薄暗い路地裏で。

ごいし

第1話

バーボン、ロック。

バーボンというのは、大きなウイスキーの分類で、名前とは別だ。酒の好みを語る上で、こういうのを知っておくと、通っぽく見える。


バーで、少しひっかける。そんな楽しみがある。酒は人を堕落させるものというが、そんなものより、そもそも、人の欲は際限のない暮らしの向上を求めて、堕落の一途を辿っているように見える。それを思えば、酒の一杯がなんだというのか。


店を出る。人ごみ。どこも、ひとだらけ。大通りというのは、これがよくない。誰も素知らぬ顔で、人の間を通りすぎていく。川のようだ。意外と川になってみると、そういう窮屈さを味わうのかもしれない。歩調を合わせて、しばらく歩くと、横路があったので、そこに飛び込む。なんとなく解放された気分を味わう。少し道をそれるだけで、人の量が違う。こういう道には、生活というものの匂いがこびりついているものだ。人に見せる仮面とそれを外した顔。その間にあるような奇妙さがある。

時間の狭間という感じもあって、古い店なんかがあったりする。時代の観察者といったところか。変わりゆく町並みを眺め続けてきた目がそこにある。時代に巻き込まれながらも、それに染まりきらない目を持つものが、裏通りというところには集まっている。その時代に生まれたものに染まりきらないと、息苦しい世の中では、忘れがちな、個性とかいうやつを、感じるところでもある。


この街に親しんでいるような人も、裏通りをよく通る。そこにアパートがある人もいるだろう。勤め先があって、この街が、その人の一部となっていることもあるだろう。人間味というのが、そこにはある。買い物袋。挨拶。お礼。談笑。少しのおせっかい。事務的な仕事に流された人の付き合いってやつを、道の景色に感じる。おれは、そこに馴染んだ人間ではないが、それでも、人間らしさってやつを、感じて、一人の人間だったな、なんて思う景色がここにあるんだ。


買い物袋を下げた姉ちゃんが、パーカーの前ポケットに手を突っ込んで歩いていく。ああ、今日もお疲れさん。缶ビール片手にベランダで一服しているおじさんが見える。タバコの煙を吐く表情は、縛り付けるものから解放されたって感じだ。頑張っているんだろうな、尊敬するよ。ミニドレスってやつだろうか、そんな格好のお姉さんが、アパートのドアの前、鍵を締めているようだ。これから1日が始まる人もいるよな。


さて、駅前に近づいてきた。

ビジネスホテルでも探すか。

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