第10話
意識が一瞬飛んだ。
しかしそのまま気絶することはなかった。とはいっても顔面に受けた一撃は思った以上にダメージが大きく、片眼は見えない上に激痛で叫びたくなっていた。
それでも何故か頬が緩む。胸の奥から感動のような気持が込み上げてきている。
そんな溢れ出てくる想いが全身に力をくれているのか、無意識に立ち上がろうとしていた。
今にも倒れそうになりながらも、立って前を見据えると、そこには笑みを浮かべている幼女がいた。
「うむうむ、やはり思った通りなのだ。お主は――あたし様と同じなのだな!」
嬉しそうにはにかむその表情は、とてもさっき子供を十メートル以上吹き飛ばした幼女には見えない。
(何だろうな…………力が湧いてくる)
身体の奥底からエネルギーが溢れてくるような感覚がある。またアドレナリンが噴出しているのかと思っていると……。
「おい見ろよ、あのガキ……波導力を出してやがるぞ! しかもあの量……すげえっ!?」
不意に聞こえてきたそんな声。
あのガキというのは自分のことで間違いない。なら波導力を自分が出しているということ。若干戸惑いつつ自分の身体に視線を向けてみる。
すると自分の身体から赤い靄のようなものが出ていることに気づく。
(何だ……これ? いや、これが波導力ってやつなのか?)
それはあのレデッカが使用していたエネルギーのことだ。つい先ほどまでログには感じ取れなかったのにもかかわらず、こうして目視することができた事実に驚く。
アドムが言うには、波導力というエネルギーは誰もが持っているが、それを扱えるようになるには長い修練が必要になるらしい。すぐに波導の力を感じたり目視することはできないとも聞いていたからプチパニックを起こしていた。
(けど俺よりも詳しいはずの連中が、これを波導力って呼ぶんだからそうなんだろうな。そうか、俺にも使えるのかコレ)
この湧き出てくるような力の正体を知り、さらに楽しくなってくる。
「ほほう、今にも倒れそうな状態で笑うか。よいぞ、お主! その力、もっと見せてみるのだ!」
キロロもまた楽しそうに構えてくる。今度は受け手に回ってくれるようだ。なら安心して準備を整えることができる。
目を閉じる。身体に流れる血の巡りに意識を集中させると、よりこの波導力を強く感じることができた。
そのまま身を屈め、全力で大地を蹴ってキロロへと突出した……つもりだったが、彼女の脇を物凄い速度で通過し、止まることもできずに転倒してしまう。
あまりにも想定外の速度で、意識がついていかなかった。
波導力のお蔭で飛躍的に伸びた身体能力だったが、使いこなすには少々困難なようだ。
(はは、じゃじゃ馬みてェな力だな。……面白ェ)
もう一度立ち上がって、深呼吸を行う。心を落ち着かせて、自分の中にある力をさらに実感していく。
このような状況で正しい判断をするなら逃亡を図ることだろう。何せまだ相手の思惑を完全に理解したわけではないのだから。せっかくの命をここで散らすのはバカとしか言えない。
それなのに、ログは試したくて仕方が無かった。
この自分の内から湧き出てくる〝未知〟を。冒険せずにはいられなかった。
そんな想いが、ログに逃げるとう選択肢を奪っていたのである。
「――逝くぜ」
先ほどとは真逆。言葉と同時にログは、キロロの懐へ即座に詰め寄っていた。同時に拳も突き出して、倍返しのつもりだったが、その拳はあっさりと受け止められてしまう。
直後、彼女から凄まじい波導力が吹き荒れる。
「っ……はは、お前、すげェな」
思わず出た感嘆。目の前に立つ幼女は、今の自分が逆立ちしても勝てない相手だった。しかし心の底からこの瞬間に感謝したのである。
「うむ、良き一手だったのだ!」
その言葉とともに腹に衝撃が走り、今度こそ完全に意識が飛んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます