第129話 手を出していいなら簡単な話だ
さて、どうしたものかね……
と、僕は乱戦の中、強化を二段階目まで使いつつ適当に敵兵を叩き飛ばしていく。
そう。前回の戦争で使い勝手がよく感じた切るのではなく剣を鞘に納めたまま硬化して叩き飛ばす方法にて戦っていた。
とうとう僕は大国の精鋭に囲まれようと何の危険を感じないレベルにまでなってしまった様だ。
とはいえ、乱戦でこの人数。
一人じゃ焼け石に水だ。
ん~、さてどうするか。
あぁ……引っ付かれているのを引き離せばいいだけだったな。
そう思って僕は拡声魔法を起動させた。
『リヒト・グランデが命ずる!
指揮隊、一から五までの旗を立て、五の笛を鳴らせ!
兵士諸君、これより敵軍に大打撃を与える! 迅速な行動を願うっ!!』
まあ、ここまで声を響かせれば旗を立てずともうちの兵士たちは皆わかってるんだけど、最初から全軍が引くとわからせてしまったら敵軍は引っ付いてくるだろう。
だから警戒させる為に兵士と共に何かするかのように匂わせた。
さて、こっちも準備しますかね。
と、うちの兵士たちがどのラインまで食い込んでいるかをしっかりと確認し、境界に魔力を敷いていく。
そうしていれば直ぐに笛の音が響き、兵が動き出す。
流石に割と奥に食い込んでいた部隊は完全には引き離せていないが、敵軍全てを入れられなくても構わない、とそのままアースウォールの巨大な壁にて自軍と敵軍を隔てた。
そのままその向こう側に魔素を散らす魔法を放ったあとファイアーストームにて殲滅する。
そうして魔法を解けば手前に残った敵とアースウォールの上に乗ってしまった敵以外は全て殲滅できた。
やはり手を出していいなら簡単な話だった。
『勝敗は決した。降伏せよ』
突如無くなったアースウォールから敵兵が落ちてくる中、そう告げれば敵兵は後ろを見た後、大半が武器を投げ出して手を上げたので僕はそのまま踵を返す。
すると、すぐ後ろにはエメリアーナやルンたちが居た。
「終わったよ」
「……あんた、どんどん人外になっていくわね」
エメリアーナにそう言われ「はは、確かにもう否定はできないな……」と自然と声を漏らしながらも本陣の方へと歩を進めると、何やらルンが微妙な空気を放っていた。
怒っているのか落ち込んでいるのかわからない、微妙な表情。
「どうした。まだ怒ってるのか?」と、ルンに声をかければ彼女は首を横に振る。
「いえ、これから研鑽を積んだとて私に貴方様をお守りできるほどの力を得ることができるのでしょうか、と不安になりまして……」
ルンがそう言うとヘーゲルやカレンたちも視線を落とした。
「あのなぁ……僕より強くなる必要なんてないんだぞ。
僕を狙ってくる奴らよりも強くなればいいだけだ。
それも簡単な事ではないだろうが、優秀なお前たちなら可能だろ?」
その声に『――――っ!』と皆、目を見開いて顕著な反応を見せた。
「そう言われてみれば、そうでしたね……それならばまだ」とヘーゲルが苦笑する。
と、そのまま話していれば後方の敵の方に総大将やらの指揮官クラスが集まっていて結構な強敵だったらしい。
スルーダですら蹴散らせなかったと聞き、僕は冷や汗を掻いた。
「待て待て。スルーダでも勝てないってそんなに強かったのか!?」
「ちょっと待ってくれ若旦那! 二体一でも余裕をもって相手できてたからな!? お嬢たちを気遣わなけりゃ普通にやれてたっての!!」
そうじゃない。
ハインフィード騎士団の中でも強い方であるスルーダが二段階強化を使っても蹴散らせないというだけでもう驚異的な強さなのだ。
「いやいや、それでもたった二人だけでスルーダを止められることが異常なんだって!
