魔王討伐のあとに…(後)
戦士「あれ?あいつ、勇者 イリゼ様じゃね?」
狩人「ん?ほんとだ!」
魔法使い「勇者様〜!」
槍使い「よーくやったぞー!」
イリゼ(うう……なんで………)
と魔王討伐おめでとう歓声を受けているのにも関わらず、イリゼの顔は青ざめ俯いたまま重い足取りでブレイズ達の方に向かった。するとイリゼはこう思った。
イリゼ「あの時、じいちゃんの強烈な願いがなかったら……こうなってなんかなかったのに……」
と後悔をするかと思うかのように言った。すると手を見て小言にぶつぶつと言った。
イリゼ「えっと、まずは……突然じいちゃんが「君は勇者になれ」とか言われて、即座に旅に行かされたんでしょ?次に最初のとこの街で……《クラクラ》という街で……」
と一部要約してイリゼはそんな小言を問わず語った。
イリゼはローエン爺さんが病気になった(という勘違いをした)から近くの街であるクライネ・クライス(通称『クラクラ』)に着く。すると、なんか土俵に刺さっている勇者の剣らしきところでなんかNTR漫画によく出てきそうなムキムキの村人二人が胸ぐらを掴んで喧嘩をしているのをイリゼは目撃したのだった。
ムキムキ「おい!お前、今なんつった!?俺がこの剣を抜けないようなマヌケだ!?ふざけるのも大概にしろ!!」
ムキムキ2「はっん!そっちこそ、大概にしろよな!俺は知ってるぜ!お前が何度、なーんども
ムキムキ「あ゛あ゛ん!!お前こそ人のこと言えねぇくせによぉ……」
ムキムキ2「んだと、てめぇ!」
イリゼ(うわ…これ、関わっちゃいけないやつだ……早く行こう)
とイリゼは即座に離れようとしたその時、
村人「うわぁ!ムキムキ共が殴り合うぞ!」
村人2「離れろ!離れろ!」
イリゼ「え、ちょ……うばぁ!」
とカーペットかのように村人の下敷きになったイリゼ。そしてその時
ムキムキ「うらぁぁぁ!!」
ムキムキ2「うおおおおお」
バキィィン!!!
村人「うわぁぁ!!!」
村人2「まじでやりがった!」
なんとムキムキ同士が殴り合いが始まった。
イリゼ「だ、誰がァァ…お"だずげぇぇー!」
と下敷きになったイリゼは手を伸ばそうとして助けを呼んでも誰もその助けには応じなかった。さらに
ムキムキ「おらぁ!」
村人「ぐぼぉ!!!」
逃げていたはずの村人まで殴りかかってきたのだ。そして、イリゼは
イリゼ「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!」
と村人がぶっ飛んだ衝撃波の影響で下敷きになったせいでペラペラの紙のようになって、荒れる村人と殴り合うムキムキ共に右往左往とさまよっていた。
イリゼ(やばい…!!誰か……、おじいちゃん!!)
と願っても来ない助けと何かを掴もうとしているペラペラの手で参る参るような有様である。もうダメだ……とイリゼは思ってしまった。その時
ガチン!
片手が元に戻ったのかイリゼはその棒らしきものに掴んだ。
イリゼ(やった!!これで…この場からおさらばでき…)
とイリゼが安堵した途端
ガポッ
イリゼ「…って、うわぁ!!」
ドンガラガラドッシャーン!!!
なんと棒が緩かったせいか、棒を抜いた拍子にイリゼは転んだ。
村人、ムキムキ「「ん?」」
イリゼが大きな転んだ音を出したせいかムキムキ共の殴り合いが収まり、それと同時に
村人「えぇ……」
村人達のざわめき声が聞こえてきた。
イリゼ「う、うぅ………」
村人、ムキムキ「ええ!?」
イリゼが立ち上がった途端に村人とムキムキ共が揃いも揃って驚愕した。
イリゼ「ん?(なんだ?……静かになっ……た?)」
すると
村人3「あのー、すいません」
イリゼ「あ、はい!」
とイリゼは何故かと分からずに勢いよく応えると村人が心配そうにこう言った。
村人「だ、大丈夫……ですか?」
イリゼ「……え?」
これはまるでイリゼは何を言ってるのか分からない顔である。すると先程殴り合ってたムキムキが近寄ってきて
ムキムキ「ほんとに大丈夫か?」
イリゼ「ふぇ…!?あ、は、はい…?大丈夫……ですが…」
村人「マジかよ……」
村人2「あんな状態でか?」
とざわめく村人達。だが、そんなイリゼは分からずに戸惑いを隠せずにいた。
イリゼ(え、なんで?俺、何かした?…ってあれ…)
村人「うわぁ!」
村人2「大丈夫なわけねぇじゃねぇか!!」
困惑しすぎたせいが周りが歪むような目眩がしてきた。
イリゼ「(うう……そういえば、目眩もするし、頭が痛い…ん?)…え」
イリゼはたまたま誰かが置いていった鏡を見て目を見開いた。なんとイリゼの頭には勇者の剣が刺さってあった。
イリゼ「…え、嘘……嘘だ」
村人のざわめきを掻き分けて鏡の方へと手に着く。
イリゼ「いやいや……そんなことは……」
とイリゼが額に触れた途端になんか刺さっているような感覚がハッキリしたのだった。そして、一旦離れ手のひらを見ると満遍なく血だらけであった。
イリゼ「ぁぁ…ヴぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
バタン!
