日常



「─────にしたの!それでね……あ、咲希さきちゃん、おはよう!」


「おはよう、花代子かよこちゃん!なんのお話ししてたの?」

「クリスマスプレゼント、サンタさんになにお願いしたのか話してたの!花代子ちゃんはなにお願いしたの?」

「わたし?わたしはね、子供用のスマートウォッチにした!」

「えーいいなー!わたしも──────


 それ、私も持ってる。いいよね、私のは大人用のだけど。







 なんてことを聞き耳立てながら、言いたくなるのを我慢する。こんなこと言ったら、友だちに嫌われちゃう。

 自慢じゃないが私、有栖川 雪絵ありすがわ ゆきえの家はかなりのお金持ちだ。家に帰れば、使用人さんが出迎えてくれるし、絵もたくさん飾ってある。欲しいものはなんでも買って貰えるから、私にとっては毎日がクリスマスみたいなものだ。






「…………ねぇねぇ、咲希ちゃん。耳貸して」

「なに?」

「雪絵ちゃんって、なにお願いしたのかな」

「うーん………雪絵ちゃんの家、お金持ちだから、色々なもの持ってそうだし。………ペッパーくんとかじゃない?」

「そんなの靴下に入らないでしょ」







 今年のプレゼントはどうしようかな。でっかい靴下に、たくさんお菓子でも入れてもらおうかな。













「ただいま」


「おかえりなさいませ、雪絵様」

 校門前に止まっている車に乗り込んで、家まで帰るのが私の日常だ。いつも、使用人さんのあずまさんが送り迎えをしてくれている。


「本日の学校生活はいかがでしたか、雪絵様」

「今日は体育でバスケをしてね、たくさんシュートを決められたの!」

「それはそれは。楽しそうでなによりです」







「ただいまー」


 家の玄関を開けて、大きな声で挨拶をする。


 迎えてくれたのは、ペットの『 モフ 』だけだった。モフは、『 大きい犬が飼いたい! 』って言ったら、お父さんが買ってくれた子だ。チベタン・マスティフ?って長い名前だったから、もふもふしてるところからとって『 モフ 』と呼ぶことにした。


「いい子にしてたー?モフ」

「ワンっ!」


「おー元気だったか、雪絵」

 奥から懐かしい声が聞こえてきた。見ると、イギリスに出かけていたはずのお兄ちゃんが帰ってきていた。


「お兄ちゃん!なんで!?イギリスに行っているんじゃなかったの?!」

「冬は寒いからな。一度帰国して、これからオーストラリアに向かうところだ」

「オーストラリア?なにしに行くの?」

「サンタの格好でもして、サーフィンでもしようかなって」

「なにそれ、おもしろそう!」




 お兄ちゃんのお話はおもしろいことばっかりだ。そんなお話を、私はお菓子を食べながら聞くのが大好きだ。

「──────だったんだよ!」

「なにそれ!すごい!!」

「だろ?………そういえば、父さんと母さんは?」

「2人とも、お仕事忙しいみたい」

「そっか。東さん、父さんたちクリスマスイヴには来られるの?」

「はい。お父様は年明けまでは忙しいと仰られておりました」

「そっか、ありがとう。…………雪絵、何か欲しいものはあるか?」

「…………おと────い」

「ん?」

「………波の音が聞こえる貝殻が欲しいな」

「……分かった。オーストラリアで見つけてくるよ」

 そう言って、お兄ちゃんは私の頭を優しく撫でてくれた。足元でモフが羨ましそうに鳴いている。




 翌日、お兄ちゃんは朝早くから、オーストラリアに向かってしまった。

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