第130話 筋肉終末論

 かつて、ビ◯ーという名のマッチョがいた。


 彼はこの国にブートキャンプという概念を持ち込んだ第一人者だ。

 いや、敬意を払って、ブートキャンプ界のファーストマッチョと呼ぶべきか。


 彼によってこの国の民は、スリムボディを手に入れたという。

 彼の提唱したブートキャンプはあくまでエクササイズだったのだ。


 しかし、その考えを更に発展させようとした河童がいた。

 いや、素直に二匹目のドジョウを狙ったと言うべきだろう。


 信濃マッソーは筋肉で、この国を変えようとした。

 だが、現実はそう上手くは行かない。


 個人で作った怪しげなビデオの出来は酷いもので、作られた百本近くがそのままそっくり在庫として積まれた。


 いつだったか、そのことをマッソーに言ったことがある。

 きっとその時は、マッソーにムカついていたのだろう。


 それこそ傷口をえぐるつもりで言ったはずだ。


「HAっ、HA~! それもいい思い出SA!」

 マッソーは笑ってカパカパと言った。


 間違いなくマッソーにとっての黒歴史のはずだった。

 俺は拍子抜けしつつ、己の器の小ささを呪った。


 だが、話はそれだけでは終わらない。


 マッソーズブートキャンプには恐ろしい効果があったのだ。

 見たものを強制的にマッチョに変えてしまうという呪いの力だ。


 被害者は語る。


「気がつくと体が動いていたんだ、YOH! そして、気がついたらマッチョになってたんだ、YOH!」


 もちろん、被害者はマッチョなので証言の真偽は定かではない。

 いや、そもそもまともに会話ができない。


 ただ、被害者を知る人物は皆、あの人があんなことになるなんてと言い、うなだれ、涙を流したという。


 早い段階でOΚオカッパ会が被害に気づき、カッパワージムの片隅で山積みにされていたビデオテープの在庫を回収した。

 しかし、わずかながらすでに出回ってしまったビデオもある。


 そのビデオは今も密かに、マッチョの手から何も知らない被害者の、いや未来のマッチョの手へと渡っている。


 この国はいつか筋肉に覆われる運命にあるのだ。

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