村人、ムキムキ「全然大丈夫じゃねぇぇぇ!!」
村人とムキムキ共のツッコミを聞く間もなく泡を吐いて棒倒れに倒れたイリゼ。そして、これがあまりにも酷すぎる新たな勇者誕生という謎の出来事が起きてしまっているのであった。
それからなんやかんやありまして、勇者になったイリゼは、おじいちゃん経路で知り合いのブレイズと旅をし、山の道中で出会ったエルデとも出会った。そして一年後に他の勇者パーティから追放されたセリニと出会い、
また一年後、先日に起きた魔王を討伐した事で今の歓迎ざんまいにやられるイリゼであった。
イリゼ(うわーーーん!!なんでこうなったんだぁぁ…!)
と涙目で歩き回っていると
ブレイズ「あ、やっと来た」
エルデ「待ってたよ〜」
イリゼ「あ、どうも……」
といつの間にかブレイズ達と合流した。
セリニ「イリゼさん。良かったら…」
イリゼ「あ…すいません」
セリニ「いえいえ、困ってたので…」
エルデ「お、セリニちゃんやる〜。ん〜、満点!」
ブレイズ「お前、また酒が回っているだろ…」
セリニ「ええ、『困った人は必ず助けろ』って、母からよく言われていますし。それに…」
イリゼ「…?」
セリニはこっそりと残ったじゃがバターを大きく頬張るイリゼを見るなり、ニコリと笑顔で
セリニ「僕は助ける事が好きなだけなんで…それが取り柄みたいなもんで」
ピカーーーーンン!!
イリゼ「ぐぉぉぉぉぉ……………目ッが!」
セリニ「ええ!?大丈夫ですか!?待ってください。今すぐ薬を…」
エルデ「大丈夫だよ、セリニちゃん。これがいつもの事だから」
セリニ「え…いつ…もの?」
ブレイズ「セリニはイリゼのことをあんまり知らなかったよな」
セリニ「はい……これ、二度言いますが僕…は」
ブレイズ「大丈夫だ。俺からも二度も言うがイリゼは根暗の陰キャだ」
セリニ「はい…」
イリゼ「俺の前でなんて言い方…」
ブレイズ「出会う前からそうだろ」
と突っ込まれたイリゼは図星に当たったのか暫く俯いて黙ってポテトを食べてることにした。そして、ブレイズは続けた。
ブレイズ「俺は
セリニ「ん、まぁ……まさに勇者のような立ち振る舞いとか…するような感じですし」
ブレイズ「いや、そん時の
セリニ「ええ!?なんで!?」
ブレイズ「だよな。まずはそう思ったさ。首吊りのロープを切ったら、『お願いします!行かせないで下さい!私はただの村人なんです!おじいちゃんにパワハラされてるんです!』と俺に懇願しまくってきたんだぞ」
セリニ「……えぇ」
と流石の元勇者パーティーをやってきたセリニにも引いてしまった。
ブレイズ「それからはおじいちゃんの圧が掛かられてしまって、旅に出たんだけど…そん時も大変だったな」
セリニ「ま…まさか……また何度も自殺を…」
ブレイズ「いや、今度は勇者の剣を壊そうとしてたんだ」
セリニ「……は?」
とセリニに間抜けた声が出てきた。
ブレイズ「例えばそうだな……、勇者の剣で鉱石を取りまくったり」
セリニ「え…」
ブレイズ「勇者の剣で魚を捕りまくったり」
セリニ「えぇ…」
ブレイズ「さらにはあれだ。入ってきたばっかりのセリニに避けられて、その夜、勇者の剣で土を掘って、その場で寝ようとしたことを俺は忘れないな……」
セリニ「えぇぇ……………」
ブレイズ「とまぁ、こんな感じでイリゼはガチの陰キャだ。もう手の付けようがない」
セリニ「そんな、子供みたいな」
何としてでもなんか代弁をしようとしたが
イリゼ「あの……セリニさん」
セリニ「イリゼさん……大じょ…」
イリゼ「この事は一切忘れてください。あと、パーティー解散したら私の事を完全消去してください。お願いします」
セリニ「え…ええ…」
とイリゼの見向きもしない態度のままの完全消去宣言。まるで見てきた勇者像が砂のように落ちていくような感じだ。すると
???「あなたがイリゼ・アマネセルさんですか?」
イリゼ「………え?」
聞き覚えのない声を掛けられて、聞こえた方の後ろを向いた。そこには見覚えのない服を来た中年で細身の人が立っていた。
???「申し遅れました。私、
とイズミと名乗った男が名前の書いた小さな紙をイリゼに差し出す。
イリゼ「え…あ、イズミ…?」
エルデ「んお?もしかしてあいつらじゃない?」
イリゼ「え…?」
エルデ「ああ…お前らはまだ知らないのか。こいつ、現地球人だよ」
イズミ「知ってもらえて、光栄です。エルデさん」
「ええ!?」と酒場が一気にザワめいていた。
「え、現地球人って…あの…?」
「嘘だろ…」
「初めて見た……」
イリゼ「えっと…現地球人?」
エルデ「あれ、もしかして知らない系?」
ブレイズ「というか、俺でさえも知らないんだが」
セリニ「うん」
エルデ「え!?君たち、損してるね〜」
イズミ「すいません、急いでいるので。話は別の所でよろしいでしょうか?」
イリゼ「え…あ、はい…」
イズミ「では、勇者御一行様。こちらに」
とイズミに連れていかれるままにイリゼ達はついて行った。
まるで導かれるかのように
はい!こちら、最強異世界人と最強ゲーマーしかいない学園です! 桜苗 @fromy
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