第131話 卒業式
あれから数日。
母上を伴って出席した卒業式。
だが正直これなら出なくてよかったかも、と思える空気になっていた。
前回の社交パーティーの時までは僕の立ち位置が学生まで話が回っていなかったらしく割と普通だったが、功績やら国での立ち位置をはっきり理解したお馬鹿な面々がとうとう僕らを恐れ始めたらしく、とても冷え切った空気となってしまっていた。
いや、気付くの遅すぎるだろ……
しかし、ある程度上品なAクラスの人たちは元々変な目を向けない人も多かったのでリーエルが中心ではあるが、ある程度会話もできた。
とはいえ他が皆俯いて無言だったので逆にAクラスの人たちに申し訳なかった。
祝いの席だというのに。
その上、陛下まで来て僕を壇上に呼び感謝の言葉まで与えたものだから余計だった。
別に相手にするのはミリアリア嬢にだけでよかったのに。
陛下だってそっちが気になって出席した癖に……
まだ若干娘のように扱っている様に見える時があるが、それでもリーエル情報ではかなり大切にされているみたいだからな。
このクソ忙しい時に無理して時間を作ってお忍びデートにまで行っていたそうだ。
ミリアリア嬢はいつもの仕返しだと言わんばかりに滅茶苦茶惚気たらしい。
その話をしているリーエルはとても嬉しそうだったが。
そんな話をしている最中も講師からの祝いの言葉が続く。
やはり卒業生主席のスピーチはミリアリア嬢だった。
無難に綺麗な言葉で纏め拍手が起こる。
そして最後の校長の言葉を〆に皆の元に卒業の証書が配られた。
ここからは自由行動となるらしい。
思い出作りに自由に言葉を交わし、気分次第で流れ解散でいいと言う。
さて、どうしたものか。
Aクラスの子たちとはリーエルと式の開始前に言葉を交わしているし、他の面々が来ることは無いだろう。
そう思っていたのだが、バトア伯が子息を連れてうちのテーブルに挨拶に来た。
そう。あのアストランテ殿下の側近候補だった名も知らぬ伯爵令息君だ。
父親であるバトア伯が僕をかなり持ち上げ、どこまでも上位者と認める物言いをしているからか彼は終始下を向いていて挨拶の言葉以外話さなかったが。
それを見せて子息に己の立ち位置を理解させようとしているのかなと思いながらも、友好的に言葉を交わし、バトア伯とはいい感じの交流となった。
その後、僕は「ちょっと行ってくる」と断りを入れ一人サイレス家のテーブルに赴いた。
ちなみにミリアリア嬢は居ない。
今も陛下にべったりだ。幸せそうで何よりである。
そんな中、僕はディクス君と真剣に向き合い、誠心誠意お願いをする。
「ディクス殿、無理だとは思う。わかっている……」
と、悲痛な面持ちで彼を見詰める。
「えっ……ど、どうされたのです?」と困惑している彼に「言わせてくれ……」とそのまま言葉を続けた。
「もしエメリアーナが暴走した時は頼むっ!!
無理だとわかってはいるが頼む! 無理なら無理なりに頼む!
