第33話 聖なるパンツ
セシリアにより、帰りの馬車が出発地点……ヘレナとイザベラと別れた街へ到着した。
ただ、二人とは馬車の停留所で別れたのと、ここがそれなりに大きな街で宿が沢山あるため、二人がどこの宿に居るのかが分からない。
とはいえ、俺がイザベラの許へ反転召喚魔法で行けば確実なのだが、これは奥の手だからな。
奴隷確認魔法で、何処まで位置が絞れるか……だな。
「アルフ様。ヘレナ様もイザベラさんも、非常に目立つ容姿です。聞き込みをして参りますので、少しお待ちくださいませ」
「いや、少し待ってくれ。≪奴隷確認≫……なるほど。風狐亭という場所に居るようだ」
「風狐亭……ですか。宿ではなく、早めの夕食かもしれませんね。いずれにせよ、聞いて参ります」
そう言って、セシリアが大通りに姿を消したのだが、メイドとして俺の許へ潜入していたのを隠さなくなったからか、メイドらしからぬ速さで走って行く。
とりあえず、前のスラム街の時のように絡まれると面倒なので、停留所から動かず待って居ると、すぐにセシリアが戻って来た。
「風狐亭を見つけました。宿と食事処を兼ねているようです」
「わかった。行こう」
セシリアに案内されて行くと、三階建の大きな宿があった。
一階が食事処になっているようで、大勢の客で賑わっている。
部屋で食事をする訳では無さそうなので、いずれヘレナとイザベラも夕食の為に来るはずだ。
「イザベラさんによると、ヘレナ様が目立つので、パンを買って部屋で夕食を済ませたとの事です」
「イザベラと連絡を? ……あ、通話魔法か」
「はい。今までは普通のメイドに扮しておりましたので隠していましたが、アルフ様に心からお仕えしますので、今回の依頼に合わせて習得したと伝えております」
「そうか。では部屋も分かっているのか」
「えぇ。三階の一番奥の部屋です。イザベラさんから、定期的に状況を教えてもらいますので、暫く待機ですね」
ん? セシリアは何のタイミングを見計らっているんだ?
不思議に思っていると、察したセシリアが口を開く。
「すみません。馬車の中で、ヘレナ様に奴隷魔法が効かなかった事についてお伝えし忘れておりました」
「あ、そうだ。そもそもヘレナには奴隷化する魔法が効かないのか」
「いえ、それはヘレナ様が耐奴隷化の防具を身に付けているからです」
なるほど。それで隷属魔法が効かなかったのか。
聖女に知られざるパッシブスキルがあった訳ではないんだな。
「では、ヘレナがその防具を外した時に、部屋へ行けば良いのか」
「その通りです」
「では、夜寝ている時か? どんな防具なんだ?」
「下着です。厳密に言うと、パンツです」
「え? パンツ……?」
「はい。私が身に付けているのと同じ、聖なる絹糸で織られた、聖なるパンツです」
セシリアによると、今回ヘレナの護衛を請けたと聞き、事前に渡してしまっていたという話だった。
「重ね重ね申し訳ございません。どんな罰でもお受け致します」
「いや、罰とかは無いが……とりあえず夜まで待てば良さそうだな。流石に履き替えるだろうし」
「その……すみません。三枚お渡ししておりますので、ヘレナ様が全裸で寝る方でなければ、入浴中か寝ている間に脱がすしかないかと」
「……入浴中にしようか」
ヘレナが全裸就寝派なら楽だが、ベッドに忍び寄って、起こさずにパンツを脱がすというのはハードルが高過ぎる。
「しかし、三枚渡したと言ったが、耐奴隷化パンツは沢山出回っているのか?」
「いえ、聖なる絹糸が少ないため、あまり出回っておりません。ただ、買おうとする者が殆ど居ないので」
「あー、それはそうか。普通の人はそんな警戒をしないか」
「はい。それと、聖なるパンツ職人が女性用の下着しか作らないという拘りを持っているので、それも関係あるかもしれません」
いや、何だよ。聖なるパンツ職人って。
というか、よくよく考えたら、TEに聖なるパンツなんて防具は出てこないからな?
「あ、そうだ。ちなみにですが、聖なるパンツはこのようなデザインでして……」
「見せなくて良いよっ!」
「いえ、やはりアルフ様に現物をご確認いただいた方が良いかと」
「触らせようとするなーっ!」
セシリアが忠実な配下になってくれたのは良いけれど、俺の手を取って、スカートの中に入れようとするのはやり過ぎだってば。
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