創られた世界で僕が成すのはライトノベルみたいなファンタジー

@thirdXross

第一章 創られた世界の主人公

第1話 世界の中心で芽生えた想い

主人公。それは、物語を進める上で必要不可欠な存在である。多くの場合、話を回し、舞台を変え、起伏のあるストーリーを読み手に擬似体験させる役目を持つ。

もし、自分という存在が、人の手によって描かれた物語の主人公だと分かったら。

その人がとる選択は、果たして自らが選んだものだと、断言できるのだろうか。


誰かの手によって作り出された存在が、自ら意思を持つようなことがあった場合、きっと、その物語はいずれ破綻するだろう。

作り手の想いと、作られた者の想いは違う。

世界を創った神様と、その世界で生きている生物たちの意思が同じでは無いように。


生きとし生ける人みんなが自分の人生の主人公、だなんてよく言うけれど、そう思いながら生きていける人は多分、そんなに多くない。夢が絶対に叶うようなことも、自分のやりたいことだけをしながら生きている人も、きっと居ないのだから。みんな、どこかで折り合いをつけている。

生きる、とはそういうことの連続だ。

妥協して何が悪いのか。

自分の夢を貫き通せなくても、それは、また新しく目指すものができる機会を得たと考えられるのではないか。


これを逃避だと笑う人も居るだろう。

逃避することは悪くない。逃げた先で、何か得ることができたなら、それは自分を変えることに繋げられるはずだ。

だから、きっと。

目の前のことから、逃げる主人公が居てもいい。

果たすべきことを果たせなかった主人公が居てもいい。

脚本として用意されたものが、望まないものなのであれば、主人公にだってそんな未来を歩む必要なんてない。

僕は、そう思う。



月城叶恵。僕にとって、この名前はとてつもなく大事な人のことを指している。

けれど、そのこと自体を思い出したのはついさっきのことだ。

所謂幼なじみであり、12年前まではよく2人で遊んだりした間柄の女の子だった。僕は彼女が好きだったし、仲良しだと当時は思っていた。

―――――たっくん、大きくなったら結婚しようね。

両思いだったんだと、僕は何だか恥ずかしくて、頷くくらいしかできなったけど。

約束だよ、といって笑う少女の姿は初めて目にした、美しいものだったように思う。

だから、突然居なくなるなんてこと、想像出来るはずもなかったんだ。


事故死、だったらしい。

車と車同士の衝突事故だったらしく、月城家の全員とも、息を引き取ったと。

空っぽになった気がした。

明日もきっと、いつものように遊んで、いつものようにお別れをするものだと、疑うことなんてできやしなかった。

当時5歳だった子供に何ができただろう。

いつもと違ったのは、事故が起きたというその事実だけだ。

偶然起きた、不幸な事故だった。

仲良くしていた好きな人が、ある日突然居なくなった。


それは、子供にとって世界が一変するほどの衝撃だったはずだ。いや、ただ漠然と、もう居ないことを、わけも分からないのに事情を聞かされて、納得するしかない状況だったのだろう。

