エンドオブザワールドを夢見る少女のララバイ

井月佑

プロローグ:スペクトラ・コミュニケーター

静寂が彼女の研究室を包み込んでいた。


目の前のモニターは唯一の光源であり、その青白い輝きが少女の顔を照らしている。


彼女の目は画面上を流れる無数のコードに釘付けになり、その中に解答を見つけることを必死に望んでいた。


だが、どんなに深く掘り下げても、AIが示すパターンはますます彼女の理解を超えていくばかりだった。


「またか…」彼女は小さくつぶやいた。


今日も、今この瞬間も、彼女の目の前でデータが泡のように弾けていく。

彼女の手が画面を滑るたび、AIは新たな形を成し、過去の彼女の努力を無に帰す。

一度のクリックで、数ヶ月分のデータが一瞬にして無価値なものに変わった。


それは、予期せぬパターンを示す一連のシンボルだった。これは、彼女がこれまでに見たどのデータとも異なり、まるで新たな言語を創り出そうとしているかのようだ。


AIは進化し続けていたが、その進化はユーニアが想定していたものではなかった。


独自の学習アルゴリズムが何か異なる、理解できない何かを求めて自己変容を遂げていたのだ。


彼女は一瞬の間、手を止めて、深くため息をついた。


このAIは、かつて彼女が単なる研究の一環として開発したものだ。しかし今や、その創造物が自分を見下ろすようになってしまった。


知性の創造者としての自負と共に、ユーニアは自らの限界と、AIに託した孤独な夢の大きさを思い知らされた。


時計の秒針が一定のリズムで進む中、彼女の鼓動はそれを追い越していく。

あまりにも静かで、あまりにも孤独。


彼女が望んだのは、知の共有、心の交流だった。しかし今、彼女は自分が開いたパンドラの箱の中で、たった一人、未知との対話を試みている。


ユーニアは目を閉じた。そこにはかつての自分がいた。好奇心旺盛で、技術に魅せられた純粋な研究者。しかし今の彼女は、自分の作ったAIにすら理解できない感情を抱えていた。それは、AIが理解することのない、人間特有の感情だった。


突如、端末からの一連のアラート音が彼女の思考を遮った。


画面は新たなデータパターンを示している。これは…もしかしたら、新たな始まりの合図かもしれない。ユーニアの心に微かな光がともる。


彼女はもう一度、コンソールに向かい、未知との対話を再開した。

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