しかしそうか。なら念の為にもう少し本気で潰した方がいいのか……?」
そう呟くと「いえ、その必要はないかと……」との声が聴こえ、視線を向ければ何故かアスカ王女の御付きの人が居た。
全身鎧を身にまとっているので雰囲気はかなり違うが間違いなく同一人物だ。
ああ、義勇兵って彼女たちのことか。
マテイ王たちと合流して手が空いた分をこっちに回してくれたのか。
そんな彼女たちに参戦を感謝し恩賞を約束すると告げたのだが、どうやら今回は名を伏せて僕の所から参戦した義勇兵として欲しいとのこと。
アスカ王女を救ってくれた恩返しと考えて頂ければ、と彼女たちは言う。
ウルズの兵から聞いた話によると町の防衛にも大きく貢献してくれたと言っていた。
彼女たちが力を見せ、ハイネル伯が参戦したところで敵が意気消沈し撤退を決めたのだとか。
こういうところはとても有り難いんだけど……
先日の振る舞いがある所為でアスカ王女には素直に感謝できないんだよなぁ。
そう思いながらも、彼女に何故必要無いのかを問うた。
「いえ、後方に居たのはハーケン最強の騎士アレン・ガーランドでしたから。
カーラ・クリシュナ―も三本の指には入ると言われている騎士です。
先の戦いで第二と第四の総長も失ったと聞きます。
こうなってはもうハーケンに抗う術は無いでしょう」
ふむ……そういうことであれば焦って攻め上がらずともいいか。
本当に余力が無いのかはここからハーケンが動かす兵力を見ていればすぐにわかる。
余裕が無いのであれば魔石で追い詰められている今、外交を行えばもうあっちは全面的に折れるしかなくなる。
経済的に凹まされ続ければどちらにしてもジリ貧。ここで押し返せなければ負け確定なのだ。
ハーケンには前科があるので次手を出したら滅亡までやらせて貰うくらいに言わせて貰おう。
まあそれもこれも陛下と総大将閣下の判断次第か……
本当にやる事になってしまったらそれはそれで問題もあるしな。
頭の中でこれからの事を纏めつつも歩いていき、ある程度本陣に近くなるとブレイブ君も近づいてきた。
そのまま手を上げて合流して総大将であるサイレス候の所へと行き、軽く挨拶をし直せばお褒めの言葉を貰った。
そうして後方の話なども軽く聞いているとハイネル伯の方に話がいく。
「ハイネル伯も助かったぞ。伯が居なかったらウルズは危なかったと聞いた」
「お力になれたなら来た甲斐がありました。
まあリヒト様がこのタイミングで着いていたのですから、どちらにしても勝利は揺るがなかったでしょうが」
「で、あろうな……して、リヒト殿はこれより先どうするべきだと考える」
と、サイレス候はこちらに向きなおり佇まいを正す。
「そうですね。ハーケンが派手に動かぬ限り暫くここに兵を置いておくだけで十分かと」
「ふむ。元々の予定ではいくつか町を取ると言っておらんかったか?」
「ええ。ですが想定よりも侵攻が激しく殲滅がなってしまいましたので。
これでもう名実共に帝国が覇権国となり世界最大規模の同盟と周知されましょう?」
「ああ、その証明の為にいくつか落とせればと言っていたのか。賠償で吹っ掛ける為かと思っておったわ」
「ふふふ、それは完全に敵わぬとわからせた今、如何様にもなりましょう。
要求を通さなければ停戦には応じぬ、とこちらが言える立場に変わったわけですから」
と、悪い顔で言えば若干恐れ戦いた表情を向けられた。
あら、義兄上なら悪い顔で返してくれるのだが……
ほう、それは面白そうだ、と。
「確かにうちだけでハーケンを御せるならもう既に同盟の方も最大規模と考えられるな。
ここまで派手にやればハーケン国内でもその事実を受け入れざるを得んか。
