第9話 街道を行く

 用意をすませたシズフェ達はソノフェン王国を出立する。

 目的地のカラバ王国はソノフェンから北東の森の近くにある。

 人の往来が多い街道からかなり離れているらしく、そこまで行くのはかなり大変になりそうだった。

 神々の王オーディスの聖地ドーナから、知恵と勝利の女神アルレーナの聖地であるレナリアを繋ぐ道は大街道と呼ばれ人々の往来が多い。

 そんな大街道沿いにある国は豊かである事が多く、街道もきちんと整備されている。

 だが、人の往来の少ない国への道は整備されていないことが多いのである。

 そういった国に行くのはかなり大変だったりする。

 

「なかなか良い馬じゃねえか。王子様も気前が良いな」


 御者台に乗って馬を操っているケイナが嬉しそうに言う。

 カラバ王国は徒歩で行くには遠いのでヴィナン王子が馬車を用意してくれたのだ。

 歩いて行けば何度も昼と夜を迎える事になっただろう。

 そもそも馬は高価な生き物だ。

 買うだけでもかなりの出費だが、その後厩に餌も用意せねばならず。

 それもまたかなり費用がかかる。

 そんな馬を所有できるのは王や貴族、もしくは金持ちの商人ぐらいだろう。

 普通の平民には手が出せない生き物なのである。

 ケイナは馬車を巧みに操る。

 シズフェはどこでそんな技術を覚えたのだろうと思う。

 ケイナはシズフェと同じ国の出身ではあり、共に育った。

 しかし、一時期離れていた事もあり、その間に覚えたのかもしれなかった推測する。

 

「確かにそうだね。馬車をポンと貸し出してくれるなんて、さすがだな~王子様」


 マディが嬉しそうに言う。

 マディはこの中で一番体力がない。

 歩いて移動しなくて良くなったので嬉しく思うのは当然だった。

 実はソノフェン王国に来る時も、知り合いの商人が所有する馬車に乗せてもらってたりする。 


「そうですわね、まさか他にも色々と用意してくれるとは思いませんでした」


 レイリアは馬車の中を見る。

 馬車には長期間の旅をするための様々な物資が積まれている。

 馬車だけでなくヴィナン王子はこれらの品も用意してくれたのだ。

 携帯食料に寝具等、いたせりつくせりだ。


「ふん、自分が依頼した事なんだから、これぐらい用意するのは当たり前だろう。それよりカラバ王国ってのはどれくらいの日数で行けるんだ」


 ヴィナン王子を褒めた事が気に入らないのかノヴィスが機嫌悪そうに言う。


「カラバ王国はそんなに遠くはねえ。歩くとかなりかかるが、馬車だから5日もかからねえよ。ノヴィス。問題は寝泊まりだな……」


 馬車を操作しながらケイナが言う。

 

「ケイナ姉の言う通りなの。カラバ王国まで行くのに宿を取れそうな国はあまりないみたいだから、どこかで野宿する必要があるわね」


 シズフェは地図を見て言う。

 実を言うとシズフェは地図を見るのが苦手である。

 そのため、いつも旅をする時にシズフェはケイナやノーラの助けを借りていたりする。


「まあ、大丈夫だろう。その国を訪れる者がいるのだから、寝泊まりできそうな場所もあるはずだ。それに馬車もあるし普通に野宿するよりも楽だと思うぞ。まあ、そのために馬車を貸したのだろう」


 ノーラは笑って言う。

 馬車は幌付きであり、夜露をしのぐ事もできる。

 野宿に必要な物資も積んでいるので普通に野宿するよりも楽になるだろう。

 

「なるほどな、さすが王子様ってところかよ……。もういいや、とりあえず俺は寝る。何かあったら起こしてくれ」


 ノヴィスはそう言うと馬車の隅で寝始める。

 寝付きが良いのですぐに寝息が聞こえる。


「相変わらず寝付きが良いわね……」


 シズフェはノヴィスを見て呆れる。

 どんな時でも寝れるのは羨ましかった。


「そうだね。私なんて固すぎる場所だと眠れないのに羨ましい」


 マディも羨ましそうに言う。

 マディは野宿をするといつもなかなか眠れず、大変だったりする。

 それでも付いて来てくれるので、シズフェとしてはとても有難いと思う。


「まあ、それがノヴィスの良い所だ。休む時に休んどかねえといざという時に戦えねえからな。シズフェにマディ。お前らも喋ってないで休んどけよ。先は長いみたいだからよ」


 ケイナは馬車を操りながら言う。

 道中は交代で休まなければならない。

 城壁から出たら魔物がいつ襲ってきてもおかしくない。


「うん、わかったよ。ケイナ姉。ケイナ姉も休みたい時に馬を止めてね」


 シズフェはそう言うと鎧と兜を脱ぎ、少し横になるのだった。

 

 

 

 




 



 

 

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