第9話 リカ

らいくん、ほんと顔がいいよね」

 とある日そんなこと清流ガールズのメインメンバーに言われた來。


「またまたぁ、おだてが上手だね。だと言って君の売り上げに貢献するわけじゃないから」

「わかってるよぉ。ここ数ヶ月前から関係者による貢献ポイントは無効になっているしね」


 そういうとおり、ここ近年不正があって中にはスタッフやテレビ局のディレクターと体の関係を持ったりお金の受け渡しがあったりしてスタッフ及び関係者からの個人メンバーの売り上げ貢献は無効になったとのことだ。


 來に関してはアイドルたちとは仲良くはなったものの、やはり女性には興味がなく、特にお気に入りの子はいなかった。


 來が初日の現場でメイクを直した研究生は少し気になってはいたのだったが、一ヶ月前から体調を崩して休んでいる。


 そこそこ人気は出てきたもののやはり女性しかいない世界では心身ともに健康で無いと生きていけない……他にも数人、研究生だけでなくメインメンバーも人気No.2の子が活動休止してしまった。


 それにマンションのローンもあって來は貢献はしてはいなかった。そして関係者による貢献禁止令のおかげで少しはほっとしてたりもする。


「僕はこうやって君たちが多くの人から応援してもらえる、可愛いって言ってもらえるようにメイクやヘアスタイルを作っている、これくらいしかできないのが残念だよ」

 というと横に座ってた他のメンバーたちも笑ってた。

「またまたぁー」


 さっきの來の言い方を真似されている。來も24歳になり10代中盤の若い女の子から揶揄われれても笑顔でスルーするスキルも身につけた。


そんな時に


『來は優しいよ』


 ふと也夜から言われたことを思い出す。なぜこんなタイミングで思い出してしまったのだろうか。

 それは人の髪の毛を触っているからか? いやきっと使っている整髪剤の匂いだろう。


 匂いは記憶と結びつきが強い。だから記憶を消そうとしても匂いで思い出すこともあるようだ。


 也夜なりやからそんなこと言われたのだが……來は人から優しくされたことがない。無いなら自分は優しくしよう、そう思うようになったからである。


 だがそれは並大抵なことではなかった。それを一番に気づいてくれていたのは也夜だった。


 ひょんな拍子でまた也夜のことを思い出す、それは度々起こることだ。


 それにまだ也夜は生きていて、ファンたちの後押しもあるかもしれないが事務所は定期的に也夜のことを発信している。


 過去の出演作やショーのこととか。


 也夜の両親は事務所には連絡は取っているようではある。來は取ることはできていないのに。

 本当は自分も家族の一人だったはずの來は也夜の記憶を消そうとしている。



「來くんは也夜くんに会ってないんだってね」

 と、とあるメンバーに言われた時にヒヤッとした。


 彼女たちも仕事をしたことがあったと言っていたがほとんどのメンバーは來に対して也夜のことを言わないようにと言われていたようで気遣ってくれていたのだが親密になるに連れてそうでもなくなってきた。


 しかし一人だけ違った。宇津々リカ、辛口のヒール役的存在でツンとした態度を売りに出している。先ほどの発言は彼女だ。


「ちょっとリカ、それは言っちゃダメって」

 と言われてもリカは首を横に振る。


「なんかタブーみたいな感じで訳わからないけどさ、そこははっきりしておこうよ」

 來は正直リカと話すのはあまりない。彼女は子役出身でツンとした性格上メイク室でも誰とも絡まないようにしている。


 スタッフに対しては頭は下げるが笑顔を見せない。

 メイク、ヘアセット中はイヤフォンつけて曲を聴いたりダンスムービーを真剣に見ていて声をかけられることはない。


 ツンとはしているが真面目な子だという印象は來にはあった。


「……はっきりか。そうだよね。でも也夜の事務所の人とちゃんと話してから人には言いたいかな」

「そうだろうけどさ、めんどくさいよね……この世界ってさ。來さんは一般人だけど也夜が有名人でさ、しかも同性婚しようとしてたのに事故以来一気に二人が何もなかったかのようにって……裏で何かあったとか言われてるし」

「それは知ってる」

「ねぇ、もし也夜が戻ってきたらどうするの?」

「……ごめん、これも話せないや」


 もう也夜の家族からは会わないでほしいと言われている、だがそれは言えない。

 でもそれを公にしていないが、來が公に出なくなったことでいろんな憶測は飛び交っているのは知っている。


「……何がいけないんだろうね」

「えっ」

「二人、お似合いだと思うのに」

 リカがそういうと周りも頷いた。


「……」

 だが來は何も言えなかった。

「誰に何言われたか、箝口令だか知らないけどさ、二人の恋はそんなもんだったのかしら」


 やはりリカの辛口は深く刺さる。いつかは言われるかもしれない、そう思っていたから自分から声をかけなかった、それは事実だ。

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