10月31日 夢日記 『踏切』

 10月31日 夢日記 『踏切』


 ……俺は真夜中に車を走らせていた。


 周りには何もない。真っ暗で寂しい風景の中、ただひたすらに車を走らせていた。


 しばらく車を走らせていると、目の前に踏切が見えてくる。


 その踏切を照らす街灯が1つだけある。街灯の光は、手入れされていない雑草だらけの寂しい踏切を不気味に照らしている。 

 錆びついた看板が立っており“危険立ち入り禁止”の文字が錆びついて消えかかり、なんとか読める状態で建っていた。


 夜の闇はどこまでも広がり、その闇が線路、踏切、遮断機の不気味さをより強調させていた。

 

 一時停止を止まっていると、警報のサイレンが響き渡る。そして遮断機がゆっくりと下りた。

 サイレンは乾いた音で空気を切り裂き、冷たく鳴り響く。

 警報器の赤いライトだけが、交互に点滅し周りの景色を赤く染めている。


 どうやら踏切に捕まってしまったようだ。


 警報の無機質なサイレンは、どこまでも響き渡りうるさい程だ。神経に直接、響くような音色を俺は不快に感じていた。


 俺は、車を停車させ、電車が通り過ぎるのを待っている。

 しばらくすると、電車のライトが遠くに見えてくる。

 電車の音が、徐々に近づいてくる。古びた10両編成程の電車が目の前を通り過ぎた。

 暗闇の中、警報器の赤いライトと電車内の灯りだけが周囲を照らし出す。

 電車内の光が外へ漏れている。電車には誰も乗っていないようだ。

 

 電車が通り過ぎ、警報のサイレンが止まる。電車のライトはどんどんと遠くなり小さくなる。それに比例して電車の音も、小さくなっていく。

 遮断機が上がり、警報器の赤いライトは消え、また街灯の灯りだけが踏切を照らし出し、周囲に暗闇と静寂が戻る。


 俺は、車を発進させ踏切を通り過ぎる。さっきまでと同じく、何も無い真っ暗な道を延々と走っている。

 窓の景色は何も変わる事なく、暗闇だけがどこまでも広がっていく。


 さっきまでの光景と何ひとつ変わらない……


しばらく走ると、街灯の光が遠くに見えてきた。

 街灯の光はまるで、あちらから近づいてくるかのように見えた。  


 街灯が目の前にまで近づくと、またさっき通ったはずの同じ踏切が現れた。

 錆びついた看板、照らす街灯、手入れがされておらず、生い茂る雑草。


「また同じ踏切だ……」


 俺は独り言を呟いた。街灯の光、響くサイレン、遮断機が下がり、古びた10両編成の電車が通り過ぎる、警報器が鳴り止み、静寂が訪れ、遮断機が上がりまた車を発進させる。さっきと全く、同じ光景だ。


 夢の中の俺は、何もない暗い道を繰り返し、何度も車を走り出させる。

 しばらく走らせるとまた街灯の光が見えてくる。


「まただ……」


 俺は三度目の踏切に困惑した……道に迷ってしまったのだろか?一刻も早く家に帰りたい。

 どうにか抜け出さないと……夢の中で恐怖を感じた。そして同時に焦りが積もっていく。


 何度も……何度も……何度も……同じ踏切が俺の目の前に現れる。


 もう何度目だろうか?停止位置に車を止め、サイレンが鳴り、遮断機が下りる、そして電車が近づいてくる……この繰り返しだ。

 しかし今回は車の運転席に座る俺の視界を横切る“何か”が見えた。


「……なんだろう?」


 横切る“何か”をよく見ると真っ白なスカートに黒いコートを羽織った女性だった。

 その女性は遮断機を超え、まるで誰かに押し倒されたような勢いで、線路の上に倒れ込み、うつ伏せになってしまった。


「あっ……」


 俺は車内の中で叫び声をあげた。飛び込み自殺だ……瞬時に状況を理解したがもう電車はすぐ近くにまで来ている。


「どうにかしないと……」


 車の中で俺は焦り、急いで車から外に出て女性の元へ歩み寄る。


 電車は警笛を鳴らす。線路の上の女性は一向に動く様子はない。気でも失っているかのようだ。電車のブレーキ音が辺りに響く。


 女性と電車の衝突音が、鈍く重く響いた……


 電車は、急にはスピードを落とす事が出来ずに女性を轢いてしまったのだ。

 

 鉄が擦れるブレーキ音が辺りに響く、1両1両、電車がスピードを落としながら目の前を通り過ぎる。


 電車の最後の車両には、以前夢で見た少年が乗っていた。少年の顔はよく見えないが笑顔を浮かべている事は分かった。

 それは無邪気な笑顔ではなく、どこか不気味さを含んだ笑顔だ。


 電車が踏切を通りすぎた後も、女性と電車の衝突音だけが、何度も何度も頭の中でこだまする。

 鈍く重い音は鼓膜に張り付いたように繰り返し鳴り響く。



「一体、俺はどうすれば良かったのだろう……」 


 何度も何度も衝突音が頭に鳴り響く。音に包まれながら、俺は目を覚ました。



 


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