第2話 赤子のエルフ、名はサレン
「おぎゃぁぁあああああ!!」
「はわわ!? エレノア様! どうしたら......」
「シャロン、赤ちゃんをこちらに頂戴!」
「は、はい!」
赤ちゃんの健康状態は幸い良好でしたが、問題は色々と山積しております。まず食べ物......ミルクがありませんしこの先この子をどうするかですね。
「よしよし〜良い子だから泣き止んで欲しいなぁ♪」
「ぐすっ......あぅ?」
この赤ちゃんは女の子ですね。しかも、私と同じ銀髪......種族もエルフで私と似ています。
「どしたの? お腹空いたのかな?」
「ふぇ......あぅ......あっう!」
「す、凄い......エレノア様が抱くとこの子泣き止みますね」
「え、そうかなぁ? ちょっと、ルーネ抱いてみて」
「え、私ですか......!?」
ルーネに赤子を抱かせて見ると......
「おぎゃぁぁあああああ!!」
「え、ちょっ......!? エレノア様......!?」
「あら、泣いちゃったね〜ルーネもダメかぁ」
「エレノア様助けて下さい!」
慌てるルーネも可愛くてもう少しそのままにしたかったのですが、赤ちゃんを落ち着かせるのが最優先ですね。可哀想ですし。
再び赤ちゃんを抱いて上げると案の定赤ちゃんは、さっきまで泣いていたのが嘘だったかのように泣き止みました。
「あだぶっ......」
「ちょっとは落ち着いたかなぁ?」
「あぁい〜♪」
「え、ちょっと......!?」
赤ちゃんが私のお胸を触って居ますね。もしかして、この子お腹空いてるのかな? 私、母乳出ませんよ?
「えぇ、ミルクは今無いよ......ルーネ、貴方この子に母乳あげなさい。貴方なら母性強そうだし絞れば少しくらい出るでしょ?」
「はいっ......!? そんなの出るわけ無いじゃないですか! 私は子供も産んだ事もありませんし、それに処女............あっ」
ルーネの顔が真っ赤になっていますね。まるでレッドアップルの様に赤いです♪ まあ、確かに母乳は赤子を産まないと出ないと聞きますからね。
「ならば、アンジェ、クロエ、シャロンは?」
「「「わ、私達も......処女です」」」
ごめん。分かってて聞いちゃった♪ みんなの恥じらう姿が可愛くて堪らないわ♡ と言いつつも私も殿方との経験はありませんけどね。まあ、私の場合は純潔を守ってるだけなのです! 別に彼氏が出来ないとかそう言う訳では無いからね!
「まんまっ......!」
「あれ? この子、今......エレノア様の事をママって呼んだ?」
「うんうん、ウチもそう聞こえました!」
「ここはエレノア様がこの子におっぱいをあげるべきかと!」
「同じくあげるべきです。ついでに私もエレノア様のおっぱい欲しいです!」
「ちょっと、貴方達......てか、アンジェは真顔で何言ってるのよ」
ルーネ、クロエ、シャロン、アンジェ......帰ったら業務増やしますからね? 今日は家に帰しませんよ!
「困ったわね......とりあえず馬車の手配してくれる? 流石に外で上半身裸は嫌よ? 道中に殿方にでも出くわしたら最悪ですし......」
「はい、既に手配しております!」
あら、やけに用意が良いわね。まあいいか......まさか、盗賊団を討伐に来た帰りに赤ちゃんに乳をあげる事になるとは......私はこの子のママじゃ無いのになぁ。
★馬車内にて★
「あうっ......ちゅぱちゅぱ......」
「あ♡ 思わず声が出ちゃったわ」
「エレノア様......本当におっぱいデカイですね。巨乳を通り越して爆乳ですよ」
「シャロン、エレノア様のお胸をジロジロと見るものではありませんよ?」
「ええ、ルーネ副官もジロジロと見てるではありませんかぁ」
「う、うるさい! 私は副官としてエレノア様のお身体を見ておく必要があるの!」
見ておく必要とは......てか、ルーネもそうだけど......みんなわたしの胸ガン見しすぎじゃないかしら? アンジェに至っては、何故か口を咥えてこちらを見てるし。
「貴方達うるさいですよ? 少し静かにしてちょうだい、この子が泣いちゃうでしょ?」
「「「「............」」」」
はあ、と言うかこの子どうしよう。孤児院に預けようにも人手が足りなくて一杯だと聞いているし......クレア女王陛下に相談して見る? それかこの赤ちゃんをいっそここで......
