第11話 変わらない夏2

 去年と自分たちはなにひとつ変わっていない。暁はそう思う。


「去年まで、四人でよく学校のプールとか行ってたよね」


「そ、そうだね」


 確かに、去年までは夏になると毎日、家にいて邪魔者扱いをされるという涼や健太にくっついて、康長や暁もプールセットを背負い、みんなで泳ぎに行ったものだ。


 真夏の空の下、セミの大合唱をBGMに自転車をかっ飛ばすのだ。


 毎日行きすぎて監視員をしているおとなたちに覚えられたし、弟子だと自らを名乗る下級生たちに慕われるしで、無敵だった。


 泳いだあとに飲むサイダーは格別においしくて、そのあと公園の草むらに寝転がって日向ぼっこをする……といった最強で最高に楽しい毎日を過ごしていた。


 すべてがすべて完璧で、本当に良い夏だったと暁は思い出すだけで今でもまだわくわくする気持ちを抑えられない。


 中学に入っても、四人の関係は変わらない。


 部活動やクラスは違えど、あのころと変わらず、暁たちはずっと仲良しだった。


 だからこそ、変わらず同じ夏がくると思っていた。


「なにか、去年とちがうの?」


 それだけに、健太の言葉は暁を不安にさせた。


「ちがうよ~」


 次の瞬間に見えたぐしゃぐしゃに崩れた健太の顔に少しほっとする。


 いつも通りの表情だ。


「言ってたでしょ、カミナリのやつ! この夏もビッシバシしごくぞ~。休みはないと思え! って。あれは絶対にぼくらに休みをくれない気だよ」


 問題は、健太の中にあるようだ。


 ずいぶんと安心した。


「うん。そうみたいだね」


 無理に従うつもりもなかったし、暁自身、健太ほど気にはしていなかった。


「そうみたいだね、じゃないよ~、あっちゃん! これじゃ四人でいっぱい遊べないよ」


「ああ、その心配はないよ」


 この世の終わりのような顔をする健太に、暁は思わず笑ってしまう。


「だって、体育館は午後からバレー部が使うことになってるから、練習は午前中におわるはずだよ。陸上部だって、暑い時間をさけて早朝から練習するんだって涼が言ってたし、午後からなら去年みたいにみんなで遊べるはずだよ。家だって近いんだし」


 そう、去年と何も変わらない。


「ただ、宿題が多いから、忘れないことだけは忠告しとくけどね、健太」


 ぼくは手伝わないからね、と意地悪く歯を見せて笑ってみせると健太はさらに青い顔をしたが、うそだよ、と暁が付け加えると、ほっとしたように笑い返してきた。


「涼の家にでも寄ろうか? あいつ、グランドに立って十五分もしないうちに帰っていったし、今ごろ家で爆睡してるはずだよ。起こしてやろうよ!」


「あはは、いいねぇ~」


 赤く染まった田んぼ道に二人の影が揺れる。


 いつまでも変わらない。


 暁はそう信じてる。


 毎年のように暑苦しくて、それでもどこか胸が弾むような、そんな夏が、また今年も本格的にはじまったような気がした。

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