11月8日『頭痛』

 11月8日 PM11:40『頭痛』


 俺は自宅の駐車場の車の中で、ハンドルを抱えながら目を覚ました。

 窓の外はすでに暗く、もう夜になっている。

 ハンドルから手を離すと、大量の手汗をかいていた。


「俺は寝てしまったのか?」


 酷い頭痛がする……まるで頭を割られるような激しい頭痛だ。体の怠さも尋常ではない。


 一体、今は何時なんだ?携帯電話を探し、時間を確認する。


 11月8日 PM 11:40


 追ってくるパトカーをなんとか振り切り、狭い路地の道端に車を停めた。

 緊張の糸が切れて、そこで眠気に負け寝てしまった。

 その時はまだ午前中だったはずだ。半日も寝ていたのか?それとも記憶が抜け落ちている間、何かしていたのか?頭は混乱していく。


 しばらく状況が掴めないでいた……助手席には大量の眠気覚ましのドリンクの空き瓶が転がっている。1人では飲むには多すぎる量の空き瓶だった。

 これを全部、俺が飲んだのか?頭痛の原因は大量のカフェイン摂取だろう……こんなに飲めば体に負担がかかるに決まっている。

 それほど眠気に強い恐怖を感じていたんだ。


 空き瓶を見ると見ていた夢が次々にフラッシュバックされる。


 スピードを上げる車……


 唆すような少年の声……


 対向車に投げた空き瓶……


 バイクの接触事故……


 夢の全てを思い出す……悪夢を見るたびにリアルさは増していっている。

 まるで現実で体験したように鮮明に思い出された。


「もしかして……」


 俺は割れる頭を抱え、車を降りフロントバンパーを確認した。

 案の定、フロントバンパーは割れてしまっている。

 バイクの後輪に当てた時に割れたのだろう。


「これは夢じゃない……」


 割れたフロントバンパーを見てそう確信する。

 バイクの事故を引き起こし、対向車に空き瓶を投げつけたのも現実に俺がやった事だろう。


 何故か夢の中で少年の声には逆らえなかった……まるで操られているように。

 少年は夢の中の俺に確実に近づいてきている。


 ひとまず体を休めよう……俺は割れるような痛みの頭を抱え、自宅に戻りベットに横になる。

 しばらくすると激しい頭痛から吐き気を覚え、トイレに駆け込んだ。

 眠気覚ましドリンクであろう黒い液体を、胃液と共に吐き出す。吐いても吐いても吐き気は治らなかった。


 俺は吐き気を堪え、夢日記を書き始める。夢日記を読み返してみると、改めてさっきまで夢で見ていた事柄に落胆した。

 現実ならば取り返しがつかないだろうと頭を抱える。

 大量のカフェイン摂取の為か手の震えも止まらない。


 少年は俺に何をしようとしている?


 あの少年は一体誰だ?


 ゲーム感覚で俺を操り、子どもがいたずらをするように俺は罪を重ねていく。


 あの少年から逃げないといけない……


 様々な思考が頭の中で出てきては消えていった。

 俺はもう考えるのも疲れてしまった。重い体、割れるような頭を抱えベットに飛び込んだ、体はもうぼろぼろだ。


「もう何も考えたくない……」


 木目の天井を眺めながら瞳を閉じた。木目の天井の顔は物言わず俺を見つめていた。

 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る