第2話 自殺

 私は馬車で生計を立てている人間だ。この大きな町、ティモワール近辺で馬車を走らせ金を稼いでいる。冒険者を乗せたり貴族を乗せたりして生計を立てていた。そんな私だが、最近母が病気になった。その病気の名は凝固病。体が硬くなっていく病気で、腕のいい医者でないと治せない病気らしい。その治療費にかかる金は、私の貯金をはるかに超える白金貨50枚。私はそんなに稼げる仕事をしているわけではない。だが、それでも母のために貯金をため続けた。やっと白金貨2枚分は行ったが到底凝固病を治せる金額ではない。稼ぐために夜も馬車を走らせることになり今馬車を走らせている。相手は貴族の女性、赤ん坊を持っていて夜に森を抜けて隣町のグラナダまで行くらしい。私は彼女が白金貨1枚を払ってくれると聞いた時即興で依頼を請け負った。だが、怪しいと思わなければならなかったかもしれない。


「どうしてこんなところにドラゴンが......」

「やった。これで死ねる」

「お客様!!分かっていたのですか」


 森の中でゴールドランク冒険者が討伐を依頼されるほど強いドラゴンに遭ってしまった。だが、依頼者の女性はそれを何らかの形で分かっていたらしい。女性は自殺しに来たようだった。ドラゴンの凶暴な瞳がこちらを見るだけでもこちらも馬もビクビクしていた。


「ヒヒーン」

「こら。ここは逃げることを考えるんだ」

「あなた、ドラゴンの方に馬車を走らせなさい。じゃなければ白金貨は没収よ」

「ええい。どうでもいい。逃げ」


 ドラゴンの吐く炎の息がこちらの馬車を燃やす。退路は残されていないようなものだった。完全にドラゴンはこちらを襲うことを考えていた。


「ひっ」

「あはははは」


 そのまま馬車はドラゴンに襲われた。ドラゴンは馬に食らいついている。今のうちに逃げなくては。


「あの人とは結婚はしたくなかった。この子ごと食い尽くしてちょうだいどらごんさん」

「そんな。そんなのは母親じゃない」


 私は咄嗟に貴族の女性から赤ん坊を奪い逃げだした。貴族の女性は別に逃げたりしなかった。


「ああ、クリス。本当は貴方と結婚したかった。あの男。あの男のせいでこんなことになってしまった。ごめんねクリス。私に生きろと言ったけれども貴方のいない世界なんて生きていられない。私もそっちの方に今逝くわ」


 私はふざけるなと言いたかった。母親がこんなようでは子どもがとても可哀そうだ。自分の母親は自分のことを大切に育ててくれたが、だからこそ病気を治すために今自分がいるのだ。だが、ここは子どもを守るために無視して逃げて行った。

 今度は女性の方をドラゴンが食らっている。今のうちに自分は隠れた。だが、こちらの方にドラゴンの目が行き、追いかけてきた。


「糞っ。どうしてこんな依頼に乗ってしまったんだ」

「ガオーーー」


 森の中を走って逃げる。ドラゴンは走って追いかけてきたが自分が追いかけている隙に子供を草むらに隠した。これで助かることはほぼないだろうが助かることを祈っている。


「この怪物が。私が目的なんだろう。追いかけて来いよ」


 そのままドラゴンは私を追いかけて牙をむき私は食われた。人生で一番痛みを感じた瞬間だった。

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