無理をしろとは言わないから! 死なない程度に無理してくれないか!?」
支離滅裂になりながらも彼を死地に送るくらいなつもりでそう伝えれば、侯爵夫人が笑いを堪えているなかディクス君は「ち……小さく声をかける程度なら」と限りなく柔らかく包んだお断りの言葉を口にした。
その声にサイレス候が「止めるくらいはできるであろうが」とジト目をディクス君に向ける。
なので僕はサイレス候の肩にそっと手を置き「よいのです。無理を言っているのはわかっておりました」とゆっくりと首を横に振れば夫人が耐え切れなくなったのかアハハと声を出して爆笑した。
その所為か向けられた視線に寄って来たエメリアーナが何があったのかを知りたがり、一番弱い立場にあるディクス君が標的となり締め上げられた。
「どうせリヒトが変な事を言ってたんでしょ! 何があったのか聞かせなさいっ!!」と。
義兄上が居ないから暇だったのだろう。
監督者が居ない所為かいつも通りの彼女で無駄に元気一杯である。
いつもなら暇になればエメリアーナから義兄上にちょっかいを出して二人でもじもじやっているのだが、今日はそれが無いことを失念していた。
当然、彼は言うしかなくなり彼女は久しぶりに目を尖らせて僕を追ってくる。
ああ、こうなることの予測は付いていた。
だからもう強化も準備してある。万全の態勢だ。
なので僕は瞬時に全力で強化を使いテーブルを倒さぬよう全ての攻撃を避けつつ外に誘導した。
お外で必死に「お前の為だろ!」と弁解の声を上げていると、リーエルと母上が直ぐに来てくれてエメリアーナを止めてくれたので事なきを得た。
それを見たサイレス候も理解した様だ。
エメリアーナはどんな場であろうともこういう事ができてしまう存在だと。
ディクス君に生きろと言いたげな視線を向けていた。
そんな喜劇みたいな状況を会場内に見せつけた為か、空気が漸く明るくなってきた。
今は、少しくらい羽目を外しても許される場なんだ、とお馬鹿連中が騒ぎ出したからである。
そこからは何故か母上までサイレス家にお邪魔し、奥様同士で盛り上がり、リーエルもそこに参加すればリーエルの所に他の子たちも寄ってきて、立ったまま話す者が多く居るほどにサイレス家のテーブルに女子生徒が集まった。
女の子が多くてちょっと肩身が狭いなと思いつつも僕らは男三人で話していればこちらにも来客が来た。
「サイレス家の方々にご挨拶を申し上げに参りました。ラキュロス公爵家嫡男、テオドールと申します」と、少年が頭を下げる。
彼は卒業生ではないのでラキュロス公爵家の方々は来ていない。
彼とは久々の対面だが、僕の家のテーブルに来たわけじゃないのでサイレス候の言葉を待つ。
「おお、よく来てくれた。丁度女性ばかりで肩身が狭いと思っておったのだ。座ってくれ」
と、男に挟まれているが故に空いていた一つの席を勧め、彼は席に着く。
「久しぶりだね。わかるかな?」と、昔会ったきりなのでテオ君に声をかけた。
「ええ! お久しぶりです、リヒトさん!
早く会ってご活躍をお聞きしたい思っていたんです!」
と、ワクワクした様な瞳を向けるテオ君。
「うん。それは勿論構わないよ。
でもそれよりも先に義妹たちを紹介させて貰ってもいいかな……?」
と、ルシータと同学年の彼と面識を持って貰えれば、そう思っていたのだが「あっ、ルシータ嬢とエメリアーナ様、ですよね?」と、彼は言う。
「あっ、そうか。もう通っているのだから知ってるか……」
「はい。ルシータ嬢とは同じクラスですからお話をさせて貰いました。
流石に異性ですので頻繁にという訳ではありませんが」
と言ってもエメリアーナは騎士団に掛かり切りで通っていないし、ルシータは通い始めたばかりなのだけど、それでも挨拶を交わしてくれていたようだ。
エメリアーナは己の身は己で守るだろうし、ルシータと知己になっているならそれでいいか。
「ああ。交流を持ってくれただけで十分だよ。
お互い婚約者の事も考えなければいけないだろうし」
そう告げればお互いと言った事でルシータの婚約者の事に興味を示した彼。
そんな彼に「お相手はハイネル伯だよ」と告げれば大層驚いていた。
「うわぁ、ハイネル先輩かぁ……ああ、でもお似合いな気がします」
その声にディクス君も驚きの声を上げた。
「そ、それは知りませんでした! ハイネル伯とルシータ嬢が、ですか……」
「む、ハインフィード家はハイネル家と繋がったのか……
できればこちらとも交流を持って貰いたいものだが……流石に難しいか?」
と、サイレス候は悩む。
前軍務卿を任されていた家で未だ武門では一流の家。
確かに仲良くやれるならそれに越したことは無い。
軍務卿の座の交代と同時にハイネル家の当主が粛清されたという経緯があるから普通は無理だと考えるが、ブレイブ君の人柄を見て、もしかしたらという想いが湧いたのだろう。