人の死という意味を理解したのは、もう何年か先のことになる。

その時初めて、僕は彼女がもう二度と現れないことに涙を流したのだ。

そんな、大事なはずの思い出が。

忘れたくても忘れられないような心に刻まれた傷跡が。

僕という人間の中から、さっぱりと、忘れ去られていた。

今、僕はそのこと自体にひどく驚愕していて、自分で自分が信じられないんだけれど。

思い出したその原因について、聞いて欲しい。



ついさっきのことだ。

新学期がはじまり、2年生になった僕の所属するクラスに転校生がやってきた。

始業式から1週間が経ち、徐々にではあるもののクラスメイトのぎこちない感じがほぐれていく中で、その子はやってきた。

男子高校生ならば、10人が見て10人が可愛いと口を漏らすであろうルックスと、歩む姿から想像出来る立ち振る舞いは、教室の誰もから目を奪っていた。

「月城叶恵といいます。みなさん、よろしくお願いいたします」

その名前は、と。

全身がスパークした。雷が落ちたような 衝撃だったようにも思う。顔は麻痺したように硬直し、動悸が止まらなくなっていた。

なんで生きているのか、とか。

同姓同名の別人なのか、とか。

ちょっと面影があるから本人じゃないか、とか。

どうしてここに居るのか、とか。

何が起きているのか、とか。

この一瞬の間に、本来ならばおよそ何日もかかるような脳の処理があった。

分からないことについていちいち考えては答えの出ない、無限ループに苛まれていた。

この時に僕は、自分が大切な幼なじみのことを忘れ去っていたことを思い出したのだ。

誰よりも好きだったはずの相手のことを心の奥に閉じ込めていた。

そしてのうのうと、何を磨くでもなく平々凡々と生きてきた。

どこにでもいるような普通の男子高校生を自負する、一般人として。

こんな過去を持っていて、何がどこにでもいる、だ。おかしいんじゃないのか、と本当についさっきまでの自分自身に毒を吐く。

僕は誰だ、と自分の名前が貼られた机を見る。

逢沢拓人、と記載されていたそれは間違いなく僕の名前だ。

僕は、自分で自分が信じられなかった。

僕の知る自分自身、逢沢拓人は月城叶恵の死を忘れられるような性格じゃなかったはずだ。その人間性は他でもない自分自身だからこそよく知っている。

つもりなだけだったのか?

記憶はある。彼女が突然いなくなった日も、その意味を理解した日のことも。

それがあってなお、なんで僕は普通に生きてこられたのか。理解した日の慟哭は、決して1人では立ち直れないような、とてつもなく深い傷を負ったに等しいものだったはずだ。

それが、綺麗さっぱりとついさっきの自己紹介の瞬間まで意識の外にあった。

まるで意味が分からない。

だけど、1つ確かなことはある。

僕は、逢沢拓人であるということ。

そしてそれは、この場の誰にもできない判断が下せるということになる。


脳裏に焼き付いた少女の笑顔。

ついさっき、目の前で教室中に向いた笑顔。

月城叶恵は2人も居ない。

2つの笑顔が、別人のものだとは、今の僕には到底思えなかった。



こうして、今に至る。

彼女は自己紹介を終えたあと、真ん中あたりの席につくよう担任から指示されていた。

僕はあ行で番号が若い方なため、ちょうど斜め後ろの方向に視線を進めていくと彼女の席にあたる場所となる。

彼女が席に着いたあとは、HRの続き。

体調管理等、環境の変化に注意してとの事だった。

そして授業が始まる前の休み時間。

僕は先程確認したの方向からの視線を感じていた、と思う。おそるおそるそっちを見てみると、案の定彼女が僕を見ていた。

思わず、目が離せなかった。

僅か5秒ほどの、短い時間。目と目が合っていたことに気づいた僕の方からバッと勢いよく目を逸らしてしまった。

でも、それで本当の本当に確信してしまった。

心のどこかでまだ少しだけ残っていた疑念は晴れてしまった。

彼女は間違いなく、叶恵ちゃんだ。

断言してもいい。

彼女に再会できて嬉しいような、びっくりが若干勝っているような感情。

今さっきまで自分が自分じゃなかったことに対する不安や疑心。

相反しているような複雑な心境のまま、授業は始まってしまうのだった。


始まってしまうと時間の経つのは早いもので、ふとすれば昼休みに差しかかる頃だった。まだ内容自体も走り出しの部分のため、難しい箇所も早々なく、ストレスフリーで授業を受けられていると自分では思う。

実際、ストレスになっているのは自分自身のことである。自分が自分じゃないままこれまで過ごしてきた、とそういう自覚。戸惑いを超えて恐怖すらある。

色々考えていても仕方が無いので、とりあえず昼食をと思い弁当を片手に教室の出入口へ向かう。

行先は1年の頃から利用している空きスペース。必然、出入口に向かう際に叶恵ちゃん含めクラスメイトの前を通ることになるのだが、横からの視線はやっぱりあったように思う。

空きスペース、といっても誰も昼休みの間に立ち寄らない場所であることが分かっているため、勝手に僕が使っているだけだったりする。

あえて場所の名前を言うならば、体育館裏口の玄関を指すことになる。

あと一応僕にも、この学校に友人はいる。そいつとご飯を共にする時はこの場所を使っているのだが、別段約束とかしてない時は普段なら教室で食べている。友人も普段は学食一択なので。

