私の元カレが少しモテ過ぎな件(上)
土日の休み明けの月曜日。私は8時10分に学校に着くと教室であかりと真央と雑談に興じていた。私が学校に着いてから10分ほど後に天海くんが登校してき、私はその姿をちらりと横目で確認した。
『これからは登校する時間をずらしましょう』
これは私が今朝、天海くんに提案したことだ。事の発端は先週の金曜日――私と天海くんが一緒に登校してきた日のことだ。それまで一度も一緒に登校したことのない私たちがいきなり一緒に登校してきたことに友達はもちろん、クラスメイトの間で様々な憶測が飛び交った。(まあ、あの時は私たちが別れたという噂もあったからさらに注目されてたわけだけど……)
今後はあのようなことないように家を出る時間をずらそうと提案したわけなんだけど、天海くんには天海くんの一年間の生活リズムがある。だから私が家を天海くんより少し早く出ることにし、その作戦は大成功した。
これで私たちの変な噂はもう流れないだろうと安堵し、もう一度天海くんの方を横目でちらりと盗み見たときだった。
「――っ!」
「ん? どうしたのさや?」
「う、うぅうん……なんでもないっ――」
横目で私が見たものそれは――
「おはようっ! 天海くん!」
「今日は水無瀬さんと一緒じゃないんだねっ」
「は、はぁ……おはよう……」
「あれー? 天海くん元気ないねぇ。朝は弱い感じ?」
「元気ないっていうかいつも通りじゃない? 物静かっていうか――クールな感じっ!」
「それなー」
「はっ……はあぁ……」
何あの子たち! 天海くんにダルがらみして! 彼女がいなくなった途端これですか! そうですか! 気持ち悪いっ!
「どうしたのさや――ってあぁ……あの子たち1年の時、隣のクラスだった子たちだ。さやの前で……私ちょっと行ってこようか?」
「ううん。私にあの子たちを文句を言う権利はもうないから……」
「さや…………」
別れた元カレに嫉妬するなんてみっともないな……。本当は今すぐにでも天海くんの腕にしがみついてあの子たちをにらんでやりたい。けどもう私にはその資格がない。
最初に天海くんを見つけたのは私なのに……。
私と天海くんが付き合ってすぐのころは正直、校内での天海くんへの風当たりはそれはそれはひどいものだった。きっと学校に来たくなくなるようなことも耳にしただろうし、私と別れたいと思ったことも一度や二度じゃないだろう。けれど、そんな天海くんの評価が変わったのは去年の体育祭のことだった。
それまで天海くんをクラスの空気としてしか見てなかった女子たちがひそひそと「天海くんいいかも」というようになった。これまでの自分たちのしてきたことを思い出せとも思ったが彼女らからすれば、それは自分が言ったというより世間の評価を口にしていただけらしく、自分は他の人とは違うらしい。まったく気持ち悪い理論だ。
彼女の時は天海くんに群がる悪い虫を見えないところで抑制していたがそれはもうできない。私はこれに慣れないといけないのだ。きっとこれからも天海くんに言い寄る女が現れるだろうが私は元カノ――もう部外者なのだから。
それから火曜、水曜、木曜と日は流れ、木曜の夜。晩御飯を食べているときのことだった。
「2年生になって一週間経つけど天海くんはもうクラスに慣れた?」
「……まあ……」
「……私はまだちょっと慣れないかなぁ」
「……そっか……」
「……天海くんは最近よくクラスの女子に話しかけられてるよね」
「…………そうだな…………」
「…………」
「…………」
「……なんか嫌だなぁ……」
思わず零れ落ちた本音に私は口を押えた。けれど一度出た本音は自分の意志とは関係なく次々と口から漏れていく。
「私にこんなこと言う資格がないのはわかってるけど……天海くんが他の女子と話してるのはやだっ……」
「…………」
「天海くんが他の女子にモテてるのはなんかいやだよぉ」
本音と一緒にあふれ出た涙で私は改めて自覚した。
――私はまだ天海くんのことが好きだ。
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