「あ〜い♪ まんまっ!」
「え、ママ? 私が......ママだと言いたいのかしら?」
「あ〜い♡ まんま!」
「............」
何だろう......この気持ちは......胸の奥がポカポカと暖かくなるような......あれ、何か胸に違和感が......な、何か出そう! 出ちゃうよぉぉおおおお!
「え!? エレノア様......胸から何か出てません!?」
「ま、まさか母乳ですか!?」
「ええ......!?」
何だかこの子を見ていると守ってあげたくなるような......まさか、これが母性と言うものなの? 母性が限界突破して、常識では考えられない様なことが起きた? でも、現に私の胸から母乳らしき物が出てるし......どうなってるの!?
「エレノア様がママ......」
「良いママになりそうですね」
「お似合いかもしれません......ぷぷ」
「ママ!」
良し、貴方達の今月の給料3割減給ね。
「まま......すぅ......すぅ......」
「あら、今度は寝ちゃいましたね。感情の起伏が激しいわね」
「もういっその事、エレノア様がこの子のお母さんになっては?」
「クロエ、バカを言うものではありません。しばらくは面倒を見ても良いかもしれませんが、この子の引き取り先が見つかったら即時に引き渡しますからね!」
「あ、はい......」
でも、こうして見るとこの子可愛いわね。小さなおててを使って私の指をむぎゅっと掴んじゃって♪ 赤ちゃんの手はこんなにも小さかったんだ......
「でも、お仕事の間この子どうしよう......私も暇じゃないし」
「エレノア様、いっその事しばらくお休みになられてはいかがでしょうか? 今は他国とのいざこざもありませんし、業務なら私達が分担してやれば何とかなりましょう。その間にその赤子の引き取り先を探すのが良いかと」
「ふむふむ、なら休みの期間中に赤ちゃんの面倒を見てくれる場所を探そうかしら」
確かに今まで働き詰めだったし、この際思いっ切り休んでも良いかもしれないわね。派閥や貴族とは一度距離を置いて、私も自由に庶民と同じ暮らしがしたいわ。この子を口実に長期休みが取れるかもしれないわね♪
「クレア女王陛下にお願いしてみようかな」
「はい、私達からも女王様にお願いしてみます!」
「でも、貴方達は大丈夫? 最近他の派閥からの嫌がらせやちょっかいが増えてるみたい出し......特にリンドブルム伯爵とレーゼリア辺りがちょっかい出して来ないか心配」
リンドブルム伯爵はまだ何とかなるだろうけど、問題は彼女、
レーゼリアの派閥には、数多くの暗殺者や表立っては行動出来ないような裏方の仕事をする連中ばかり集まっています。
しかも、事ある毎に私達にちょっかいや横槍を入れて来るし、何故かレーぜリア私に恨みを持っているようにも見受けられます。
「エレノア様、大丈夫ですよ。私達エレノア様直属の精鋭部隊、【
「そうね。私は貴方達を信じているわ。だけど、無理はしちゃ駄目よ? 仕事を休むとは言え、何かあればいつでも我が家に相談に来て頂戴ね」
「ごほんっ......ではエレノア様の副官としてお傍に」
「はい! 毎日お邪魔します!」
「はいはーい! ではエレノア様の家で女子会しましょう!」