今日は声もかけてないし、だから1人で昼食ということになる。まあ、たまには悪くないよな、と弁当を開けていると何か、気配がした。

ご飯を食べ終わる頃には体育館を利用する生徒も珍しくないため人気はあってもおかしくないのだが、少し早い気がする。

何より、校舎から体育館に向かう通路は表口に繋がっているため、裏口に来るには一度体育館を半周する形になる。体育館利用者ならわざわざこっちには来ず、用事があっても体育館の中から裏口へと向かうはずだ。

けれど気配は体育館の角の方。今も曲がり角に居そうな、そんな気がしていた。

こういう時、鈍感だったらなと思いつつ、その気配がなにか確かめたいという好奇心に負けて近づいてみる。

「え?」

そこに居たのは、何がどうしたのか。

月城叶恵、その人だった。

「こんにちは、お昼、一緒にしてもいいですか?」

と思えば食事のお誘いがきた。

心の中は、なんでなんでなんで、とかどうして、とか理由を求める疑問ばっかりだったけど、口は何とか働いてくれたらしい。

「…ど、どうぞ」

戸惑いつつも、そのお誘いに乗ることが出来た。

いや、この場合乗せてあげた、が正しいような。そんな気がする。

どうでもいいか、そんなことは。

「「いただきます」」

なんか普通に食べ始めちゃってるけどいいのかこれ。

でも食事中に口を開くのは悪いよなあ。

ていうか気になることも、聞きたいこともありすぎて何から口に出せばいいか分からない。

とりあえず食事を進めるしかなかった。

「ごちそうさまでした」

僕が先に食べ終わったので、広げた弁当を片付けつつ彼女を横目で見てしまった。チラチラと見るよりはいっそジッと見た方がマシかと思い、注視しているかのような状況になっていく。

「月城さんは良かったの?教室で食べなくてさ」

まだ食べている途中で悪いとは思ったけど、気まずくなってつい聞いてしまった。まずは当たり障りないようにと、誰もが抱くような質問をぶつけてみた。

「昔みたいに、叶恵ちゃんとは読んでくれないんですか?」

「え」

またしてもスパーク。鼓動が早くなっていくのを感じる。意図せずとも勝手にボルテージが高まっていくような感覚だ。

確信はあった。確かに確信はあったけども。

その言葉の意味するところってつまり。

本当の本当に、別人とかではなく。

マジで、生きていたのに死んだことにされていたってことになるんだけど。

「あの、本当に叶恵ちゃんなの?」

「はい。本当に叶恵ちゃん、ですよ」

言い終えると何事も無かったかのように再び食事に戻る彼女。

いやいやいや、なんでそんな当然のように。

僕にとっては、人生レベルで衝撃的な事実だと言うのに。

溢れそうなでもなんで、を喉元においやって。

とりあえずは、と彼女に告げた。

「あ、いやごめん。ご飯、食べ終わるの待つよ」

今度は少し笑みを浮かべて、頷く彼女の姿が見ることが出来たのだった。


2人ともお昼を食べ終えて、特に場所を移動することも無く、その場で佇んでいた。

待つと言った手前、こっちから切り出さなきゃ行けないよな、と変に構えてしまう自分がいた。

だけどそんな僕を思ってか知らずか、先に口を開いたのは彼女の方だった。

「もう、12年も前なんだね」

「…そう、だね」

なんと言っていいか分からなかった。彼女が敬語を辞めていたことに気が回らないくらいに。

だって、彼女が生きていたからと言って、事故が無かったとは思えなかったから。必然、考えたくないけど、彼女の両親は…

「でも、私、たっくんのことを忘れたこと、無かったよ」

「……」

言えるわけが無い。悲しい思いを封印するためが何なのか、詳しいことは自分ですら分からないけど、君のことを忘れ去っていただなんて。

けれど君は生きていた。

けれど、僕は死んだと聞かされていた。

だから、そのすれ違いについて聞くことにした。

「あの、さ。叶恵ちゃん…、」

けれど、言葉が出なかった。

聞こうと思っていたのに。聞きたいのに。

それを口に出す勇気が出なかった。

だから。

「今まで、どんなふうに過ごしてきたの…?」

なんていう、聞かれた側のことを一切考えていない質問をぶつけてしまった。

だけど、君が死んだと思っていた、だなんて当の本人に向かって言えるか?