戦わずとも戦後賠償で搾り取れるならばその方が楽だな……」
うん。ここがある意味での大きな分水嶺と言えるライン。
これ以上は各国が帝国の世界征服を恐れる。
そう。ただの覇権国というレベルではないのだ。帝国がその気にならばいつでも世界征服をできてしまう、と見られてしまう。
それでは帝国はどんな約束すらひっくり返せる状態だ、という懸念が生まれる。
そうなればどうにかして身を守ろうと対抗勢力ができ、急速に膨らんでいくだろう。
当然ハーケンはそっち側だろうし、規模としてなかなかのものになってしまう。
こちらも大義も無しに攻勢には出れないので勝てるかどうかは関係なくに膨らんでいくのを見守る他にない。
それもまた世界の形の一つだが、対抗勢力となら戦争を起こせてしまう状況を作るくらいならこちらの同盟に引き込めた方がいい。
なので一番良いのはこの状態で止め、言う事を聞かなければ殴りつけてでもハーケンに謝罪賠償を行わせ無理やり同盟に引き入れるくらいが丁度良い。
一度引き入れてしまえばもう戦争は起こせないのだから。
同盟で認められた大義も無しに勝手に戦争を起こした国は皆で攻め落として領土を分け合いましょう、そんな約定を結んだ同盟だからだ。
勿論、一領地が勝手に起こしたような小規模な戦いはそれに含まれないなど、余裕を持たせる部分も作ってあるが、それでも簡単には面倒ごとを起こせない。
他国を勝手に攻める領地があっても約定違反を恐れた自国に全力で潰されるだろうからな。
それに国が奪えないとわかっていればうちが仕掛けられたようなお城への攻撃とかもする意味も無くなる。
そうした理由からこの同盟は力ない国ほど魅力的なもの。
ハーケンさえ押さえ込めれば、もう誘いに嫌だと言う国はそうでない筈だ。
「しかし盟主で覇権国か。
これからも同盟の輪が広がる可能性が高いと考えると、とんでもないことだな」
と、サイレス候は半笑いで宙を見る。
「そうですね。後は多少自国を掃除すれば僕もゆっくりできそうです」
「む……リヒト殿のゆっくりがどの程度かはわからんが、どう考えても暇にはならんと思うぞ」
と、気を使いながらも『それは無理じゃないか』と包みながら言うサイレス候。
うん……僕も薄々そんな気はしていた。
グランデに戻れば断れない客もちらほら来るようになるだろうし、領地に居るのに政務関係を全てゼムに丸投げなんて訳にもいかない。
何かあれば国にも呼び出されるだろうし、公務も全部参加しろと言われるだろう。
けど、よくよく考えてみれば僕とリーエルは能力的に考えても何処へでも一緒に行けるのだ。
そう考えるともう別に仕事をしながらでもいいかな、って気はしてる。
「何にせよ、ここでの戦いは終わりましたから。ウルズに戻って兵を休ませてあげましょうか」
捕虜の拘束も終わったみたいだし、もう終結した軍は完全に壊滅している。
ここで布陣を整え続ける必要もない、とサイレス候に声をかける。
「そうだな。リヒト殿は睨みをきかせたいようだが、兵は全軍残すくらいの方がよいのか?」
うーん、ここまできちゃえば全軍は要らないよな。
かと言って戻しすぎても危機感を煽れないか……
「いえ、半数も居れば十分かと。
カタースカにまだ敵兵が居るならまだしも、再び終結させるなら準備時間がありますからね」
と、返せばハイネル伯が「仮に何かあってもリヒト殿が居ればお一人でも守れそうですものね……」と言う。
「えぇ、流石に一人じゃ嫌だよ……」と苦い顔で返せば「くふっ、無理じゃなくて嫌か。流石は我が義弟よ」と、義兄上も笑う。
「またそんな事を言って僕にばかり押し付けようとして!
