第3話 デートクラブと言う名の籠の鳥
ここ連れてこられてから、半年が過ぎた。
自由を求めて来たニューヨークなのにまた、カゴの鳥になってしまった。
リコが住まわされた部屋は、元はホテルだった。
バストイレ付きの豪華なホテルの作りで、一人一部屋を与えられている。
台所は一階に有り、食堂の隣だ。
食事は中東生まれのカマルと言う名前の中年の女がメイドとして働いていて、頼めば軽食も作ってくれる。
英語はしゃべれないが、テイクアウトの食事も買ってきてくれる。
莉子は彼女が作るファラレルサンドとフムスが大好きだ。
温和で気が利き綺麗好きなので、部屋の掃除も丁寧にやってくれているのでとても快適だ。
ここでの暮らしは宮殿より楽だった。
公務の強制もなく、昼間は外出も自由にできる。
但し、二キロの行動範囲を超えるとGPSが作動して大音量がでる。
数分後には迎えが来て連れ戻されると聞いたが、それを経験した者はまだ一人もいない。
それにこのクラブに来る顧客は、皆大金持ちでほとんどが紳士だ。
映画俳優や舞台俳優も、それに投資家に政治家など世界中のセレブが集まってくる。
働いている女性も、女優やモデル、ダンサーなどが多くて皆美しい。
彼女たちがここにいる理由は、経済的な安定と仕事のコネクションを見つけることだ。
映画やテレビプロデューサーも来ることもあり、彼女たちは役を欲しさにここで人脈を作る。
役を得た者は、知らないうちにここを去っていく。
モデルはお金を得るためにここで働く。
パリコレクションのオーディションに行くための費用や滞在費は自前だから、駆け出しのモデルには大変な負担になる。
ここでは高価な収入を得ることが簡単にできるが、その分審査も厳しい。
紹介者がいないと働けないが、女の子同士の紹介であれば比較的に楽に働ことが可能だ。
容姿はもちろん、知性と教養に口が硬いことも契約の際に求められる。
ここで働く大まかな規則は、期間が限定で最長で二年間、住み込みが決まりで友人や家族には言わない事。
部屋には客以外は、誰も入れてはいけない。
この場所での面会は禁止、住所も教えないこと。
ここ以外で、客と会うことはできない。
仕事のオーディションの時は、許可を得たスタッフがマネージャーとして立ち会うことになっている。
携帯電話は持ち込むことも、使うこともできない。
最もここには番地はなく、地図では空き地になっている。
規則のせいか入れ替わりが早くて、リコがきてから半年になるが、半分が知らない顔になった。
リコがここにきたのは、レイに連れてこられたからだ。
失業をしたリコは、私設美術館のオーナーに合わせると言ってここに連れてきた。
オーナーと言われる人と雑談をしているうちに、レイはいなくなった。
マンションに帰るとも抜けの空で、洋服や靴も全てなくなっていた。
ホテルに泊まることも考えていたら、ここのクラブのマネジャーが迎えに来たので戻ることにした。
そのうちにレイが反省して、迎えに来てくれる。
そう思いながら、半年が過ぎた。
最初は裏切られたとショックを受けたが、いつかは来ることだともわかっていた。
ずいぶん前から、別れようと何回も言われていた。
レイとの関係は、ニューヨークにきて半年で終わってしまった。
契約婚で、入籍はしていない。
利用したつもりが、いつの間にか利用された。
愛情なんて元々なかった。
有ったのは寂しい心を、身体で温め合うことだけだった。
リコはセックス依存症だった。
王室を離れるために、一般人の母方の祖父の養女となりパスポートを得た。
契約は経済が安定する二年までで、その後は別れようと約束をしていた。
予定より少し早くなったが、レイの仕事が決まり恋人もできたので早まった。
リコにも恋人もできたが、単なる遊びだったので三ヶ月で別れた。
男は元プリンセスとの関係を持ち、周りに自慢したかっただけたった。
レイは、若くてかわいい年下の恋人と暮らすと言っていた。
これで二人の関係は、終わりになった。
その頃から、リコは美術館の職場を無断欠勤することが増えた。
リコは出勤しては、癇癪を起こし周りから煙たがられていた。
たまりかねた上司は、暫くカウンセリングに行くように勧められた。
治るまでは、職場に復職しないようにとも言われた
リコは宮殿でも度々癇癪を起こしたが、単なる我が儘で誰も病気とは思わなかった。
以前母国で勤めていた職場では、週三回の勤務で周りが気を使って楽な仕事を用意してくれていたので、癇癪を起こすことは全くなかった。
しかし、ニューヨークではリコは王女ではなく普通の一般人だ。
我儘を言っても、許されることはなかった。
日常会話程度の英語では、専門的な美術用語は理解しにくかった。
そのことが原因で、職場でのリコはますます孤立してしまう。
リコは癇癪が原因で紹介者にも迷惑をかけてしまい、このことがビザの延期を難しくさせた。
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