「やった〜! 私クッキー焼いて持って行きますね!」
「もう、この子達は......本当に」
しばらく他愛の話しをしながら馬車を進めて行くと帝都ジスタードの城壁が見えて来る。帝国最大規模の巨大都市帝都ジスタード、周りは頑丈な城壁で囲まれており中央にはクレア女王陛下がおられる白亜のハルトローゼ城が天高く聳え立っている。
この国には、騎士団、冒険者ギルド、商業ギルド、医療ギルド、また海に面して大きな港町もあるので、漁業組合等もある。他には大型商業施設、名門セントミナス高等学園、魔法省、大型の病院等も複数あり、大陸の中でもかなり発展している都市と言えるでしょう。
「うわぁ〜今日の検問の行列凄まじいですね」
「そうね。まあ、私達には関係無いけどね」
帝国の南側にある関所近くに来ると他国からの人で溢れ返って居る。活気のある街には人が集まり商いも盛んとなるのです。特にこの都市には学園や魔法省等、皆が憧れ目指す場所が集結している。
「そこの者止まれ!」
槍を携えた門番に馬車を止められて、私は馬車の中からひょっこりと門番に向けて顔を出した。
「おいラルク! バカ、あの紋章良く見ろ! あれはエレノア・クリスティーネ様の紋章だぞ!」
「こ、これは大変失礼致しました! 御無礼をお許しくださいませ......エレノア様、どうぞお通り下さいませ!」
「気にしないで〜お仕事ご苦労様です♪」
あぁ、何か周りが騒がしくなって来たわね。人が集まる前に早く行こう。
「何!? エレノアって......? あの【白銀の剣聖】か!?」
「帝国のNo.2......」
「美しい白銀の髪を靡かせる容姿端麗の美姫......」
「傾国の美女、エレノア・クリスティーネか」
「私、エレノア様に憧れて田舎からやって来ました!」
「エレノア様の部隊の志願は、他に比べて倍率1番高いよね」
「エレノア様と結婚出来たらなぁ......」
「是非ともお近付きになりたいものだな」
「剣聖と名高い彼女と是非とも手合わせ願いたいものだ」
ううっ......有名人になると色々と面倒臭いですね。褒められるのは嬉しいけど、男のほとんどは邪な考えや私の身体を狙ってる不埒な輩ばかりです。
執行者は他国でも特に有名だ。帝国の最大戦力と言えば私達
「ばぶっ......?」
「ん? どちたの〜?」
「あ〜い♡」
「痛っ......髪の毛引っ張らないで〜」
この子は本当に元気だね。成長したらやんちゃな女の子になりそう。赤ちゃんの純粋な笑顔を見てると不思議と笑みが零れてしまいますね。
「エレノア様、この赤ん坊は何だか大物になりそうな気がしますね」
「そうね。もしかしたら、とんでもない事を成し遂げる......そんな予感がしますね」
そうえば名前を決めないと行けないわね。いつまでも名前を付けずに赤ちゃんと呼ぶのは可哀想だし。
「ねぇ、皆んなはこの子に名前を付けるとしたらどうする?」
「ほい! かっこいい名前が良いと思います! エリザベートでどうでしょう!」
「ん〜シャロン、それは脚下ね。可愛くないもん」
「グハッ......!? じゃあ、レーヴァテイン!」
「却下です」
何か雲行きが怪しくなって来たわね。もしかして、私の仲間達のネーミングセンスは壊滅的かしら?