やがて、答えあぐねていたように見えた彼女の口が開いた。

「私ね、一人ぼっちになったんだ、あの時」

「うん……」

「お母さんとお父さんが居なくなって、叔母さんの家に引き取られて。とても優しくしてくれたから、立ち直ることはできたんだけど」

それでも寂しかった、と彼女は続けた。

無理もないことだと思う。僕だって、そんな状況にもなれば、その悲しみや寂しさは計り知れない。僕の場合、立ち直って、普通に暮らすことが出来たかどうかさえ分からない。

自分で聞いたことなのに、いたたまれなくなった自分に歯がゆさ、悔しさを覚える。気の利いたセリフの一つも言ってやれない自分自身が嫌だった。

今の僕には、謝るための言葉が精一杯だったんだ。

「ごめん。辛いこと思い出させちゃって」

「ううん。嬉しい。たっくんが私の事覚えててくれて」

もちろんだ、と歯の浮くようなセリフとともに吐いてしまいそうになる。今の自分自身は間違いなく覚えていた。だけどこれまでの僕は……

「……僕も嬉しい、よ。叶恵ちゃんにまた会えるなんて、思わなかった」

それが贖罪になるとは、到底思えなかったけど。ちゃんと、間違いのない自分の思いを伝えられたと思う。

死んだと聞いていたから、と伝えるには、まだ覚悟ができなかった自分が情けない。

「ひどいなぁもう」

僕の言葉に叶恵ちゃんは苦笑いしながら、昔の笑顔を思い起こさせるように言ったのだった。

結局、この時に僕の知りたかった「なんで生きてると知らせてくれなかったのか」については聞くことができなかった。


昼休みが終わる頃、僕らは2人で教室に戻っていた。もちろんそのまま2人で戻るなんてヘマはしない。

階段を上り、廊下に差しかかる所でちょっとお手洗いに、と僕はそそくさと彼女に別れを告げてトイレへ向かったのだ。

いや、だってさ、思い返すと2人きりで男女がお昼一緒だったわけで。何か関係を疑われても仕方が無い状況だったわけですよ。その上、二人一緒のタイミング教室に戻ったりしたら絶対事実無根な噂が流れるでしょ。

転校早々浮ついた噂を流されるのは彼女としても本望じゃないだろうし。

けど、若干別れるのが遅かったかもしれない。校舎に入る前にしておけばよかったかな、と手洗い場の鏡の前で思うのだった。

用を足してトイレを出て、教室のある廊下に差し掛かる。掲示板には部活勧誘のポスターなど色々とあったが、一番僕が目を引かれたのはまたそれとは異質なものだった。

「綺羅山灯【公式】ファンクラブ、ねぇ?」

言葉に出したまま、文字通りファンクラブの勧誘ポスターだった。一応、噂として1年の頃そういうファンクラブが生まれた、みたいな事は聞いた覚えがある。

というか、そのことすら今思い出した。なんでだろ、こんだけ異質なものだって思ってたはずなのに。だって、おかしいでしょ。

ポスターのある部分に目をやる。

入会費:タダ。

月会費:参加手続きの際に詳しくご説明致します。

「そうだ、会費とるんだよな…」

僕のつぶやきは、僕以外誰も聞いていない。

まず、綺羅山灯という名前は昨日までの時点でこの学園に通っている生徒なら知らない人はいない、学園の有名人のことである。

すれ違えば三度見必然の美貌、声をかけられれば1週間は幸運が続く、なんて噂すら立っている。間違いなく、この学園で一番可愛い女子だ。

って友人が言っていた。一応、僕もすれ違ったことはあるが確かにめちゃくちゃ可愛い子だった。当時は1年だったので今もそうかは分からないけど、パッチリお目目に制服の上からでもわかる抜群のスタイル、まるでアイドルかと見紛うような風貌は、確かに三度見必然のキャッチコピーにふさわしい。

友人曰く、性格も最高とのこと。人当たりがよく、先生にも生徒にも好かれていて、成績も運動勉強どちらも優秀で、まさに天が二物も三物も与えた存在、後光が差してたなんていう噂すらある。

