2話 青春時代を過ごした思い出のダンジョンへ
「えー! やめたほうがいいっすよ~」
YawTubeでダンジョン配信をしたい。
そう、職場の後輩に、ご飯を奢って相談し、返ってきた答えはこれだった。
彼女の名前は真白 玲夏(ましろれな)。昔はフリーターをしながらYawTuberをしていたそうだが、今はアキナと同じグループホームで介護のアルバイトをしながら、動画編集やカメラマンといった裏方の仕事をしているという20歳の女の子だ。日サロでコンガリと焼いた小麦色の肌に金髪の、いわゆるギャルだが、年上のアキナとも仲良くしてくれるいい子だ。
「そ、そうなの……」
ダンジョン探索の経験は100回以上ある。特に今、話題になっている【生態系の迷宮】は、パーティーの生活費を稼ぐのに便利だったので何十回と通った。各階層ごとの細かな特徴やレアアイテムがよく入っている宝箱の場所も覚えている。
しかし、アキナはYawTubeを見ることはあるが、基本的にはTV派で配信の事はよく分からない。
また、生態系の迷宮の散策には慣れているといっても、20年近いブランクがあるので、今は変わっている所もあるかも知れない。
なので、不安を無くすためにYawTube事情に明るいレナの話を聞こうと思ったのだが……。
「アキさん、モンスターもふもふ系と探索バトル系、どっちで行く予定っすか?」
いきなり知らない言葉が飛び出した。モンスターもふもふ系とは、よくある動物の可愛い動画のモンスターバージョンを撮影するということだろうか? もしそうなら、自分にはできそうにない。
「た、探索バトル系かな」
「そうですよねえ。もふもふ系は壊れにくいドローンを買って撮るのが普通ですもんね」
「そ、そうなの?」
「あちゃ~。そこからなんっすね」
レナは苦笑いを浮かべて頭をかいた後、再び口を開いた。
「いくら可愛いからって、モンスターに近づいて、もふもふしたところを撮るなんてやばくないっすか。だから頑丈だけど10万円以上はするドローンで遠隔撮影するんっすよ」
「じゃ、じゃあ探索バトル系はどうなの?」
「うーん。もふもふ系よりはコスパ良いかもっすけど、探索の装備やアイテムとかにも結構かかりますよ」
(それなら、おカネは掛からないわね)
異世界では魔法が使える。ならばまず怪我をしない。
家計が苦しいので、撮影経費を抑えたかったアキナはホッと胸を降ろす。
「で、ここからが大事なポイントっすけど、アキさん、なにか武道とか格闘技っぽいの、やったことあるんっすか?」
「な、ないかな」
「じゃ、ちょっとハードル高いかもしれないっすね。バズるためには映えることが大事なんッスよ」
(ばずるってなに? ばえるはインスタ映えとかの事かしら?)
「れなちゃん、詳しく教えてもらえる?」
「ただ深い階層に行くだけの攻略動画なんて、見てても地味でテンション上がんないっすよね。レアアイテムとか見つけても、世界が違うウチらには価値わかんないからピンと来ないじゃないっすか」
「そ、そうね……」
確かに、人を楽しませる工夫をしなければ動画を見てもらえる訳がない。
見てもらえなければ肝心なおカネが入ってこない。
ダンジョンを攻略することばかり考えて、大事な事に気づいていなかった。
「だから見てパッとわかるカッコいいアクションができるとか、ウケるトークができるとか、ビジュアルがいいとか、そんなのが大事なんっすよね。アキさんは歳の割には可愛い方だと思うっすけど……」
レナは可愛いとお世辞を言ってくれているが、今の自分は歳のせいで、しわ、染み、たるみがいっぱいある。
また苦労のせいか実年齢より老け込んでいる様にも感じる。
いやそれ以前に、ダンジョン配信のコア視聴者層は10代から20代後半だと聞いている。この歳の子達が30代後半の自分のビジュアルに惹かれることはまずないだろう。
次にトーク。人の気持ちを鼓舞したり、心の傷を癒したりする様な話は戦場や貧しい街で何度もやってきた。だが20年近いブランクがある。いや、こういった時に人を導く話術と動画を面白く見せるトークスキルは全く別物だ。役には立たないだろう。
最後に映えるアクション。自分は聖女、治癒や補助を行う後衛補助職だ。戦士のように人を魅了する激しいアクションはできないし、魔法使いのように目を引く派手な攻撃魔法は放てない。
「ちな、やってる友達から聞いたんっすけど、ダンジョン配信やる奴めっちゃ増えたみたいで、もう決まった配信者しか再生伸びないらしいっす。だから新しく始めるのめっちゃハードル高いっすよ」
「そんな、まだ次元の穴が開いて半年しか経ってないじゃない」
「バズる動画の流行り廃りって、むっちゃ早いんっすよ」
「……そっか」
「ぶっちゃけウチも昔、ダンジョン配信やったんッスけど、そん時は今より全然競争激しくないのに、全然再生とれなかったっすね」
(どうしよう、配信に必要なものは、調べて全部買っちゃっているのに……)
過去の経験を活かして、今の仕事をしながら必要なお金を稼げると思っていたアキナの心は深く沈む。
辛いがやはり熟女風俗で働くしかないようだ。
そんな気持ちを察したのかレナが励ます様に声をかけてきた。
「ダンジョンってどんな感じなのかちょっとだけ見てみません? この近くの公園にも入り口あるし、どうっすか?」
「分かった。ありがとう、れなちゃん」
レナの顔を眺めながら、アキナは精一杯微笑んだ。
家族の為に必要なおカネを稼ぐには、もう熟女風俗で働くしかないのだ。
悩むことといえば、風俗1本に収入をしぼるか、今の仕事を続けながら隠れてやるかくらいだ。
辛いが仕方がない。
その前に、もう二度と行くことがないと思っていた青春時代をすごした異世界に行き、懐かしい思い出に浸りたくなった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ご拝読いただききありがとうございます。
レナの見立てとは異なり、アキナはこれからバズって人気ダンジョン配信者になっていきます!
もう少し読み進めて頂ければ最初のバズシーンになりますので、続きを読んで頂ければ嬉しいです。
この小説が面白いと思って頂けましたら、執筆する励みにもなりますので、★とフォローを御願いいたします!
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