺に関わる者は少なくしたいんだが……何というか、俺が凄い無理難題をふっかけているみたいなのは嫌だな。


「どうかしたのか? かなり揉めているみたいだが」

「あっ! ギルドマスター! 実は……」


 ほら、セシリアが騒ぐから、ギルドの一番偉い人が出て来ちゃったじゃないか。

 いかついムキムキのオッサンが俺たちを一瞥し、職員の話を聞きはじめた。

 面倒な事になる前に立ち去りたいのだが、職員さんがこれまでの経緯を話し、セシリアもギルドマスターに直談判し始めて……これ、どうするんだよ。


「なるほど。領主様の護衛か。しかも多人数は不可で、どこへ行くかも言えない……となると、当然相応の強さが求められるが、今は適した人材が出払っているな」

「そうなんですよー」

「そこを何とかしてください。他の街の冒険者を呼ぶとか、幾らでも手段はありますよね?」


 ギルドマスターに職員さんが泣きつき、セシリアが更に詰める。

 ギルドマスターのオッサンもかなり困った表情だし、もう止めてあげたいのだが、


「あっ! 領主様だし、このメイドのお嬢ちゃんもいる事だし、一人だけ該当する者が居るな!」


 俯いていたギルドマスターが何かを思いついたようで、顔を上げる。

 ……何だか、とても嫌な予感がするのは俺だけだろうか。

 こういう追い詰められた者が出した意見って、起死回生の案とかじゃなくて、どうしようもないから仕方なく……っていう、結構ダメな結果になりがちだと思うんだが。


「その方は、アルフ様をお守りするのに十分な実力をお持ちなのですね?」

「あ、あぁ。護衛としての実力は十分だ。実力は……な」

「何だか、含みがある言い方ですが、どのような方なのですか?」

「ちょっとここでは……奥へ来てもらいたい」


 ほら、やっぱりヤバい奴だって!

 だが、セシリアは気にせずついて行こうとして……あ、はい。俺も行きます。


「入るぞ」


 扉の外から、中に向かって声を掛けたギルドマスターに続くと、小部屋の中で目に包帯を巻いた少女が椅子に座って居た。


「プリシラ。護衛の仕事だ。領主様をお守りするんだ」

「敵は?」

「不明だ。領主様を害しようとする者は、全て倒して良いぞ」

「おぉ、それは楽しそうだ。よろしく頼む」


 そう言って、盲目? の少女が立ち上がると、まるで見えているかのようにスタスタと歩き、握手を求めた……セシリアに。


「護衛対象のアルフ様は、こちらです……本当に大丈夫なんですか?」

「ウチの事なら大丈夫。見えなくても気配で分かる……けど、今みたいに害意が感じられない場合はわからないから、助けて欲しい。えっと、よろしく領主様」

「アルフ様のどこを握っているんだぁぁぁっ!」


 プリシラと呼ばれた少女が俺に握手を求めようとして……うん。初対面でとんでもない所を触られたけど、まぁ見えてないなら獣人族の村へ連れて行っても大丈夫かな。

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