1話から10話までのあらすじ・登場人物
ヘルヘイム皇国では、皇太子アグレウスの末子アールヴの成人の儀が執り行われた。
平民出身の側室が産んだ子であるにもかかわらず親王の宣下があり皇位継承権が与えられた事、アグレウスの弟でありヨトゥンヘイムの王太子でもあるオリアスが後見となった事で、廷臣や貴族たちは驚愕し、さまざまな憶測が飛んだ。
アグレウスの第一王子であるザガムと第二王子のダンタリオンは次期皇太子の座を巡って対立していたが、アールヴも次期皇太子になりうるのだと考え、危機感を覚える。
その一方で、父であるヨトゥンヘイム王スリュムに毛嫌いされているアグレウスは、自分の次期ヘルヘイム皇帝としての地位が脅かされ、弟のオリアスをヘルヘイムの統治者としても擁立しようと企てる者が存在するのではないかと危惧する。
百年前、政争に疲れたアグレウスは、心の平穏を得るために、他の女にはない
深く落胆したアグレウスは反魂術をもってリディアを蘇生させようと試み、その器にする為にアールヴを死霊たちに育てさせた。
アールヴは反魂術の為の器にはならなかったが、素直で無垢な子に育った。
アグレウスは、アールヴがいつまでも純粋で父親だけを頼りにする子供のままでいる事を望み、充分な教育も受けさせなかった。
その事を知ったオリアスはアグレウスのやりかたを非難し、アールヴをヨトゥンヘイムに連れて行ってスリュムたちに引き合わせる。
オリアスはアグレウスが気づいていないアールヴの特殊な能力を見抜いており、アグレウスがそれを戦に利用する事を懸念していた。
ヘルヘイムに戻ったアールヴはヨトゥンヘイムでの経験を楽しげに語り、アグレウスを不快にさせる。
アグレウスは言葉巧みにアールヴを説得し、ヘルヘイムに留まらせた。
第四王子フォルカスは、深夜、赤毛の侍女と密会しているのを妹のグレモリーに見咎められる。
彼ら兄妹の母は、故国をアグレウスに滅ぼされた事を最期まで怨んでいたが、フォルカスは権力よりも、他の事に幸せを見出すべきだと言って、その野心のなさを妹に軽蔑される。
第二王子ダンタリオンの母ヘレナからアールヴに差し入れられた菓子を食べた毒見役が倒れ、ダンタリオン母子は幽閉され、侍女たちは厳しく取り調べられた。
安全の為、アールヴを暫くヨトゥンヘイムに滞在させる事を女皇フレイヤに提案され、アグレウスは事件の首謀者がオリアスの側近のヴィトルであり、アールヴをヨトゥンヘイムに再び連れ去る事が目的では無いかと勘繰る。
その一方で、ザガムがダンタリオンを陥れる為に罠を仕組んだ可能性も疑っていた。
ザガムの側近ハーゲンティは、ザガムがアグレウスに嫌疑をかけられる可能性を
彼はまた、毒殺未遂事件の首謀者がザガムとダンタリオン両者の失脚を目的としており、アールヴを次期皇太子として擁立させる企みのある可能性を示唆する。
再びヨトゥンヘイムを訪れたアールヴに、オリアスは自分の側近であるヴィトルを教育係につけ、異母兄にも守役を依頼していた。
ヴィトルは、アールヴが自分や母と同じ血を引いている事を感じ取り、オリアスに報告する。
オリアスは、その事を秘密にすると共に、リディアの身元を調べる事をヴィトルに命じた。
アグレウスは毒殺未遂事件の捜査を進めさせていたが何らの証拠もあがらず、ヴィトルが首謀者であった疑いを深める。
そして、事態を収拾するために毒見役が倒れたのは食あたりが原因であり、毒殺未遂事件はなかったものとして捜査を打ち切った。
そして危険が去ったのでアールヴをヘルヘイムに返すように要求したが、アグレウスがアールヴの能力に気づけば、それを利用してヨトゥンヘイムと敵対すると確信するスリュムは、アグレウスの要求を拒否した。
10話までの登場人物
□ ヘルヘイム側
アグレウス=スリヴァルディ
ヘルヘイムの皇太子。
長身で長い黒髪、微かに灰色がかった薄い蒼の瞳を持ち、優美で見る者を圧倒する程の威厳がある。
ヘルヘイム皇家の血族としての矜持が非常に高く、父や異母兄たちを「野蛮で下品」と見下しており、彼らからは「軟弱なうらなり」と侮蔑されている。
その為、将来のヘルヘイム皇帝の地位を脅かされる事を危惧し、立場を固めるために周辺の小国を次々と保護下に置き、その王女たちを側室として支配を強めた。
側室や側室に産ませた子供たちは保護国支配のための道具としか考えておらず愛情も持たないが、唯一、心の平穏をもたらしてくれたリディアの死は深く悼み、彼女が産んだアールヴは特別に寵愛している。
アグレウスはヘルヘイムでの呼び名、スリヴァルディはヨトゥンヘイムでの呼称であるが、スリヴァルディの名で呼ぶ者はいない。
フレイヤ
ヘルヘイムの女皇。アグレウスとオリアスの母。
足首にかかる程に長い金色の髪、透けるように白い肌、深い碧の瞳を持ち、「ヘルヘイム一の美姫」と謳われる。
百年戦争でヨトゥンヘイムに敗れたヘルヘイムを対等な連合王国とする事、二人の間に生まれた第一の男子をヘルヘイムの次期皇帝、第二の男子をヨトゥンヘイムの次期王とする事を条件に、スリュムの求婚を受け入れた。
