第15話


 観客席にいるアイツを見た。


 金魚のフンどもと楽しそうに談笑してやがる。


 私と目が合うや否や、ニヤッと口角を上げやがった。


 …やっぱりな


 まさか、そんなバカな真似はさすがにしないだろうと思ったが、とんだクソ野郎がこの学園にいたもんだ。



 上等じゃん。




 1つ1つが別の人格を持ったように動いてくる。


 レザックが1人でやってるんだったら思わず感心するところだが、そうじゃないとわかった以上、こっちも容赦はしない。


 フィールドのど真ん中に降り立つ。


 それに合わせて全方位から金属の粒子が向かってくる。



 いいぜ。


 来るなら来いよ。


 そっちが向かってくるなら、逆に“吸い寄せてやるだけだ”。



 無重力空間ではない“逆の空間”。


 “超重力空間”って知ってるか?


 私が名付けたんだが、今日は特別だ。


 出力を最大まで引き上げてやる。




 ドッ




 「空間」が歪む。


 超重力(スーパーグラビティ)の能力を持つ水崎葵(みずさきあおい)が発動した「断空」は、地面へと垂直に落ちる重力を最大限に引き延ばした。


 彼女に向かって降り注いだ金属の粒子は、見えない壁に遮られたように地面へと滑り落ちる。


 ガラスの上を伝っていく水のようだった。


 緩やかな曲線に逸れていく、落下軌道は。


 最初の攻防ですでに地面は平らな形を失っていたが、それでも、2人が立って戦える水平な領域は部分部分で残されていた。


 葵は僅かに残ったその表面に立ち、全ての粒子が地面へと落ち切るまで出力を高め続けた。


 彼女の立つ周りで、押しつぶされていく空間。


 ドーナツ状に凹んでいく地面の内側で、レザックは身動きが取れなくなっていた。


 「断空」の効果範囲は無重力空間よりもさらに狭い。


 けれども、レザックが分裂させた粒子がある1点に集まる瞬間を狙って、彼女は磁場が集中する範囲を予測しようとした。


 力の働く「方向」と「大きさ」。


 磁場を利用して向かってくるその物理的な範囲を限定し、分裂体を集約させる。


 彼女の狙いは見事にはまった。


 断空の効果範囲内に収まったレザックの体は、ドーナツの形をなぞるように「一カ所」にまとまってしまっていた。


 

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