「クロエ、アンジェはどう思う?」
「なら、宵闇の調べとかどうでしょう?」
「私はカルボナーラが良いかと〜」
「貴方達......給料減額するわよ?」
「「すみませんした!」」
はあ、ここは私が考えるしか無いわね。女の子に似合う可愛らしい名前が良いわよね〜♪
「エレノア様、まだ私答えておりませんよ?」
「え、ルーネは私の知る限りネーミングセンス壊滅的......いや、絶望的ですもの。だから言わなくても大丈夫♪」
「ぐふっ......!?」
ルーネとは長い付き合いだからね。この子の事は良く分かりますよ。ルーネ・クリスタ......彼女も元は私と同じ孤児で、名前を付けて拾ったのは私です。
「美しくて女性に似合う名前......そして可憐で上品な名前。サレンはどうかな?」
「ばぶっ♡」
「お、赤ちゃんが喜んでる!?」
「エレノア様、素晴らしい名前かと」
「良いと思います!」
良かった。赤ちゃんが嬉しそうに喜んでくれてる♪ 良し、名前はサレンちゃんで決まりね!
「エレノア様、もうすぐハルトローゼ城に到着致します。身支度を整えて下さいませ」
「ええ、ごほんっ。ここからは執行者・エレノアとしての仮面を被ります」
普段の私は正直言うとラフでお堅いのが苦手です。世間ではエレノア・クリスティーネと言うのは、高嶺の花、清廉潔白で美しく高貴な女性と言った印象が持たれていますが、本当の私を知る人達からすれば鼻で笑われてしまうかもしれませんけどね。
「エレノア様、広間に着きました」
「ええ、降りるわ。ルーネ副官、シャロン、クロエ、アンジェは私の後ろに控えて付いて来て下さい」
「「「「イエス、お姉様!」」」」
てか、いつの間にお姉様と言う呼び名が浸透したのかしら。何でこう言う風に呼ばれるのかは謎だ。
そして、馬車が止まり広間に降りると30代前半の男性、アルベルト政務官が書類の束を持ちながら出迎えてくれていた。他にも沢山の側仕えや近衛兵士も整列して私達を出迎えてくれている。
「エレノア様、お勤めご苦労様です。報告は聞いておりますよ」
「ええ、ありがとうございます。アルベルト政務官」
「そちらが報告にあった赤ん坊ですね? あちらの部屋に必要な物は揃えて用意しております。フィオナ室長、赤ん坊を頼みますよ?」
「はい、お任せくださいませ」
エレノアはサレンちゃんをメイド長のフィオナに預ける。するとエレノアの腕の中で大人しかったサレンちゃんが不安げな表情を浮かべてから、フィオナ室長の腕の中で号泣し始めた。
「ぐすっ......おぎゃぁぁあああああ!!」
「あらあら、元気な子ですね。さあ、貴方達行きますよ」
フィオナ室長は泣き喚くサレンちゃんをあやしながら、他のメイド達を連れて行ってしまいました。優秀なメイドさんなので、サレンちゃんの事は私がクレア女王陛下に謁見している間しっかりと面倒を見て下さるでしょう。
「エレノア様、戻って来た早々に大変心苦しいのですが、各地区からいくつか報告が上がっております。密輸入されている合成麻薬の足取りを掴みました。それから人身売買の拠点が......」
あぁ、聞きたくないわね......正直言うと面倒臭いです。我々執行者には各方面での仕事が割り振られています。
私達の派閥の主な仕事は、帝都の治安を守る警備や取り締まりがメインです。私も帝都の秩序を守る治安部隊の最高責任者として職に付いているのですが、面倒くさいので大抵の事は全てルーネに丸投げしています。
「分かりました。今日中に書類全てに目を通して置きます。アルベルト政務官、書類を全てルーネに渡して置いて下さいませ」
「分かりました。では、ルーネ副官こちらを......」
「えっ......?」
ルーネが何か言いたげな表情でこちらを見つめていますね。これもルーネの為を思っての修行です。だから私は、あえて仕事を部下に投げるのです! 部下の成長を促すのも上司の務め。ここは心を鬼にして仕事を託すのです!
「ルーネ副官、後は頼みましたよ♪」
「ううっ......はい」
ふふっ......私は休暇の相談にクレア女王陛下に面会に行くからね♪ 面倒......ごほんっ。仕事は信頼出来る配下に任せるよ♪ もし、休暇が取れたら南の島へとバカンスに行くのもありかな♪
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