とまあ、本人との直接的な関わりのない僕ですら耳に入るほどの有名人だ。

それだけならまぁ、生まれた時代が最高だった、っていう話で済むんだけど。

ファンクラブがあるのは有り得んでしょ。

しかも公式て。ただの一般人の囲いに公式も非公式もあるかって話ですよ。

というか学園側が容認してるのがやばすぎる。こんなもん、即刻対処すべき問題でしょ普通は。

叶恵ちゃんの死が嘘だったこと程では無いにしろ、現実的とは思えない。

校内で、有志の人が、いくら人気があるとはいえ一女子生徒を対象としたファンクラブを作って、会費すら巻き上げてるだなんてどう考えてもおかしいでしょ。

そんな、実際起きてしまっている現実への疑問というか違和感が、教室に戻る最中も僕の頭の中で蠢いていた。


ブツブツと独り言を呟きそうになる心を抑えて、教室の前に差し掛かったときだ。

「あ」

「あ、じゃねえし。タクト、探してたんだけど」

目の前のぶっきらぼうな態度をとる女子の名前は宙川瑠璃。同級生で、同クラスで、同じ中学出身で。

「ご飯、一緒に食べたかったのに」

この学園で一番の、問題児である。

何度でも言う。この学園、どころか中学の頃から問題児として名前が知られていた。女子の中でも特に喧嘩っぱやく、すぐ手が出る。しかも強いもんだから、中学の頃は上級生含めて誰も歯が立たなかったって話だ。僕は見た事は無いけどよく教師に素行不良で叱られているのは見ていたのでその話も噂程度には聞いていた。

容姿だけなら、多少目つきが鋭いくらいでそう邪険にされるようなところはない。むしろ実際は筋肉質なのであろう手足や整った顔立ちは意外と人気だったりする。制服もいじったりしてないようだし。これは中学の時からなのでうたがってなかったりする。

そんな彼女だが、何故か僕に対しては一貫して柔らかい態度をとる。今もそう、噂の問題児はどこ行ったのよってくらい乙女なフィール。

「宙川さん、前にも言ったと思うけど、教室以外だと僕はあそこでしかご飯食べることはないよ」

あそこといえのはもちろん空きスペースのことだ。1年もあれば、彼女にだって伝える機会はあったし、実際誘ったこともあった…と思う。

「ッ…。だってお前、あそこで食べる時は1人じゃないじゃん。壱村と一緒じゃん」

それの何がいけないのだろう?

ちなみに、壱村というのは僕の友人のことを指している。

「もういい!明日も来るから!」

僕のそれがどうしたって表情を見たのか、彼女は顔を紅潮させて言い放つと去っていった。

いや、君同じクラスでしょ…

どこ行くのよ、という疑問は教室の喧騒の中に消えていった。


よくよく思えば、彼女の態度も僕にとっては違和感のひとつだ。何せ思い当たる理由がない。理由無く、何年も人に優しくできるものだろうか。

月城叶恵が死んではいなかったこと。

綺羅山灯のファンクラブ。

宙川瑠璃の理由のない柔らかな態度。

そのどれも、同質の違和感である気がする。

理屈のない、不自然に用意された出来事であるかのような、上手く言葉にできない違和感。

そして、これまでの僕だったら絶対に気づけない違和感だ。

これは、ある意味指針なのかもしれない。

僕とは違う僕が居て、これまで暮らしていたことは多分、信じたくないけど事実なのだと思う。それくらい、叶恵ちゃんの死という喪失は僕を閉ざしていたもののはずなのだ。

新しく生まれた、なんて思いたくないけれど、今の僕とこれまでの僕は違う。僕は僕自身の違和感に気づくことができた。

現実を生きているのは僕の方で、これまでの僕は生かされていただけの虚構だ。

なんか厨二ったらしいけれど、そう思うと今の僕にも存在意義を見いだせるような気がしてきて。

逢沢拓人の物語は、ここから始まるのだと、柄にもなくそんなことを思っていた。



午後の授業は、あまり集中できなかった。昼休みに考えた違和感についてのことを思ったとき、こんなふうに違和感を抱いてるのが自分だけなのかとそんな風に考えてしまって疎外感を覚えてしまったから。

