第4話 王女の知らぬ陰謀


「………それで、王女は?」


 王都から少し離れた、とある城では密かに報告がなされていた。


「話によると、王のお諌めに耳をかさず、憤慨した王が市井に放り出したのことです。」


「ほお………あの、兄上がな…。」


「………しかも、何でも王女は平民と結婚されたとか。」


「平民と?!………まあ、いい。ともあれ、王女は表舞台から姿を消したのだ。」


 男は満足げにカウチに身を任せる。



 


「………これで、兄上の一人娘である王女を追い払えた。偽の情報を流した甲斐があったな。」


 男の名前はラドルフ=バチェスタ。

 現国王の弟である。


 実のところ、王女アンジェラは、普通の貴族と比べて特段贅沢をしたり、傲慢だったわけではない。

 ただ、少しわがままで世間知らずなだけであった。


「………やっとだ。これで、王位はこの私のもとに転がり込んでくるはずだ。

 あるべき場所にあるべきものがくるだけのこと。なんら問題ない。」


 アンジェラは濡れ衣をきせられていた。



―――――――――――――――――


 一方、おかみさんを含めた泉にいた女性陣に洗濯のやり方を教わり、一通りできるようになったアンジェラ。ご満悦だったはずが………。



「………これは…」


 その頃のアンジェラといえば、頭から洗濯水と桶を被っていた。別に被りたくて被っているわけではない。


「こ、この性悪女!!ァ、アルくんをたぶらかしたんでしょ!」


 目の前のきれいなストロベリーブロンドの少女に水の入った洗濯桶をなげられたのだ。


 相手は自分よりもずいぶん年下で、世間知らずそうな少女だ。

 

 この少女が明らかに悪いのだが、大人なアンジェラが口車にのらなかったら、そこでおさまっていたのかもしれないのに……事態はより悪化した。


「………な、なんのことですの?!わたくしはたぶらかしたりしませんわ!失礼よ!!

 それにあなた、わたくしに向かって何と言う口を利くのかしら!?おつむが弱いのではなくって??

 というか、洗濯の水をかけるなんてどうかしてますわよ!」


「何よ!そっちこそ、礼儀というものがなってないでしょ!!ティティに謝って。」


 ストロベリーブロンドの少女はこのあたりでは裕福な商家の一人娘レティーという。


 どうやら、アルに惚れていたようだ。

 


「ちょっと、あんたたち、やめな。」


女将さんが止めるまで取っ組み合いが始まるかという空気だった。


「レティ、いまのはあんたが悪いよ。謝りな。」


「いや〜〜ティティ、こんなおばさんに謝りたくなんかない〜。」


嵐のような少女は颯爽と走り去っていった。


「………………ハッ、クシュん!!」


 (風邪ひきそうだわ……)


「せっかくですが、帰らせていただきますわ…。風邪をひきそうですし……。せっかくみなさんとお会いできたのに…。」


「何を言ってるんだい、嬢ちゃん。洗濯なんて、毎日するものだろ?明日も会えるさ。」


 今日知り合ったおばあさんが微笑んでそういった。おかみさんも頷いていた。


(………あのレティとか言う子は仲良くなれなさそうですわ…けど、他の方とは仲良くしていただきましたし、わたくし、平民として立派に生きていけるのでは??!)


思ったよりポジティブなアンジェラだった。


(それにしても、洗濯は毎日するものであり、あんなに腰と手を痛めるとは思わなかった…。)


 まぁ、世間知らずであることは間違い無い…。











 




 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る