まあブレイブ君がどう思っていても家の中を纏め続けるには多少は家内の者の意も組む必要があるからどうなるかはわからないのだけど。
「どうでしょう。
でも当人とは確執はないのですし、明け透けに聞いてしまいませんか?」
「問うても拗れぬのならお願いしたいが……」
と、うちのテーブルでルシータと戯れているハイネル伯を呼んで貰って聞いてみれば彼は二つ返事で「願っても無いことです!」と喜んだ様を見せた。
「家の中は大丈夫?」と、一応念の為に聞いてみると「ええ、おかしな連中はみな粛清されましたから」といい笑顔を見せる。
逆に軍務卿云々よりも、国から完全に見放され行く場所も無くなるのではと怯えていた者たちばかりなのだと言う。
その後、家がはっきり残る事になり、戦争での活躍やうちへの派閥入りなどで家の中は纏まっているそうだ。
その声にサイレス候も安堵した様子で二人は暫く仕事の話を続けていた。
僕はテオ君やディクス君に二人の話のわからないところなどを質問されてそれに応える時間が続いた。
その話が落ち付いてきたので何となく気になっていた疑問を投げてみた。
「ハイネル家が正常に建て直せたのはとても目出度いことだけど、他の家々は問題無く回っているのかな……」
「どうでしょう。アスファルド家の周りは未だにあまり良い話を聞きませんね」
「あぁ、ソレナリー家か」とサイレス候が口にするとハイネル伯が「はい」と頷く。
「ソレナリーと言えば確かコイン子爵の寄り親だったね。
彼は無理に家を割って出て行ったと言っていたし、確かに荒れてそうだなぁ」
「ええ。ルドレール戦で大失態をしていますから。かなり浮いている状態でしょう」
あぁ……一番槍を任せたのに何もせずに折り返し、結局その後もルドレール王都では戦いそのものが無かったからな。
王都内の鎮圧関係も功を与えたい貴族に任せると言っていたからあそこに頼むはずがない。
要するに、何もできずに終わったのだろう。
初戦での戦果があるとはいえ大失態で帳消しにされるだろう。
そうなると残ったのは自ら一番槍を、と名乗り出ておいて逃げ出したという悪評のみ。
ふーん……悪評はあるが野放しになっている者たち、か。
なかなか面白い話だね。
グランデに連なる派閥も順調に膨らんできているところだが、居るだけで圧を与える為には、最初はわかり易く見せる必要がある。
まあコイン子爵があれから悪事を働いていなければ何もできないのだけど、恐らくはあの野心の見せ方だ。何かしらやっているだろう。
その度合いによっては派手にやれるな。
まあ戦争ではないので無理に殺す必要も無い。
そもそも野盗の様に見えても騎士団だ。そこまでの悪事を働いていない可能性もある。
だが多少でも戦いになり、牢屋にぶち込めればいくらでも吹聴できる。
そんな状況下に持っていければ悪いことをしている奴らに畏怖を与えることは容易だ。
その後は僕を警戒した様を見せた貴族にさりげなく諜報の兵を向かわせれば国内の管理は割と容易になるだろう。
「ソレナリー家か。現当主が社交に出てきてるかは知ってる?」
と、ハイネル伯に視線を向けたが、サイレス候から声が返る。
「ああ、知っとるぞ。どうにか味方を作れないかと動き回っている様だ。
私も戦力集めの過程で少々調べたが、夜会でも傍から見るだけでわかるほど困っている様を見せていた。
コイン子爵を戦場に引っ張り出す為にも触れずにはいたが、若すぎる所為か顔に出過ぎていて相手にもされておらんかったな。まあ若すぎると言ってもリヒト殿の一つ上だが……」
なるほど。
じゃあ、ちょっとお話聞きに行っちゃおうかなぁ。
リーエルと二人で公務とは関係の無い貴族家主催の夜会に出るのもまた一興だし。
お互い良い経験にもなるしいいだろう。
僕はグランデ主催かお国主催の公務にしか出た事が無いからな……
そうして話していると女性陣の方からわぁっと声が響き耳を傾けた。
「エメリアーナ様はフレシュリアの王子様とご婚約されたのですか!?」
「エ、エルネストはうちに入るんだからもう王子じゃないわよ!?」
と、真っ赤な顔で否定するエメリアーナ。
その顔を見て女性たちがきゃっきゃ騒いでいる。
ああ、そういえばまだ二人はお披露目もやってないのか。
「ハインフィード家の家督を継ぎ元王子様まで……凄いですわぁぁ」
「あれ、でもハインフィード家にはグランデさんも婿入りするのよね?」
「お二人が浮いた状態になる筈もありませんし、ハインフィードさんはどうされますの?」
などと、二人は質問攻めにあっていた。
その後リーエルが「ええと、グランデ公爵家に嫁入りすることになりまして……」と照れながらも後々公爵夫人になることを言外に告げると「きゃぁぁ」と再び黄色い声が響き、玉の輿先生と名付けられ秘訣を教えてくださいと詰め寄られていた。
いや、秘訣を聞いてどうするの。
キミらほぼほぼ婚約者居るよね……
それに玉の輿って言うけど家格的におかしな婚約ではないからね?