叶恵ちゃんと宙川さんのことは、僕という主観を通す必要があってこその違和感だと思うし、それについては他人がどうこう思うことでは無いとは分かる。だけどファンクラブは、どう考えても不自然だ。誰がまきあげているのか分からないが、学生から搾取しているような活動内容もよく分からないクラブを学校が放置しているなんて。

そういう違和感を挙げていこうとすると、今の僕からしたら割とキリがないな、とも感じてしまっていた。

とりあえず現状で、僕だからこそ抱くことができたであろうものを列挙する。

①月城叶恵の生存連絡の不備…確認する必要はあるけど、彼女の物言いからして僕にも生きていること自体は伝わっていると思ってそうだったのが引っかかっている。

②宙川瑠璃の僕に対する態度…恥ずかしい話、これまでの僕は割とオタク趣味、というかアニメや漫画・ゲームなど手広く触れてきた。偏見ありかもしれないが、趣味の面でも、彼女が僕に向ける態度の理由、原因が分からない。

③綺羅山灯のファンクラブ…実在するのか含めて実態調査の必要はあるが、あるとすれば間違いなく問題だ。綺羅山さん自身は知っているのだろうか。

④高校生探偵:姫宮しらべ…深いことは知らないけど、この学園には高校生にしていくつもの事件解決に協力してきた女子が居るらしく、その名前はメディアでも取り上げられていたほど。ついこの前もネットニュースになっていたから名前を覚えていたのだが、同級生らしい。


とまあ、今思いつく上であからさまに僕がおかしいなと思うのはこの4つ。特に後半2つは現実離れしていて、まるで創作の物語に登場するキャラクターのようだ。

なんだよ高校生探偵って。

なんでそれに対して今の今まで何一つ疑問を抱かなかったんだ僕は。同じ学園の中に居たのに。あまりにも僕の常識から外れてることだろこれは。

ちょっと待てよ。

まさか、探偵が事件を連れてやってくる、なんてことはないよな?

……やばそうだから、調べるにしても一番最後にしよう。

後半2つのものに対する違和感が、僕だけのものでないなら、とっくに誰かが対応してるはずだ。ファンクラブはもちろん、高校生探偵なんて、一生徒の名前がネットで出回るとか、学園側としても簡単に容認できるはずがないと思うんだけど。

つまり、違和感を抱いているのは僕だけなのか。それも、今こうして考えにふけっている僕だけか。

まるで、創作された物語に登場する設定だ。

ファンタジーとでも言わざるを得ない。

だって、今こうしている自分は現実の存在だと、違和感を抱けるのはそう言うことだと思うから。現実的では無い部分が浮き彫りに見えてしまうのだと思うことにした。

4つの幻想(ファンタジー)。

1人の現実(リアル)。

ひょっとして、僕が暮らすこの世界は、誰かによって創られた、物語の舞台なのかもしれない。

なんて、ね。それこそ妄想だろう。

現に今の僕は自分の意思を持っている。

けれど。

だからこそ、と自分自身を省みてみると考えてしまう。

これまでの僕は、どうだったんだ?

違和感を放ったまま、周囲と同じように過ごしてきた自分に、今の僕のような意思なんてあったのだろうか。

違和感を違和感と捉えずに放っておいたことこそ、自分もかつてはこの世界の幻想の一部だった証拠なのではないか。

そう思うと、今の自分が何者かますます分からなくなる。

だってそれは。

他でもない今の自分が、この世界では異物に等しい存在であると言っているようなものだから。

この世界でまともなのは僕以外で。

まともだと思っている自分こそ、この世界においてはまともじゃない。

なら、どうすればいいか。決まってる。

この世界が創られたものだと、僕なら仮定できる。いや、きっと僕にしかできない。

世界が結末ごと確定したまま創られたのなら、誰も彼も用意された道の上を歩んでいることになる。それを、人は運命と呼ぶのだろう。

僕なら、その運命から外れることができるんじゃないのか。

そしてそれは、この物語の結末を変えられることができる、ということ。

例え、どんなにハッピーな結末が用意されていたとしても。どんなに苦しいバッドな結末が用意されていても。

自分自身で選ばなかった結末に辿り着くなんてことは、したくない。

僕は、世界に決められたことを成すんじゃない。 そんな、舗装された道筋は歩まない。

自分自身で決めた意志を成し遂げる。

いつだって、主人公は自分自身。

僕は、主人公なのだから。

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