聞きましたよ。ハーケン国最強の騎士を打ち取ったんですってね」
そう。リーエルの守りに付いて貰ったルンから簡潔に報告を受けている。
マテイの騎士の話と合わせればこの戦争で義兄上が一番の大物を仕留めたということになる。
「まあ一応間違ってはおらんが……スルーダが弱らせたところをな」
「それでも功は功。実力も見合っているんですし良かったじゃないですか。
その内エメリアーナを連れてフレシュリアにも行くでしょうから義兄上も箔が付いた方が色々と楽しめるでしょう?」
そう問えば義兄上は少し考え込んだ後、また悪い顔でニヤリと笑う。
「確かになぁ……そうかそうか、俺は世界一の大国ハーケンで最強の騎士を打ち取った男、という称号を得た訳か。ふむふむ、これは色々と都合がいい」
「もうっ! また二人で私のわかんない話して! 混ぜなさいよ!」
「エメリアーナ、大丈夫だ。
国に帰っても力を示せるでしょって言ってるだけで僕も詳しくはわかってないから。
ただ、悪いこと考えているんだろうなぁこの人、と思っているだけだよ」
とムッとしていたエメリアーナにそう伝えたが、それでも「私にはちゃんと聞かせてよ!!」と詰め寄られている義兄上。
そんな姿を離れた所から控えめに観察しているリーエル。
なんか少しリーエルが大人しいなと思って話してみれば、失態をしてしまって反省をしていたのだそうだ。
ハインフィード恒例の最終戦を義兄上に任せたつもりだったが、手伝ってくれと声を上げていたことに気付かず援護に入ったアルクス家の二人が傷ついてしまったのだとか。
「なるほどね。ハインフィードの騎士は多少危険があってもより鍛え上げる為に無謀な訓練をさせるところがあるからね。もう少し理に適うやり方をして欲しいとは思うけど……
まあそこはこれから二人が話し合って決めていく問題だ。
戻る頃には完全にエメリアーナが当主の座に就くだろうからね」
「あら、もう日時が決まっていますの?」と、リーエルは首を傾げる。
「明確には言われていないけど、ルドレール戦の方の論功行賞に合わせて発表する筈だよ。じゃないと告知も授与も二度手間になっちゃうからね」
「ふふふ、それは楽しみですね。ご褒美の方はどういう形となるのでしょうか」
「どうだろ……正直、自覚があるくらいにはやり過ぎたからなぁ。異例過ぎて予測が難しいな。
まあこういうのは一度でどこまでもという訳にはいかないからそのつもりでね」
うん。建国からずっと支え続けてきた功とどっちがどれくらい重いんですか、なんて簡単に比べられるものじゃない。
だから金銭や称号関係は派手にやれるが、爵位や領地は規模が大きいほど慎重にならざるをえない。
まあ今、国は金が無いから今回は領地や爵位がメインとなる筈だけど。
ああ、でもまだ併合していないのだからルドレールの枠がないのか。
どう考えても今の段階でそっちを与えるなんて出来ないしなぁ。
他国の領地を予約するなんて訳にもいかないし。
これは面倒だな。
そこを考えてなかった。どうするんだろ……論功行賞を引き延ばすのかな?
いや、文句をつけてくるであろうハーケンにはいくらでもごり押しできるようになったのだから、いつでも併合はできるのか。
そっちを急ぐのかね?
何にせよ漸く戦いは終わった。
異常な強者が居ない限り僕らが出る必要性はもう無い。
というより、これ以上何かあれば逆に国にやって貰う方向でという姿勢を見せた方がいい。
陛下たちのように実際に話し合い互いに策を立ててきた相手なら配慮してくれるだろうが、あまりあれやってこれやってを聞き過ぎると文官たちに勘違いさせるからな。
国防や大義を掲げればいくらでも使っていいんだと。
エスカレートして限度を越えてくるといくら使ってもが、どう使ってもいいに変化する可能性すらある。
ある種の侮りを生む要因にもなるし状況が許すならここからはある程度年齢相応の仕事に切り替えたいものだ。
なんて考えている内に軍としての話し合いは終わりを告げ、僕らは身内で集まりつつもウルズの町への移動を開始する。
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