第22話 回想するほど辛いものはない
「私も当時びっくりしたよー。あの
リカはシャンプー台で
あまり也夜のことを話したくないのだがリカが2人の馴れ初めを聞いてくるものだから思い出しながらしょうがなく話すしかなかったようだ。
「隠しても良いことだけども也夜は隠し通してるのが嫌だったみたい」
「ふーん、それって來利用されてるじゃん」
利用されている、という言葉に來は手を止めた。
「本当は自分は同性愛者って言いたかったけどタイミングがなくてー……多分あの当時めっちゃ古参の女の子にストーカーまがいなことされてたみたいだから事務所も手に負えなくて。で、その時に來と付き合うことで僕は同性愛者だから近づくなよーって言うのにぴったりだったんじゃない?」
「それ、初めて知った……でも付き纏われるとかそういうのはやっぱモデルとか表に出ている人も多いだろうし。僕でさえも実はいた……」
「なになに、自分もモテます発言?!」
「違うってー!」
來は少し向きになった。リカは強く髪の毛を揉み込む。かなりくすぐったそうだ。
「……也夜、來が女の子を一緒に住む部屋に女の子連れ込んだことどう思うのかな」
「あぁ……連れ込んだって……もうしないし」
そんなこと言われても、と來は自分のことを恥じるしかなかった。
「もし私も同じように事故で意識なくなって植物状態になったら……恋人には他の人と幸せになって欲しいって思うよ」
「リカ……」
「あくまでも私は、よ。也夜はどうかわからないけど……何年も何年も自分のことを思い続けてくれるのは嬉しいかもだけどそれは本当にいいことなのか。いつ目が覚めるかわからないし」
リカは來の顔をうかがう。
「だから……自分が寝ている時も幸せであって欲しい、だから誰か他の人と一緒にいようがキスしようがせっくすしようが構わない、その人の幸せであれば」
「……幸せか……」
「私と一緒にいることは、來にとって幸せ?」
首を傾げていうリカに來は目を合わせる。そして微笑まれる。
「私は幸せよ……」
「リカ……それは告白?」
「……告白、て捉えられちゃうかぁ」
二人の関係はもうこれ以上深くはならない、互いにわかっている。でもリカはすこし來に向いている。
時折出てくる也夜の名前。忘れたいはずなのに掘り起こされる。也夜の頭を何度も洗った。プライベートでも。
忘れたいのに色んな人の口からこうして也夜の名前がしょっちゅう出るのは自分が思った以上に也夜は多くの人に愛されていたのかと少し羨ましくなる。
「私たちだってさ、也夜が男と付き合ってるって聞いて中にはショック受けた子もいるけどー、結構話で盛り上がるんだから。B L好きな子とかさぁ」
「マジか」
そんなふうに周りが想像していたかと思うと複雑な気持ちであった。
翌朝、來は誰もいないベッドの上で目を覚ます。トーストを口に咥えて冷蔵庫の中のいちごジャムを取り出しダイニングに戻るとスマホにもう一通メールが来ていた。
『おはよう。今日お兄ちゃんの病院帰りに久しぶりに髪の毛切って欲しいです』
と。
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