口十短編集

口十

第1話 拠り所

 午前二時。丑三つ時に近いこの時間が私は好きだ。それこそこの街凡てが寝静まったようなこの時間。私はその夜への愛情を抑えられずに外に出た。

 いつもは車やらバイクやらが姦しく往来する大通りもたまぁにトラックが一台申し訳なさそうに通るだけ。すれ違う人間などいやしない。私が今ここで死んだとしても、しばらくは気づかれないだろう。

 川沿いに街を歩いてみる。音も立てず、流れているかも認識できない真っ黒な川だが、確かにそこにある。何がそう思わせるのか。屹度ずっと住んでいる街だから昼間と変わらないと、勝手に思い込んでいるからだろう。昼間と同じものなど一つもないというのに。

 しかし寒い。ハロウィンも終え、残るイベントは十二月に集中している。だが、私は十二月よりも今この十一月の方が好きだ。ハロウィンの疲れもあろうに、人々は早々にクリスマスの様式に切り替わる。だけれどまだなり切れていない。未熟なクリスマスを見られるのはこの一月ひとつきしかないのだ。無論、未熟なのはクリスマスに限らない。寒さや、年末への心持ち、学生の時分なら学年が変わるという重圧すら未だ感じられずにいるだろう。そんなようやっと一人立ちできそうな、そんな街に親近感を覚えるのだ。

 少し川から逸れて大通りに面したコンビニに入る。店員は休憩中だろうか、挨拶が流れず、店内ラジオだけが響くのもまた夜らしい。

 ホットココアとおにぎりを買って外に出る。店内で食べれもするが、ここは体に鞭打って外で食べた方が風情というものがあろう。

 おにぎりの包みをゴミ箱に捨て、ホットココアを片手にまた川沿いに戻る。

 こういうどうでもいい時間は終わりの事を考えずにただ使い果たすだけに限る。帰りどれだけ歩かなきゃいけなくなろうとも、ただ知りたい、感じたいから只管に歩き続ける。

 社会や未来への不安も感じつつ、暫く歩いていると川と道とが逸れてしまった。夜が好きだと言っても、それは拠り所がない夜ではなくて、こういった自然の何かと一緒にいる夜が好きなのだ。致し方ない、と私は少しぬるくなったホットココアを飲みながら帰路に着く。川に寄り添ってみると、最初は気づかなかったような些細な川のせせらぎにも気づけるようになっていた。帰りはこれを聴きながら歩くとしよう。

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