第16話 助け出された男

「ありがとうございます!!」


 男は目を覚ますとシズフェにお礼を言う。

 シズフェは巨大蜘蛛から男を助けると、後から来たノヴィス、ノーラと共に馬車に運んだ。

 その後助け出された男はレイリアの解麻痺の魔法ですぐに目を覚ましたのである。

 そして、馬車の寝台から起きた男は状況を確認して、シズフェ達にお礼を言ったのである。

 顔を見る限り、特に問題はないようだ。

 シズフェは安心する。

 場合によっては戦乙女が使える肉体強化の魔法を使うつもりだった。

 肉体を強化すれば、普通なら死んでしまうような傷や毒でも生きる事ができる。

 ただし、肉体を鍛えていない者だと魔法が切れた時に副作用で何日か寝込む事になる。

 そのため、出来る限り使いたくはなかった。 


「良かったわ。目を覚まして。ところであなたは何処から来たの? 旅をする恰好をしているけど」


 シズフェは男の身なりを見て言う。

 男が持っていた革袋には水筒や、保存食が入っていた。

 靴も丈夫そうであり、彼は旅をしようとしていたとみて間違いないだろう。


「ああ、私はボンプと申します。この崖を登った先にあるカラバ王国の者です。これからソノフェン王国に行くとろこだったのですよ」


 ボンプと名乗った男がそう言うとシズフェ達は顔を見合わせる。

 

「こりゃ奇遇だな。こっちはソノフェン王国からカラバ王国に行くところだぜ」

「そ、それは本当ですか!? どうしてカラバに!?」


 ケイナがそう言うとボンプは驚いた顔をして聞く。


「えっと、それは……」

「ちょ、ちょっと待ってシズちゃん。あの~、ボンプさん。それは話してあげるけど、まずはボンプさんの話が聞きたいなあ。どうしてソノフェン王国へ向かっていたの?」


 シズフェが喋ろうとしたのをマディアが遮って聞く。

 休憩してしばらくしたので回復したようだ。

 顔色が良くなっている


「えっ、ソノフェン王国に行く理由ですか? それは……」


 ボンプはゆっくりと話始める。

 事件が起きたのは半年前の事である。

 かつてオーガが住んでいた廃館にとあるゴブリンの部族が住み始めたのだようなのだ。

 当然カラバ王国の人達は警戒をする。

 ソノフェン王国へ、助けを求める事も考えた。

 だが、それは見送られた。

 自分達の国は自分達で守る。

 それが一般的な考え方だ。 

 もちろん、どうにもならない時は救援をお願いするが、最初から助けてを求めるのは間違っている。

 そのため、カラバの人達は防御を固め、もしゴブリンがいつ来ても大丈夫なように武器も調達したのである。

 しかし、ゴブリンが来ることはなかった。

 1か月前程のある日、突然ゴブリン達が姿を見せなくなったのである。

 最初ゴブリンがいなくなった事でカラバの人達は喜んだ。

 だが、ゴブリンが姿を見せなくなったのは良いが、カラバ王国で行方不明者が出るようになったのである。

 原因ははっきりとわからない。

 だが、ゴブリンが突然姿を見せなく事と関係するのではないかと誰もが思った。

 オーガの廃館を調べに行きたいが、何がいるかわからず危険である。

 ゴブリンの時とは違い、カラバの住民に被害が出ているので議論は紛糾した。

 すぐにオーガの廃館を探索し、原因を突き止めるべきと考える者達と、探索は危険なので様子見してとりあえず夜の守りを固めて、出来るところから原因を探ろうとう者達である。

 どちらの言い分にも理由があった。

 廃館が怪しいのは確かで探索するのは正しい。

 しかし、ゴブリンが来るまでカラバ王国は特に魔物の被害がなく、住民は戦いに慣れていなかった。探索をしても被害がより多くなる可能性もある。

 そして最終的に判断は王に任され、結果は様子見となったのである。

 

「はあ、何だよそりゃ!? やる前から諦めんなよ。さっさと探索すりゃ良いのによ」


 ノヴィスが呆れた顔をする。

 力と戦いの神トールズの信徒は死を恐れずに戦う事を美徳とする。

 どんなに危険であっても突撃し、命を捨ててでも魔物を倒す。

 もっとも、その結果死ぬ者も後を絶たない。

 だが、それでも戦うのがトールズの戦士だ。

 そんなトールズの戦士であるノヴィスとしては危険だからといって諦めるのは許せない行為であった。


「ちょっと、ノヴィス。それぞれの事情があるわ。むやみに動かない方が良い時もあるわよ。それにボンプさんの話が終わっていないわ。そもそもどうしてソノフェン王国に向かっているの?」


 シズフェはノヴィスを止める。

 シズフェの信仰する知恵と勝利の女神アルレーナもまたトールズと同じ武神だ。

 だが、トールズと違い犠牲を少なくして戦う事を良しとする。

 場合によっては撤退する事も認められる。

 それがアルレーナの教えである。

 トールズが攻めを重視するのに対して、守りを重視する事からアルレーナは盾の女神と呼ばれる事もある。


「そ、それは……。救援をお願いしに向かったです。ソノフェン王国のヴィナン様ならきっとお救い下さるはずだと……」


 ボンプは視線を落として言う。

 実はボンプは廃館の探索をすべきとする人達の主導者であった。

 しかし、王が様子見を決めた事で同じ意見を持っていた仲間もそれに従った。

 だけどボンプだけはどうしても納得が出来なかったのである。 

 だが、ボンプだけでは探索をしても死ぬだけだろう。

 そのため、救援も求めようと1人で決断し、かつての仲間に黙って国を出たのである。

 その結果、途中で蜘蛛に捕まった。

 それがこれまでの出来事であった。


「まさか、あんな所に凶悪な魔物が出るとは……。以前はいなかったはずですのに」


 ボンプは蜘蛛に捕まった事を思い出し身震いする。

 シズフェ達はそんなボンプの話を聞いて顔を見合わせたのち全員が頷く。

 仲間達の意見は一致したようだ。


「なるほど、そういう理由だったの……。でも、貴方の力じゃあこの先に進めるとは思えないわ。途中で強いゴブリンに出会ったし、死ぬかもしれないわよ。ねえ良かったら、カラバ王国まで案内してくれないかしら? 私達なら貴方の力になれるかもしれないわよ」


 シズフェがそう言うとボンプは嬉しそうな顔をする。

 ボンプは正直に言って強そうに見えない。

 途中で死ぬかもしれない。

 それならば、引き返してシズフェ達の案内をしてもらった方が良いだろう。


「おお、そうですか! よろこんで案内させていただきます!!」


 ボンプはそう言ってシズフェの手を取るのだった。


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