生まれつき片足が不自由で、杖をつかなければ歩けない事を気にしている。
アールヴ
アグレウスが平民出身の側室であるリディアに産ませた子。
癖の無い亜麻色の髪と、それよりも薄い色の瞳を持ち、華奢な少年のような外見をしている。
死んだリディアを蘇生させる反魂術の器とする為、死霊に育てられた。
反魂術の器とはならなかったが、リディアに生き写しの容姿と無垢で素直な性格からアグレウスの寵愛を受ける。
特別な能力を持っているが、アグレウスは気づいていない。
ザガム
アグレウスの第一王子。
祖父スリュムに似たヒグマのような外見をしているが、似ているのは外見のみで、祖父からは「見掛け倒し」と酷評された。
アグレウスの長男として当然、次の皇太子になるものと思っていたが、アグレウスが誰を次の皇太子に指名するか不透明になった為、弟たちの存在を危険視している。
ダンタリオン
アグレウスの第二王子。
髪質の硬い濃い茶色の髪と同じ色の瞳を持ち、肌は浅黒く輪郭はごつく、父親に似せようと努力しているものの、遥かに見劣りがしている。
ザガム同様に次期皇太子の座を狙い、兄弟たちを敵視している。
フォルカス
アグレウスの第四王子。
明るい栗色の巻き毛に金色がかった琥珀色の瞳を持つ好男子。
耳に心地よい声を持ち、常に穏やかな微笑を整った口元に浮かべて話し方などもおっとりしており、多くの侍女や少なからぬ数の貴族の令嬢たちの心を惑わせているが、同じく少なくない数の者たちから、浮薄な八方美人と揶揄されている。
妹のグレモリーからは、野心のなさを軽蔑されている。
グレモリー
フォルカスの同腹の妹。
兄に似た美しい容姿をしている。
成人の折に内親王の宣下がなかった為、皇位継承権を持たず臣下扱いされる公女となり、兄の侍女として宮中で仕えている。
自分の境遇に不満を抱いており、亡くなった母同様に、母の故国を父・アグレウスに滅ぼされた事を怨んでいる。
リディア
アグレウスが滅ぼした公国で、貴族に仕えていた平民出身の侍女。
アールヴと同じく、癖の無い亜麻色の髪と、それよりも薄い色の瞳を持ち、華奢な少女のような外見。
殺戮と虐殺が尽くされた戦の後でも平穏さを失わず、敵に対する恐怖も憎悪も見せなかった。
全てを受け入れ、覚悟し、だがまだ諦めはしない強い意志の持ち主。
ドロテア
アグレウス付きの侍女。かつてはアグレウスの乳母だった。
由緒ある貴族の出身で、めったに感情を表す事が無い。
ハーゲンティ
ザガムの側近。
ザガムの言動のせいで彼が不利にならないよう、
ヘレナ
アグレウスの側室の一人。ダンタリオンの母。
アグレウスに侵略され、保護国となった国の元王女。
□ ヨトゥンヘイム側
オリアス=アルヴァルディ
ヘルヘイムの第二皇子にして、ヨトゥンヘイムの王太子。
長身で長い黒髪と明るい翠の瞳を持つ。
ヨトゥンヘイムで育てられた為、ヨトゥンヘイム流の
文武両道に優れ、価値観の異なるヘルヘイムとヨトゥンヘイムの橋渡し役を務めている。
父と兄の不仲を悲しむべき事だと考えてはいるが、和解は不可能であろうと、半ば諦めている。
異母兄たちとも仲が良い。
オリアスは母・フレイヤがつけた名でヘルヘイムでの呼び名、アルヴァルディは父・スリュムがつけた名でヨトゥンヘイムでの呼称。
スリュム
ヨトゥンヘイムの覇王。アグレウスとオリアスの父。
小山のように大きく屈強な身体を持ち、髪は黒く無造作に伸び、浅黒い顔は黒い髭で覆われている。
百年戦争でヘルヘイムを侵略した際、フレイヤの美貌に惹かれ、対等な連合王国とする条件と引き換えに結婚した。
元は豪族の家臣で、下克上により成り上がり、ヨトゥンヘイムの王となった。
戦に明け暮れた生涯を送り戦そのものを好む性格だが、大国の王となった以上、戦に勝つだけでなく国を治める必要もあるのだという自覚は持っている。
オリアスに全幅の信頼を置き、政治の殆どを任せる一方、戦士ではないアグレウスを軽蔑し、嫌悪している。
ギリング
スリュムの長男。フレイヤとの結婚前に、側室に産ませた息子。
スリュムに似た外見で、瞳の色は薄い灰色。
優れた戦士だが短気な面があり、口が悪くずけずけと物を言う。
ゲイルロズ
スリュムの次男。ギリングの母とは別の側室が産んだ子。
鋼鉄のような髪と瞳を持ち、岩のように無口でほとんど誰とも言葉を交わさない。
弓の名手。
ベルゲルミル
スリュムの三男。ゲイルロズの同腹の弟。
赤毛で赤ひげ、茶色の瞳の持ち主。
単純な性格で何を言われても平然としている。
素手の格闘が得意で、猛獣を生け捕りにして飼い慣らすのが趣味。
ヴィトル
オリアスの側近で、乳母の一人息子でもある。
銀色の髪と、紫水晶のような瞳を持つもの静かな男。
聡明そうな外見の通りに教養深く、オリアスが成人するまでは教育係として仕えており、ヨトゥンヘイムでは『賢者ヴィトル』の通り名で呼ばれている。
アグレウスからは、何を考えているのか図りがたく、底の読めない男だと危惧されている。
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