第34話 旧友から誘われました
エリカを含めた『妖精の剣』のメンバー三人が神殿にやってきて、数日が経った。
その間、特にラブコメハプニングが起こることなく平穏な日常が過ぎていったわけだが……そんな中、エリカがふと提案してきた。
「あのさ、クラエル。悪いんだけど……カーバンクル探し、手伝ってくれないかしら?」
「あ? 何だよ、急に」
場所は神殿の奥にある生活スペース、ダイニングである。
そこにいるのはクラエルとエリカだけ。ティーナとキティは席を外していた。
旧友しかいないため、クラエルの口調もやや荒いものになっている。
「この近くの森でカーバンクルがいたらしき痕跡を見つけたんだけど……私達が近づいても、すぐに逃げちゃうのよ。カーバンクルは神聖な生き物だから、聖職者が近づけば寄って来るっていう話もあるのよ」
「神聖な生き物ね……レイナがここにいたら良かったんだけどな」
レイナであれば、きっとカーバンクルの方から胸に飛び込んでくることだろう。
今頃、王都で何をしているだろうか。
手紙のやり取りは何度かしていて元気だということは知っているが、それでも時折、無性に心配になるときがあった。
「…………」
「…………何だよ、その目は」
「アンタって、口を開けば聖女様のことばっかりよね」
「……そうか? 自分ではそんなつもりはなかったんだが」
「自分では意識していないみたいだけど……聖女様のことばかり話しているわよ。何が好きだったとか、どんな趣味があったとか。まるで子煩悩な父親が自分の子供を自慢するみたいにね」
「…………」
心当たりがないわけではない。
一人でいても、三人が泊まるようになっても、やはり頭に浮かぶのはレイナのことばかりなのだ。
(本当に子煩悩な父親だよな……いい加減、子離れできたつもりでいたんだけどな)
「気分転換にもなるだろうし……たまには、町の外に出かけてみたらどう?」
「……そうだな」
この近くの森には強い魔物もいないし、ちょっとしたピクニック気分で出かけるのも悪くないかもしれない。
思えば……五年前にこの町に配属されてから、ほとんど町を出たことはなかった。
「わかった。手伝うよ……その代わり、カーバンクルを見つけることができたら、分け前はもらうぞ?」
「ええ、いいわ。それじゃあ早速出かけましょう」
「おいおい、早速かよ……」
「別に予定なんてないんでしょう? この平和な町じゃあね」
神官の主な仕事として、治癒魔法を求めてくる怪我人の治療があるが……最近では怪我人の手当ては午前中に終わっていた。
以前のようにレイナ目当てのミーハーが神殿を訪れることも無くなっているため、午後は神殿の掃除くらいしか仕事がないのだ。
「わかったよ……それじゃあ、行くか」
『くまくま』
「……それも連れて行くのね?」
クラエルの背中にクマのぬいぐるみがしがみついてきた。
「よっ!」とばかりに手を挙げて、挨拶をしてくる。
「まあ、色々と役に立つからね。信用してくれて良いよ」
クマのぬいぐるみは一人暮らしになったクラエルに手を貸してくれており、掃除や洗濯、食器の片付けなども手伝ってくれている。
以前、レイナを害そうとする輩が忍び込んできた際にも、侵入者を撃退してくれた。ボディーガードとしても役に立つだろう。
「俺を連れていくよりもよっぽど良いかもしれないぜ? 何たって、コイツの中にはレイナの力が宿っているからな」
「……別に良いわ。何でも」
エリカが拗ねたように唇を尖らせる。
急に怒りだしたりして、クラエルからしてみればわけがわからない。
(そういえば……昔から、何を考えているのかわからない奴だったな)
共に通っていた学園では、やたらとクラエルに絡んできて、些細なことで怒鳴ってきた。
相性が悪いんだと距離を取ろうとすれば、何故かエリカの方から近づいてくる。
一緒にいると怒ったり照れたり混乱したり、顔を赤に青にと百面相。
何を考えているのかわからない女……それがクラエルにとってのエリカという女性だった。
(まあ、悪い奴じゃないんだけどな……課題で困ってるときには助けてくれたし。その後でスイーツとか奢らされたけど)
「……何よ、人の顔をジッと見たりして」
「いや、別に」
クラエルは肩をすくめて、森に出かける準備を整えるべく自室に戻るのであった。
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