そうは思うものの口は出さず嵐が静まるのを待った。
今あそこに巻き込まれては言動の嵐で身動きが取れなくなる、と。
そう考え身を潜めていたのだが、何もせずとも嵐はこちらにやってきた。
エメリアーナが「リヒトが勝手に婚約相手として連れてきただけなんだから!」と照れ隠しで言ってしまったからだ。
その名目で連れて来たわけじゃないのに……
彼女の言葉で肉食獣の様に瞳を光らせた女子生徒たちの視線がこちらに向く。
「グランデ様!! 周りに良き人がいらっしゃいましたら、是非わたくしにも!」
「貴方には婚約者が居るでしょう!? あの、今わたくし隣が空いてしまっておりますの!!」
いや、空いてたからって僕が相手を用意するなんておかしいだろ。
そう思うが分裂するかのように女子生徒が祈る様に手を組んで僕の周りを囲んでいく。
ああ、粛清の煽りを受けて隣が空いてしまった人が多いのか……
あっ、しまった!
そんな事を考えていたら囲まれてしまった……
こうなってしまっては簡単には抜け出せない。
とりあえずスルーする為の言葉を投げかけないと。
間髪入れずに脱出路も作らねば。
「すまないね。エルネスト殿もハイネル伯も大切な義妹の為と無理して探し出したんだ。
もう僕の手札はすっからかんさ」
「「「そんなぁ~」」」と切なそうにこちらを見る女の子たち。
これ以上隙を与えてはいけない、とリーエルを呼び「もういい時間だ。戻ってしなければいけないこともある。そろそろ失礼しよう」と声をかけ、大儀と共に彼女を隣に置くことで道が形成される。
その瞬間、サイレス家の方々やテオ君、ブレイブ君も颯爽と立ち上がった。
乗るしかない、このビックウェーブに、と。
皆、当主や高位貴族令息。
わかっているのだ。この話で捕まると長い、と。
あれっ、そういえばミリアリア嬢は、と思ったがもう既に居なかった。
陛下と共にお城に戻ったのだろう。
最初に挨拶はしているものの、リーエルにも一度も寄ってこないくらいにはお熱らしい。
そうして僕らはなんだかんだ言って卒業パーティーというものを満喫し、各々帰路についたのであった。
その後、リーエルと二人で直ぐにソレナリー家の事を調べ上げた。
粛清されたのはどの立場の人間までか、とか現状がどうなっているのかとかを推測を交えつつ書類を漁っていく。
どうやらソレナリー本家は娘以外は全滅だった。
アスファルド候に重用されていた家だけあってそういう仕事が全部回ってきていたらしく、秘密が守れそうで近しく仕事が頼めそうな者は全員使っていたのだろう。
分家から何からかなりの人数が粛清されていた。
その残された彼女は僕の一つ上らしく、卒業して婚約者といざ結婚というところで破棄され当主となったそうだ。
「ここから先は当人に聞いた方が良さそうだね。話次第ではその後の裏取りもするけど……」
「こうして見てみると流石に同情してしまいますね……
お家からの命令では誰もが強制だったでしょうに」
と、僕らは陛下が粛清に迷いを見せていた理由を遅ればせながら知った。
考えてみれば親玉が悪なのは当然としても、下に仕える者たちまでもが悪かなんてわからないもの。染まらず苦心しながらも行うしかなかった者も居ただろう。
先ほどリーエルが言っていた通り、当主命令は強制なのだ。
当主であっても派閥のトップからの要請は簡単には断れない。
弱みを握られていれば直臣の当主であってももう強制と変わらない。
そうしたことを理解すれば、奥の奥まで調査してからじゃないと手を出しずらいのは当然。
遅いと思っていたが時間をかけて然るべきことだった、と僕自身考え直させられた。
そんな面持ちになりながらも、丁度来ていたソレナリー家主催のパーティーに出席する旨の返事を出した。
まあ丁度良く、というか追い込まれていて出せる所全てに出しているからなのだろうが。
さて、ソレナリー家の当主はどんな人だろうね……
そんな事を話し合いながらもリーエルと戯れて過ごした。
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